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アメリカ女子スポーツのいま

2023年に開催されたFIFA 女子ワールドカップは64試合で198万人が観戦し、特にスペイン対イングランドの対戦となった決勝戦は75,784人収容のスタジアムでチケットが完売しました。放送においても、開催地オーストラリアではイングランドとの準決勝を1,115万人が視聴、決勝戦は時差があるにも関わらずイギリスで1,480万人、スペインで738万人が視聴するなど、大きな注目を集めました。

またヨーロッパのサッカーにおいてもコロナ禍以降数万人を集めるビッグゲームが多々生まれ、2022年4月にスペイン・バルセロナのカンプ・ノウで行われたUEFA女子チャンピオンズリーグの準決勝は、女子サッカーの試合として最大の観客数となる、91,648人を記録しました。


このように、女子スポーツというとサッカーの話題が多く聞かれますが、実はアメリカでは様々な競技で女子スポーツが注目を集めています。今回はその一部をご紹介します。


盛り上がる大学スポーツ

アメリカの大学スポーツといえばアメリカンフットボールと3月に行われる男子バスケットボールのトーナメントが注目されますが、2023年は女子バスケットボールのトーナメントが大きな注目を集めました。

アイオワ大学とルイジアナ州立大学の対戦となった決勝は、視聴者数が990万人と前年の2倍以上に増え、2万人収容のアリーナが満員なだけでなく、チケットの2次流通市場における最低価格が389ドル(約55,000円)になるほど、大きな注目を集めました。アイオワ大学のエースであるケイトリン・クラーク選手とルイジアナ州立大学のエースであるエンジェル・リース選手は共にNCAA記録を持つほどの実力があるだけでなく、NILを活用してテレビCMや雑誌に登場する有名人。普段バスケットボールを見ている人以外からも注目を集めたと言われています。

アメリカの代表的なスポーツメディアであるスポーティングニュースでは、2023年の年間最優秀アスリート賞にこのエンジェル・リース選手とケイトリン・クラーク選手を選出しています。その前年の受賞者がリオネル・メッシ選手、そのさらに前年が大谷翔平選手であることから、この2人がいかに大きな話題となったかが伝わるのではないでしょうか。


2022-23年シーズンでは残念ながら準優勝となったアイオワ大学女子バスケットボール部は、2023-24年シーズン開始前のエキシビジョンゲームを大学のフットボールスタジアムで開催し、55,646人の観客を集め、女子バスケットボール史上最多の入場者数となりました。

さらにすごいのが、女子バレーボールの強豪であるネブラスカ大学です。アイオワ大学のように大学のフットボールスタジアムで試合を行い、なんと92,003人の観客を集めました。これは冒頭に記載したUEFA女子チャンピオンズリーグ準決勝の記録を抜き、女子スポーツにおける最多入場者数の記録になりました。チケットは大人25ドル(約3,600円)、高校生以下5ドル(約720円)だったそうですが、2次流通市場では高騰していたとも言われています。同大学が位置するネブラスカ州の州都、リンカーンの人口が約27万人であることを考えると、非常に多くの人がスタジアムに集まっていたことがわかります。

2024年以降に誕生する女子スポーツリーグ

アメリカでは2024年以降、5つのリーグ/大会が新設される予定です。男女問わず常に新たなリーグが立ち上がるとともに撤退することも多いアメリカのプロリーグですが、女子スポーツでこれだけのリーグが動き出すことは、近年の注目度を反映しているといえます。

バレーボール:Pro Volleyball Federation/League One Volleyball(LOVB)

バレーボールはアメリカの女子スポーツとして最もプレーされており、また代表チームは東京オリンピック2020で金メダルを獲得しています。しかし、大学卒業以降のプレー環境は長らく整っておらず、代表選手でもイタリアやトルコなどの強豪国でプロ選手として活動をしています。

そのような背景があるなか、2024年には同時に2つのプロリーグが誕生します。Pro Volleyball Federationは7チームが所属し1月24日の開幕戦から5月まで試合が行われ、LOVBは6チームが所属し11月より試合が行われる予定です。特徴的なのはLOVBで、高校生以下のバレーボーラーが所属する全米のクラブチームと提携し、コミュニティを増やしながらプロリーグを成長させることを目指しています。

アイスホッケー:Professional Women’s Hockey League(PWHL)

2015年よりPremier Hockey Federation(PHF)という名称でリーグ戦が行われていましたが、ロサンゼルス・ドジャースの共同オーナーであるマーク・ウォルター氏がこれを買収し、新たにPWHLとして生まれ変わることになりました。アメリカ北東部からカナダにかけて6チームが所属しており、すべてのチームはリーグと同じマーク氏のグループが保有をしています。2024年1月1日に開幕戦が行われ、1月6日に行われた試合には13,000人以上が観戦しました。


バスケットボール:Unrivaled

女子プロリーグのWNBAは、男子バスケットボールのトップリーグであるNBAより1997年に誕生しました。同リーグに所属するスター選手、ブレアナ・ステュアート選手とナフィーサ・コリアー選手が立ち上げたリーグがUnrivaledです。これまでWNBAでプレーする選手は、経済的な理由からそのオフシーズンにヨーロッパなど海外のリーグでプレーすることが多く見られましたが、国外に出なくとも選手として収入が得られる手段となることを目指しています。競技は通常の5人制やオリンピック競技でもある3x3とは異なり、狭いコートながらフルコートでの3人制という新しいルールで行われ、WNBAに所属するトップ30人の選手によってより面白い試合を提供したいとしています。

Unrivaledは発表された2023年7月以降ほとんど情報が更新されていませんが、次のWNBAのオフシーズン(2024年11月ごろから2025年4月ごろ)に向けて準備が進められているかもしれません。

サッカー:USL Super League

現在アメリカにおける女子サッカーのプロリーグといえば、2013年からリーグが行われているNational Women's Soccer League(NWSL)です。それまでに存在したトップリーグは財政難を理由に2-3年で解散していましたが、NWSLは今年12年目のシーズンを迎えます。

NWSLの人気も高まっている中、2024年よりUSL Super League(USL)という新たなトップリーグが誕生することが発表されました。現時点では初年度9チームで試合が行われ、2025年以降の候補として5地域が挙げられています。アメリカのプロサッカーリーグは、男女いずれもアメリカサッカー連盟が指定する3つのディビジョンに分類されることになっており、複数の母体が異なるリーグが共存できます。実際に男子リーグはディビジョン1がMajor League Soccer(MLS)、ディビジョン2がUSL Championship、ディビジョン3はこの2リーグの各下部リーグに加え、更に異なる経営母体を持つリーグが存在します。女子についてはこれまでNWSLのみがプロリーグとして存在しましたが、男子ディビジョン2リーグと同じ経営母体を持つUSLがディビジョン1リーグとして誕生することになったのです。


今回は、2023年から2024年にかけてのトピックスについてお伝えしました。大学スポーツの盛り上がりとともに、新リーグ設立に向けた動きが多々起きているダイナミズムをおわかりいただけたかと思います。今後もアメリカ女子スポーツについてご紹介しますので、興味のある分野などありましたらコメントいただければ幸いです。

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