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「シングルエンティティ」の本質とFACTと成長痛

米国のプロサッカーリーグ「MLS(メジャーリーグサッカー)」やプロアメリカンフットボールリーグ「NFL」などは”シングルエンティティ”制度などと呼ばれ、”リーグとクラブが一体化(オーナーシップ・所有)した制度”を言う。各論、短期的には、”リーグに放映権などの権利を集中させる・一括管理する”イメージで、昨今日本では使用されているが、本質は、リーグとクラブの一体化による価値向上の方が、事実に近い。

”シングルエンティティ”典型例と言われるMLSは、下記のような、権利集中・クラブとの役割分担をしている。注目して頂きたいのは、収入の部分でも集中しているが、MLSは「選手の給与」をリーグが払い、リーグが選手と契約している点である。もちろん、クラブ側が、どの選手を獲得するかなどの裁量は大きくクラブにあるのだが。つまり、いろいろな権利をリーグに集中させて、価値を高め、意思決定を早くすると同時に、支出面での責任も担う。特に、一番大きな部分の選手の人件費についても。

中村武彦氏「MLSから学ぶスポーツマネジメント」より

「シングルエンティティ」制度も含めて、各スポーツの協会、リーグ、クラブ、アスリート関連のルールづくりや、制度設計・ガバナンスについての関心、議論、注目が高まっている。特に、米国のクローズ型(昇格・降格がない)のプロスポーツのリーグシステムに注目や参考にしようとする動きがある。

JHL(日本ハンドボールリーグ)も2024年2月にむけて、「シングルエンティティ」「デュアルキャリア」のコンセプトを打ち出し、新リーグ構想を打ち出した。葦原さん、松井さんなどが中心に、新制度をつくりあげようとしている。素晴らしい。それぞれのスポーツが、価値を高め、ファンを増やし、地域とももっと一体化する。活性化する。強くなる。画期的な動きでもある。
この”シングルエンティティ”というコンセプトで、MLSなども参考にしているのだろうが、逆に、ハンドボール新リーグは、それ以上にリーグに収益の項目・放映権、スポンサー、チケット、マーチャンダイジングを集中させる、よりアグレッシブな手法である。おそらく、想像だが、各参加チームから2名ほど、リーグに出向させて”大きな政府(記者会見での表現)”にして、ローカルスポンサーやローカル放送の部分も、クラブからの出向者と行う、とかであろうか(想像)。

記者会見で新聞社や通信社がチェックしなかった、ビジネス上の大きなポイント。
各チームの運営費は、2億ほど(次世代プロリーグ化したらもっと支出は増えるが)。男女で(現状)約20チームで、総事業費(経費)40億。現在は、各チーム平均収益は1000万ほど(記者会見より)。つまり、現在のチーム経営を”事業””ビジネス”とみると、1億9000万の”赤字”。しかし、本来は実業団としての、福利厚生、社内一体化、地域のシンボル、従業員のロイヤリティやモチベーションの源泉などの役割により、従業員選手が多くの割合・役割を占める。”経営のプロ化(記者会見より)”とするならば、外から見ると、各チームとも”黒字化・採算化”を目指すのかと思われるかもしれない。”黒字化”するには、
リーグの分配金((放映権収入+チケット収入+スポンサー収入+グッズ収入)ーリーグの経費))/チーム数)>チームの人件費も含めた全経費、ということになる。具体的には、チームの平均経費が2億円とすると、約40億。リーグの経費が例えば5億かかるとして(リーグ関連の人件費・オペレーション・マーケティング・宣伝・演出・IT投資などなど)、たとえば、放映権料+チケット+スポンサー+グッズで、45億以上の収益があれば、分配金で各チームへの黒字の予算になる。しかし、おそらく、それはリーグとしても補償していないだろうし、現実的ではないだろう(いや、そこは分からない)。ということは、(おそらく)チームが人件費を払う構造なので、チームが赤字(現在は平均1.9億の赤字・記者会見より)である状態(赤字は減る)は、変わらないと想像する。赤字の金額が減りつつ、そのチームが責任企業にとって価値があること(福利厚生、社内一体化、宣伝・広報効果、社員のモチベーション・ロイヤリティ、地域のシンボル)も持続する効果は維持する状態だと思う。かつ、観客が増える、ナショナルスポンサーも増える、演出やエンタメや飲食などにも投資する、改善する、など。つまり、そのリーグや競技の成長のために、クラブや責任企業の負担は続く、言わば成長痛のような。そのFACTにも目を向けなければいけない。

日本版”シングルエンティティ”は、やはり、クラブやチームの負担や投資は前提となる。リーグに権益を集中させることは、価値向上、放映権の価値向上、ブランドの一体化など、そのスポーツの活性化に良い影響がある。一方で、事実は、クラブの責任企業のコスト負担にも依存してる部分が大きくある(完全黒字化になるほど、リーグが収益を集める、NFLやMSL並みに事業拡張したら素晴らしいが、短期・中期的には難しい)。実業団とプロの定義論争は、私もあまり興味がない。実業団の良さを維持しながら、活性化、「顧客思考」は可能であると、以前、NOTEにも書いた。それぞれのスポーツ、クラブ、リーグ、協会、アスリート、パートナー企業などのスポーツステークホルダーが、価値向上アクション、顧客思考(あえて”思考”という文字を使っています)を続けることは素晴らしいことである。


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