見出し画像

【ダルビッシュ有の強さ】「尽きない探究心」スポーツメンタルコーチ鈴木颯人が紐解く海外アスリートの強さの秘密

今回はかつて日本の野球界を無双して日本最強のピッチャーの名を欲しいままにし、満を持してメジャーデビュー。今もなおメジャーで大活躍中のダルビッシュ有選手について迫ります。

メジャーデビュー後初年度年間16勝をあげる快挙を成し遂げ、現在10年以上メジャーリーグでプレーしており昨年2020年では最優秀投手賞「サイ・ヤング賞」の優勝一歩手前の2位という成績を残したダルビッシュ選手。

SNS等で度々ストレートで的を射た強気な発信が注目されるダルビッシュ選手ですが何が彼をここまで強くしたのか。その強さの秘訣についてスポーツメンタルコーチの鈴木颯人さんと紐解いていきます。

対談者プロフィール

画像1

・鈴木颯人 ~スポーツメンタルコーチ~ 
1983年、イギリス生まれの東京育ち。一般社団法人日本スポーツメンタルコーチ協会代表理事。サッカー、水泳、柔道、サーフィン、競輪、卓球、BMXレーシングなど、競技・プロアマ・有名無名を問わず、多くのアスリートのモチベーションを引き出すコーチングを行っている。

画像2

・畠山大樹 ~BMXレーシング元日本代表~
1992年、神奈川県寒川町出身。株式会社Winspired代表取締役社長。学生時代にBMXレーシングにて日本代表経験あり。BMXレーシングとマウンテンバイク4Xの競技経験を活かし、現在はアクションスポーツ業界の発展のため、アスリートマネジメントを始め、翻訳・通訳、スポーツライター、BMXスクール運営を多岐にわたり行っている。実妹がBMXプロレーサーの畠山紗英。

スポーツメンタルコーチが思うダルビッシュ選手の印象

畠山) 最初にお詫びしておきたいことがあります。今回ダルビッシュ有選手のことを取り上げておきながら実は全然ダルビッシュ選手のことを知らないので、失礼な質問かもしれないですが、ダルビッシュ選手は何を強みにされている選手でしょうか?変化球でしたか?

鈴木) そうなんですね(笑) ダルビッシュ選手といえばもちろん多彩な変化球もそうですが、ものすごい速いストレートを投げるということで有名です。

畠山) ストレートも強い選手なんですか。無知ですいません。。

鈴木) はい。それでいて手足がとても長いので日本人離れした選手としてすごい注目を浴びた選手です。メジャーへ移る直前なんてもう日本では無双状態で敵無しでしたよ。

畠山) そんなに凄い選手だったんですね。

鈴木) 私の友人にダルビッシュ選手と当時一緒にプレーしていた日本ハムファイターズの元内野手で今浪さんという方がいるんですが、彼についてダルビッシュ選手が「僕が抑えるのでセカンドは今浪さんに守らせてあげてください」って監督に言ったエピソードがあるんです。

その話を聞いて彼は性格的にも相当自信家だなと感じましたしが、生まれ持った身体能力という先天的な才能の上に、努力し続けることができるっていう後天的な才能を手に入れた機運なピッチャーだと思います。

畠山) ピッチャーとして必要な資質と能力は兼ね備えていて、日本では行くところまで行ったから満を持してメジャーデビューする形になったんですね。

鈴木) メジャーデビューしてからは野球だけはなくYoutubeを始めたり、Twitterも頻繁に更新したり、一方でテレビでは栄養学や脳科学を勉強している姿が特集されたりと(前回記事の)羽生選手と同様に自己への探究が凄い好きな人なんだと感じます。

畠山) 私も色々調べている中で探究心が凄い方という印象を持ちました。それこそ変化球の話では常に自分の投球を研究して精度を高くしたり、その中で新たな変化球を開発したりと成長のためにとことん突き詰めることができる方なんだなと感じます。
またそれがスポーツの分野だけではなく様々な分野から情報収集して色々な角度から分析できることが凄いです。

鈴木) ザ・アスリートですよね。

畠山) 本当のアスリートって感じがしますね。それにメンタル面もとても強いんだろうなと彼の発言を見ていて思います。

メンタルを鍛えた様々な辛い経験

鈴木) 確かにダルビッシュ選手のメンタルは目を見張るものがあります。ダルビッシュ選手は怪我も多く経験されていますから、そういう怪我からの復帰という肉体面の辛い経験からもメンタルはかなり鍛えられたのではと思います。

畠山) 怪我からの復帰は相当なメンタルが必要ですよね。特にダルビッシュ選手の右肘靭帯の怪我のリハビリはとても苦しかったんじゃないかなと思います。
また投げられるようになるまで長い治療期間を要しますし、彼が期待されているピッチャーであるだけに自分のピッチングを取り戻せるのかという不安との戦いもあったと思います。

鈴木) 肘のリハビリは精神的にもかなり孤独と言われているので、彼はリハビリの過程で肉体面だけではなく精神面でも相当鍛錬されたと思います。

畠山) 間違えないです。僕も競技中に左手首を複雑骨折したことがありますが、リハビリは辛かったです。怪我した箇所が手だったこともあり普段の生活ができるレベルに戻してから競技できるようになるまでかなり苦労しました。

鈴木) そうだったんですか。。後遺症も無く回復されて良かったです。
ちなみにダルビッシュ選手はそういった怪我とは別に一時期精神的に落ち込んでいた時期もあったことはご存知でしたか?

畠山) はい。「家でもずっと動けず、ちょっと外に行ってもすぐ疲れて、妻にも凄く迷惑をかけた。」って仰られている記事(*1)は目を通しておりました。

鈴木) その期間でもメンタルについて相当勉強されたようです。彼の凄いところはしっかり勉強したことが自身に活かされているということです。結果を残すアスリートは共通して自分の身体のことは自分でしっかり調べていると感じます。

新しいことを主体的に学ぶ力

鈴木) それにダルビッシュ選手レベルですと相当詳しく調べていると思うので、身体のこともトレーナー並みに詳しいでしょうし、メンタルのこともとても詳しいと思います。彼を見ていると改めて自分で勉強できる能力って凄い大事だと感じます。

畠山) 主体的に学ぶ力ですね。

鈴木) 彼は特にその力が長けていると思います。そうでなければ先駆けてYoutubeを始めたりしなかったと思います。

畠山) 確かにYoutubeブームが来てから、アスリートの中では真っ先に始めていた印象があります。

鈴木) 彼は当時やり方が分からない中でもいろんな人に聞いては手探りでやっていましたし、自分が分からないことは人に躊躇なく聞ける力があります。それも一般の人に聞いたりしていたことが凄いです。

畠山) 普通ならプライドが邪魔してなかなか聞けないことが多いですからね。

鈴木) ダルビッシュ選手の場合は実はプライドがあるようで無くて、それどころかプライドの概念すら彼には存在しないのかもしれないです。

畠山) どんな手段でも自分が成長するために必要なことはやるという考え方ですね。

鈴木) 自分から一般の人にコミュニケーションを取れることは彼の強みです。普通の野球選手は何を言われるか分からないという恐怖心から一般の人に絡みに行こうとはしないです。

畠山) 最近はアスリートへの誹謗中傷も問題になっていますからそう思う理由はよく分かります。

鈴木) はい。でもダルビッシュ選手はそういうことに全く臆せず行動しますし、むしろネガティブな声や間違った情報に対してはしっかり反論しますよね。私なら絶対やりたいと思いません(笑)

畠山) いわゆるアンチへの対応については得する行動ではないと僕も思います。

鈴木) それでもみんなが興味のあることを一流トップアスリートがSNS等を活用して自ら発信してくれることは嬉しいことです。でもこれが現代スポーツの在り方なんだと思います。

畠山) いろんな情報に簡単にアクセスしやすくなった今だからこそ需要がありますよね。

鈴木) 「SNSを上手く活用できないアスリートほど、これから淘汰されていくのでは?」という話をとあるSNSの会社さんと以前お話ししたんですがその通りになっていると感じます。

畠山) 同感です。特にマイナースポーツに関しては競技より先にアスリートを知ってもらうことで競技の認知度が上がることが多いので、SNS等で発信力を持つことはいろんなマイナースポーツのアスリートに求められることだと思います。

またダルビッシュ選手のSNSでの発信も見ていると、他の野球選手に比べると良い意味で異質ですし、一般の方が気になる彼の意見を包み隠さず発言されていて凄い選手だなと感じます。

鈴木) はい。稀に見る非常に興味深いアスリートの1人です。

成長のために自らを追い込んで見えた次のレベル

畠山) Youtubeや様々な分野での活動も広げている一方で、しっかり本業の野球でも結果を残していますね。去年の2020年は最優秀投手賞「サイ・ヤング賞」での優勝は逃していますが、2位という成績もとても凄いことだと思います。

鈴木) もう35歳ですし、実際ノミネートされるだけでも凄いことです。でもメジャー移籍した時は本当に凄かったですよ。日本人でメジャー1年目年間16勝は快挙です。

畠山) そんな無双状態のダルビッシュ選手でも先ほどの話にもありましたが、2016年にはメンタルを病むくらい苦労されていますから、海外に出てからとても成長されたんだと思います。

一点、今年7月の記事(*2)で「自分はまだ違うレベルのピッチャーに行ける可能性を感じている。」という言動が気になりました。
「フォアボールを出さないピッチングを意識せずできるようになってきた。」ということがその理由みたいですが、自分の投球精度の更なる向上を実感できたことがピッチャーとして更に上を目指せると思った理由と受け取れますか?

鈴木) 私もピッチャーだったのでよく分かるんですが、ボールコントロールの指摘の中で「フォアボールを出すな」とよく言われます。でもどうしても出てしまう。なのでピッチャーにとっては一度相手から三振を取れないことよりも一個のフォアボールの方が精神的なダメージが大きいです。

畠山) そんなにピッチャーにとってフォアボールって避けたいものなんですか。。

鈴木) はい。試合に勝てたとしてもフォアボールが多かったら強く指摘されるくらいです。またメジャーだと球数制限があるので少ない投球数で多くの回を長くプレーすることが重要です。それに加えて6回のうち3失点以内に抑えると良いピッチャーと言われるクオリティスタートと言ったゲーム作りも求められるんです。

畠山) 凄いシビアなんですね。

鈴木) ただダルビッシュ選手レベルでもメジャーでフォアボールについて指摘されるというのは驚きました。

畠山) 「メジャーに来てから最初はずっとフォアボールのことを言われ続けて、それが最近まで本当に10年ぐらいずっと頭の中にあった。」「今まではフォアボールを出さないピッチングをずっとこの2年ぐらい意識してきた」というようなコメントをされているので長い期間悩まされてきたみたいです。でもその不安がこの歳にようやく解消されてきたんですね。

鈴木) 本当に辛いと思いますよ。針の穴を通すようなコントロール力を要求されるので。
それにプロ野球のピッチャーのほとんどがフォアボールを出さないピッチングに囚われて自滅しちゃうんです。だからダルビッシュ選手が「フォアボールを出すかもしれないという不安がなくなっているということに気付けた。」と思えたことがとても凄いことだと思います。普通はなかなかそうとは思えないですから。

畠山) フォアボールに対して不安に思うことが一般的には普通なんですね。

鈴木) その大きな不安を乗り越えたと思えたからこそレベルアップできると考えているんだと思います。

畠山) 10年以上悩んできたことを解消できたこの事実は、自身のレベルアップに繋がると感じるのは間違えないですね。

鈴木) ダルビッシュ選手は鬱や自律神経失調症のような症状が出るまでに自分を追い込めてしまう性格ということなので、一歩間違えれば精神的に凄い危険な状態になりかねます。でも彼はそれを理解した上で真正面から受け止めて自分の成長に活かすことができる
それが他のプロ野球選手やメジャーリーガーと比べて一線を画している部分です。

畠山) 素質や実力がある上で、更に自分が強くなるために考え込むところまで自分を追い込めたのが凄いですし、その結果メンタル面でも自身のプレーに不安がなくなるところまで技術を磨くことができたことがアスリートとして芯の強さを感じます。

鈴木) 技術の鍛錬に終わりはないですから、その世界を楽しいと思えないとなかなか厳しいと思います。その厳しい世界を楽しむためにダルビッシュ選手はYoutubeとかスポーツ以外のことに取り組むことで良い意味で気を紛らしているんだと思います。流石に四六時中野球のことだけを考えるのは厳しいと思いますよ。

畠山) 確かにそうですね。ものすごいプレッシャーもあると思いますが、そういったプレッシャーも柔軟に乗り越えていける力も凄いと感じます。

鈴木) 凄いですよね。自分で考えて行動できる彼だから為せることだと思います。

ダルビッシュ選手の発言から考える日本のスポーツ界

畠山) 最後に一点聞いてみたい点があります。今までの鈴木さんとのお話でスポーツ界における日本独自の文化である根性論について何度か触れてきたと思うんですが、ダルビッシュ選手も根性論を否定している発言があったので是非改めて触れたいです。

鈴木) ダルビッシュ選手もそういう話をしていましたね。覚えていますよ。

畠山) その中で彼が「現状よりも上を目指して、もっと良くしようと考える人が少ない」という発言をされていたんですが、文化を継承して変化を嫌うような日本古来の考え方が影響していることだと思うのですが海外諸国とはどう違うのでしょうか?

鈴木) そういう意味ではアメリカは凄い科学的だなと思います。ちなみにスポーツは歴史的な背景と密接に関係しているので日本のスポーツが根性論になるのは仕方ないことです。
例えば、BMXはじめサーフィンやスケートボードなど海外から入ってきたスポーツほど根性論的な考え方は比較的薄い一方で、日本に昔からある野球やサッカーのようなスポーツは歴史的な影響を受けて根性論が根付いているということが分かりやすい例だと思います。

畠山) 歴史や文化的な背景がそのスポーツ自体の在り方を確立しているんですね。

鈴木) ちなみに日本の考え方を深掘りすると、結果重視の割には結果に関係ない行動に目を向けがちです。一方でアメリカは結果主義なのでどうしたら結果が出るのかを愚直に突き詰めるドライな考え方です。
ですからアメリカでは根性論も結果に直接繋がらなければ意味がないというシンプルで合理的な判断がされるのでそういった文化がないのです。
でも日本は伝統や文化を大事にする国なので結果を出すための逆算思考が実はできていないんだと思います。

畠山) ある意味本当に結果を出すためには日本ももっとドライな考え方で良いということですね。

鈴木) ただドライな考え方とは結果に対しても同様なので、結果が出ないと目を向けてくれなくなるような側面もあります。

畠山) 確かに結果が出ないとチームから外されたりとか試合に出られないという対応をされる選手もアメリカでは目にします。

鈴木) 日本の場合はそこに情が入ってくるんです。野球の場合でも過去の実績とか人間性を評価して、もう結果が出ない選手をいつまでも起用しているケースもありますから。それが日本の良いところの一つでもありますが。

畠山) でも本当に結果を追い求めるのであればこのやり方だと本当に上に行ける選手が育ちにくい環境でもあるということで、ダルビッシュ選手も自身がこういう経験をしたからこそ伝えたいことなんでしょうね。

鈴木) はい。そういう意味ではダルビッシュ選手は合理主義者なんですよ。

畠山) それこそ探究心の表れだと思います。自分が成長して結果を残すために必要なことを極めて、いらないものを削ぎ落としていくうちに合理的になったんだと感じます。ダルビッシュ選手は海外が向いてる選手だったんですね。

鈴木) そうですね。でも実は日本で活躍している選手のほとんどが海外行きたくなっちゃうんですよ。やっぱり日本と違って自由を感じるので。

畠山) でも自由であると同時にドライな環境なので相当な覚悟がないと上手くいかないですよね。

鈴木) そうですね。自由に責任はつきものだと思います。
でもダルビッシュ選手に限らず海外で活躍できるアスリートほど強い責任を感じたいんです。プレッシャーを感じたいから自由な環境でプレーがしたくて、それが日本のような同調圧力の強い日本では難しいんです。

畠山) なるほど。海外で活躍するアスリートほど自分にプレッシャーをかけることができて、そういうドライな環境に身を置くことで自分自身が探究心を持って成長にフォーカスせざる得ない状態を作り出しますし彼らもそれを望んでいるわけですね。
ダルビッシュ選手の言動から海外で活躍する日本人選手の代弁をしてもらえた気がします。鈴木さん今回もありがとうございました。

鈴木) こちらこそありがとうございました。

最後に

今回は日本を代表する名投手でメジャーリーグで活躍し続けるダルビッシュ選手について考察してきた。その中で顕著に見られたのが「尽きない探究心」だ。常に自分が成長できより良い選手そして人間になれる選択肢を選び行動していく。

そして行動レベルだと自分で考えて主体的に学ぶ力が求められることが分かった。その中ではスポーツの分野だけではなく様々なことに視野を広げることが結果的にスポーツにも人生にも活かされているのが垣間見れた。

色々行動する上で不安だったり困難は経験は逃れられないからこそ、その時に自分に最も成長できると思える行動を選択して突き進んで欲しい。ダルビッシュ選手のように自分の成長にフォーカスすることで次のレベルに行けるはずだ。

Text and Interview by 畠山 大樹

外部リンク

・鈴木颯人
スポーツコーチングセミナー各種情報
-
スポーツメンタルコーチになる為のセミナー
-
やる気とモチベーションを上げる脳と心の仕組み講座
-
緊張や不安を無くし自信を高める方法講座
-
極限の集中ゾーンに入る方法
-
息子、娘、子供のメンタルを強くする親、指導者になるには?

・畠山大樹
Twitter: 
@winspired_
Instagram: 
@daikihatakeyama_

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?