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レッドブルの大宮アルディージャ買収について

今月8月6日に正式に発表となったオーストリアの大手飲料メーカーであるレッドブルのJ3大宮アルディージャ買収。Jリーグはもちろんのこと、プロ野球・Bリーグを含めても、外資系企業の経営権取得は日本で初の事例となります。3億円と報じられている買収額についても話題になっていますが、海外でサッカークラブを既に経営しているレッドブルがなぜ今回日本のJクラブ経営に参入したのかについて今回は取り上げていきたいと思います。


Jリーグ初の外資系企業の経営権取得

今月8月6日に大宮アルディージャ、NTT東日本、レッドブル3社共同のリリースにて、
エヌ・ティ・ティ・スポーツコミュニティ株式会社のレッドブル・ゲーエムベーハーへの株式譲渡に関する発表がされました。

プロ野球を始め、外資企業による日本プロスポーツチームの経営権取得は初の事例になりますが、Jリーグでは2019年まで外資系企業の経営権取得を認めていませんでした。ただ、時代と共に規約のニュアンスが変化し、現在は外資系企業の経営権取得を認めています。


Jリーグ規約(表は筆者作成)

上記のJリーグ規約第3章は主にJリーグクラブのライセンスに関する規約です。規約を見ると、過去から外資企業の株式保有は認められていました。(Y.S.C.CとNever Say Neverの事例等)しかしながら過半数以上を保有し、経営権を持つことが認められていなかったことが障壁でしたが、2020年の改正でその壁はなくなりました。改定の理由等については、改定時の記者会見を見ても、コロナ禍で他案件に触れられていることがほとんどで、本件に関する具体的な理由は述べられておりませんでした。各クラブの経営状況が厳しくなったことや、今回のケースも想定された上で、改正に至ったのかもしれません。

参考として、現在Jリーグ以外の代表的なプロスポーツリーグでは、外資系企業の経営権保有は禁止しています。
【他リーグの規定】
NPB:日本プロフェッショナル野球協約の第28条にて禁止
Bリーグ:Bリーグ規約第12条にて禁止

初の外資系企業の経営権保有が成功すれば、今後Jリーグの各クラブに対する外資系企業の見方はもちろん、他リーグでも規定の変更があるかもしれません。

レッドブルについて

レッドブルは1987年にオーストラリアで誕生した企業で、日本でもなじみのあるエナジードリンク「レッドブル」を販売しています。2023年には約121億本を売上、この市場で最も高いシェアを誇っている企業です。
「レッドブル、翼を授ける」等のキャッチフレーズは日本でも浸透しており、様々なイベントや街中でのサンプル配布を通じて、認知度を高めてきました。
また、スポーツへの協賛やチーム保有を通じて、企業の露出を図っている企業でもあります。

【レッドブルが関わるスポーツ】※一部をご紹介
・モータースポーツ(F1やオートバイレースに参戦)

・航空関係(エアレース等)※2019年に終了

・エクストリームスポーツ(アドベンチャーレースやアイスクロス等)

・アーバンスポーツ(BMX等)

ユニークなイベント、話題性・インパクトの強い企画を通じてレッドブルファンを拡大していることが特徴ですが、海外のサッカーチームを保有していることでも有名です。

【レッドブルが保有するサッカークラブ一覧】

筆者作成

3つのチームを買収しており、RBライブツィヒはトップスポンサーとして関わりをもっています。RBライブツィヒはドイツのブンデスリーガの「50 + 1ルール」により、20年以上チームを保有していない企業はオーナーシップを最大49%までしか保有できないため、他オーナーと共同保有をしています。また、チーム名称のRBは、レッドブルの略称ではなく「RasenBallsport=芝生球技」の略称で、ルール上、企業名をチーム名に入れることができないため、このような形で回避しています。Jリーグも同様にクラブ名に企業名を入れることができないため、大宮アルディージャの新名称も同じような方法を取ると思われます。

3億円は高いか?安いか?

今回のレッドブルの買収額は約3億円と報じられています。

実際にこの金額は妥当な金額なのか…?
近年のJリーグクラブの買収について、代表される3つの事例は下記の通りです。

・主なJクラブ経営権獲得の事例

※筆者作成

これらの事例を見ても、今回の大宮アルディージャ買収額の3億円はそれほど大きな金額ではありません。メルカリが鹿島アントラーズを完全子会社化したケースでは、評価額が約26億円、同じJ1クラブのFC東京のケースも約20億円規模となります。メルカリが株式を取得した前年の鹿島アントラーズの売上は約70億円、営業利益は約6億円でした。また、過去からの実績、根強いファンも含めて考えると非常に安価に感じます。この価格にある背景としては、高額な設定にして候補企業がいない状況よりも、手を出してもらいやすい金額で買い手を見つける狙いが想像されます。日本製鉄のような大手企業からすると、鹿島アントラーズの企業規模はそこまで大きな規模ではないため、手放す際に売却額が大きくなくとも問題ないと考えている可能性もあります。また、当時の会見では、素材会社より一般消費者とコミュニケーションを取ることに長けている企業の方がこれからの時代にあっている、というコメントもあり、今後の発展も見据えての売却と考えられます。

今回の大宮アルディージャのケースもNTTが元々経営権を保有しています。また、今年4月にはホームスタジアムである、NACK5スタジアム大宮の指定管理者をNTTファシリティーズが取得。このタイミングでのスタジアムの指定管理者となることを考えると、クラブ経営権は他社に譲り、スタジアム事業を中心として、クラブにはスポンサーとして関わることが狙いとしてあったのかもしれません。スタジアムはNTTグループが引き続き管理していくため、クラブ単体の価値として、今回の買収額となっていると考えられます。また、リリースでは、NTTが引き続きスポンサーとして関与することを示唆しており、今まで支援してきたNTTつながりのスポンサーも、継続してスポンサーを続けるとすると、レッドブルに取っては非常に好条件となります。(大宮アルディージャのスポンサー収入は約15億円)
今後の更なる発展に向けた金額設定、と言えるかもしれませんが、他国の買収事例や、今後のクラブ買収の前例になってしまうことを考えると、少し寂しい金額と感じます。

買収によるシナジー

海外クラブと日本クラブが提携し、シナジーを発揮している代表的な事例としては、横浜F・マリノスとシティ・フットボール・グループの資本提携が挙げられます。2014年に提携を発表し、最初の5年は結果こそ出なかったものの、2019年にJリーグ優勝、2023年にはACL準優勝を果たしています。現在もユースメンバーがマンチェスター・シティーへ海外遠征を行い、大きな成長の場を設けており、シナジーが生まれている好事例と言えます。

レッドブルが大宮アルディージャを買収した狙いも上記のように、レッドブルグループのサッカークラブとの連携だと考えられます。昨今は日本人選手も海外リーグで活躍するようになり、アンダー世代も海外に出ていくことが一般的な形になってきました。今後、日本人選手を大宮で育成、活躍させ、海外のチームへと移籍する形ができれば、非常に有意義な連携が可能になります。また、レッドブルが経営権を獲得したチームのほとんどは下部組織からのスタートで、RBライブツィヒは7シーズンで5部からトップリーグに昇格しており、更には優勝も経験しています。
選手補強へ多額の投資をしている事実もありますが、選手の健康管理やトレーニングセンターへの投資も行っており、充実したサッカー環境を整備しています。また、グループにおける戦術も統一されており、グループ傘下のチームから移籍する選手もすぐに対応できるほど、考え方が浸透しています。大宮はJ3に所属する環境下でも、レッドブルグループの考え方が浸透し、Jリーグに適応されてくると、昇格、優勝争いをすることにも自信があると考えられます。

最後に

今回の買収は、今後Jリーグクラブに外資系企業が参入するかどうかを左右する、非常に重要なターニングポイントになると考えられます。地域との連携、スタジアム問題、チーム強化、事業の拡大、など今後の動きにも注目していきたいと思います。また、個人的にはレッドブルが今まで仕掛けてきたユニークかつ大胆なプロモーション施策も楽しみにしており、スポーツエンターテイメントに新たな刺激をもたらしてくれることも期待しています。


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