はじめての線形代数part1 ~Aⁿを求めよう!(行列の掛け算編)
はじめに
前回は行列とはなにかを学習しました。そこで掛け算を勉強すれば、さっそく$${A^n}$$が求まるのではないかと思います。「あれ?この記事はpart1と書いてあるが、一回の記事で線形代数の基礎が学べるのか?」と考える方も多いと思います。最後まで見れば、どういうことかわかるかも。。。
積の計算(×)
行列の積を学ぶ前の注意点
数とは異なり、行列の掛け算は成り立たないものがあります。それは交換法則です。交換法則とは掛け算の順序を入れ替えられる法則です。数の場合$${2×3=3×2}$$となり、行列の場合$${A×B\neqB×A}$$となるのです。
分配法則($${A(B+C)=AB+AC}$$)や結合法則($${(AB)C=A(BC)}$$)は成り立ちます。まとめるとこうなります。
$${AB\neq{BA}}$$
$${A(B+C)=AB+AC}$$
$${(AB)C=A(BC)}$$
内積を確認しよう!
行列の積を理解する前に内積を理解すると、スムーズに理解ができます。内積とは成分を掛けて足し合わせた値です。具体例を見ましょう。(文字の掛け算($${a×b=ab}$$)のようにベクトルを繋げて積を表します。)$${\begin{pmatrix}1&2&3\end{pmatrix}}$$$${\begin{pmatrix}a\\b\\c\end{pmatrix}}$$=$${a+2b+3c}$$ 行ベクトルの左の$${1}$$と列ベクトルの上の$${a}$$の積+行ベクトルの真ん中の…と数を足しています。この計算が内積です。(ちなみに行列やベクトルの成分に文字$${a,b}$$などは存在します。)
内積をおさらいしましょう。2つのベクトルの各成分の積を頭から足し合わせたものです。
積の計算方法
足し算、引き算のように同じ箇所にある成分を「掛けません」。$${A}$$×$${B}$$=$${C}$$について、どこを掛けるのかというと、$${A}$$の行ベクトルと$${B}$$の列ベクトルの「内積」が$${C}$$の行と列の成分にあたります。これを行列$${C}$$の成分の数だけ繰り返します。
とりあえずイメージを。「横からの縦!をひたすらくりかえす!」です。
行列の積$${A}$$×$${B}$$=$${C}$$では、$${A}$$の行ベクトルと$${B}$$の列ベクトルの「内積」が$${C}$$の行と列の成分にあたるのでした。
例えば、$${A}$$の2行目のベクトルと$${B}$$の2列目のベクトルの「内積」が$${C}$$の2行2列目に入ります。
言葉だけでは難しいので具体例を見ましょう。実際、行列の積で苦手意識を持ってしまう方も少なくないです。ここが1つの山場です!イメージは「横からの縦」をひたすら繰り返す!ことです!
$${\begin{pmatrix}1&2\\3&4\end{pmatrix}\begin{pmatrix}a&c\\b&d&\end{pmatrix}}$$=$${\begin{pmatrix}1×a+2b&1×c&2d\\3a+4b&3c+4d\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}a+2b&c+2d\\3a+4b&3c+4d\end{pmatrix}}$$
どうでしょうか、かなり計算量が多いと思います。イメージ通り、縦横の意識をかなり感じていただけたと思います。また、ひたすら繰り返すとは行列$${C}$$のすべての成分を埋めるためなのです。
なお、行列ではかける順番を変えると、答えが変わってしまうので注意です。なじみのある「数」の掛け算は交換法則(例:$${2×3=3×2=6}$$)が成り立ちますが、「行列」の場合は交換法則が成り立たないことが多いです。$${AB}$$$${\neq}$$$${BA}$$ということです。実際に上の例でやってみると
$${\begin{pmatrix}a&c\\b&d\end{pmatrix}\begin{pmatrix}1&2\\3&4\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}a+3c&2a+4b\\b+3d&2b+4d\end{pmatrix}}$$となってしまいます。
もっと具体例を見よう!
先程は、2×2行列の積を見ました。いろいろな大きさの行列を見ていきましょう。
$${\begin{pmatrix}a\\b\\c\end{pmatrix}\begin{pmatrix}1&2&3\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}a&2a&3a\\b&2b&3b\\c&2c&3c\end{pmatrix}}$$
内積の具体例の順番を変えてみました。行と列を入れ替えると答えが大きく変わることをより深く感じれると思います。
$${\begin{pmatrix}3&2&0\\2 & 1&-1\end{pmatrix}\begin{pmatrix}1&-2\\3&1\\0&2\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}3×1+2×3+0×0&3×(-2)+2×1+0×2\\2×1+1×3+(-1)×0&2×(-2)+1×1+(-1)×2\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}9&-4\\5&-5\end{pmatrix}}$$
$${\begin{pmatrix}3&2&0\\2 & 1&-1\end{pmatrix}\begin{pmatrix}1&-2\\3&1\\0&2\\x&y\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}3+6+0+???&-6+2+0+???\\2+3+0+???&-4+1+-2+???\end{pmatrix}}$$
おかしいですね、$${A×B}$$でいうところの$${B}$$の行数を3から4に増やすと計算ができなくなりました。実は$${A}$$の列数と$${B}$$の行数(掛け算で使わないほうですね)が一致しないと積ができません。どの行列でも積を取れるわけではないということを頭に入れておいてください。
Aⁿを求めよう
条件(正方行列)
さて、ここで本記事の目標である$${A^n}$$を求めてみましょう。あえて記述しなかったのですが、この$${A}$$という行列には条件があります。それは行列$${A}$$が正方行列であることです。
正方行列とは行数と列数が同じタイプの行列(一般化すると$${n×n}$$行列)です。なぜかというと、前節でも記載した通り、どの行列でも積を取れるわけではないからです。正方行列でない行列(一般化すると$${m×n}$$行列)では2乗,3乗,…n乗ができないのです。
計算してみよう
正方行列ならば成分は何でもよいです。試しに$${A=\begin{pmatrix}1&-2\\3&-4\end{pmatrix}}$$として累乗計算をしてみましょう。n乗を求めるには2乗、3乗を繰り返して何かルールがないかを探るしか今のところはないので、まずは2乗、3乗をしましょう。
$${A^2=\begin{pmatrix}1&-2\\3&-4\end{pmatrix}\begin{pmatrix}1&-2\\3&-4\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}-5&6\\-9&10\end{pmatrix}}$$
$${A^3=A^{2}A=\begin{pmatrix}-5&6\\-9&10\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}13&-14\\21&-22\end{pmatrix}}$$
どうでしょう、ただでさえ計算が複雑なので、これをn回やるのは厳しいところがあります。
では行列$${A=\begin{pmatrix}2&0\\0&3\end{pmatrix}}$$ならどうでしょう。$${A^2=\begin{pmatrix}2&0\\0&3\end{pmatrix}\begin{pmatrix}2&0\\0&3\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}4&0\\0&9\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}2^2&0\\0&3^2\end{pmatrix}}$$
$${A^3=\begin{pmatrix}4&0\\0&9\end{pmatrix}\begin{pmatrix}2&0\\0&3\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}8&0\\0&27\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}2^3&0\\0&3^3\end{pmatrix}}$$
どうでしょうか、斜めに数字が並び、左下と右上に0がある行列ならn乗が求まりそうです。これをなんかすごい行列としましょう。ここでn乗の求め方を以下のようにします。
Aⁿの求め方
$${A}$$をどうにかして、なんかすごい行列にする。
なんかすごい行列をn乗する
2をどうにかして$${A^n}$$に戻す。
このどうにかしてが線形代数の醍醐味と筆者は考えます。この醍醐味に線形代数の基礎基本が詰まっていると考えてください。なので次回からこれをどうにかする方法を記述していきます。
最後までご覧いただきありがとうございます。
練習問題
追記です。練習問題を作りました!こちらが答えです。ぜひ解いてみてください!
基礎問題(問1~問4)
$${問1.与えられた行列AとBの積ABを計算してください。\\A=\begin{pmatrix}1&2\\3&4\end{pmatrix}\\\,\\B=\begin{pmatrix}5&6\\7&8\end{pmatrix}}$$
$${問2.与えられた行列XとYの積XYを計算してください\\\\X=\begin{pmatrix}2&1\\-1&3\end{pmatrix}\\\,\\Y=\begin{pmatrix}4&-2\\0&5\end{pmatrix}}$$
$${問3.与えられた行列PとQの積PQを計算してください\\\\P=\begin{pmatrix}3&-1\\2&4\end{pmatrix}\\\,\\Y=\begin{pmatrix}0&1\\-2&5\end{pmatrix}}$$
$${問4.与えられた行列MとNの積MNを計算してください\\M = \begin{pmatrix} 2 & -1 & 3 \\ 0 & 4 & 1 \end{pmatrix} \\\,\\N = \begin{pmatrix} 5 & 2 \\ -3 & 0 \\ 1 & -2 \end{pmatrix}}$$
応用問題(問5~問7)
$${問5.行列AとBが以下のように与えられています。\\ABおよびBAを計算して、行列の乗法は順序によって積が変わることを確認せよ。\\A = \begin{pmatrix} 2 & 1 \\ -3 & 4 \end{pmatrix}\\\,\\B =\begin{pmatrix} 0 & -2 \\ 1 & 3 \end{pmatrix}}$$
$${問6.行列Cが以下のように与えられています。\\C^2を計算してください。\\C = \begin{pmatrix} 3 & 1 \\ 0 & 2 \end{pmatrix}}$$
$${問7.行列DとEが以下のように与えられています。\\DE−EDを計算してください。\\D = \begin{pmatrix} 1 & 2 \\ 0 & -1 \end{pmatrix}\\\,\\E = \begin{pmatrix} 3 & 0 \\ 4 & 5 \end{pmatrix}}$$
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