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女子アスリート健康相談室Vol.6 もっと女性の身体を知ろう②

近年、女性特有の課題が取り上げられることが多くなってきました。みなさんも女性の身体について正しい知識を身につけ、より素敵なハンドボールライフを送りませんか? 弊誌『スポーツイベント・ハンドボール』2019年12月号から20年6月号まで連載していた婦人科スポーツドクターの高尾美穂先生による「女子アスリート健康相談室」を全文公開します。第6回は前回に引き続き、女性の身体にまつわる疑問質問にお答えしていきます。
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高尾先生プロフ

第6回は前回に引き続き、みなさんの疑問、質問にお答えしていきたいと思います。

ハードな練習だと、より生理痛がつらい…

練習内容によって生理痛のつらさに変化があるという訴えは、主観が入るので、はっきりとしたことは言い切れませんが、ハンドボールは運動負荷が高い競技のようなので、そのあたりに原因がありそうな気がします。

指導者の方は、生理痛を含む不調を感じている選手に別メニューを提供するなど、考慮していただけたらありがたいです。

一方、選手ができることとして考えられるのは、やはり痛み止めやピルといった薬を服用し、痛みの対策をすることが1つでしょう。

生理痛に関しては「接触プレーがしづらくなる」という悩みも聞かれました。「お腹にT字にテーピングを貼ったら和らいだ」という解決策も聞かれたことを考えると、生理痛のお腹の痛みによって腹筋群を含む体幹を使いにくくなっている可能性がありそうです。

痛いのは我慢するべき仕方がないものではなく、解決できる問題です。しっかり対策をして、パフォーマンスを落とさない努力をしてみましょう。

そして、選手はちゃんと「今日は不調だ」と監督やチームスタッフに伝えましょう。指導する側もダッシュの本数を減らすなど、その訴えに応じたトレーニングにしてほしいと思います。つらい中で無理しても、練習の効果は上がりません。

余談ですが、生理中かどうかにかかわらず、急激な運動でお腹が痛くなるという人がいるという報告が結構あります。たまに長距離を走るとお腹が痛くなる女子を見たことがある人もいるのではないでしょうか?

エコー検査で子宮や卵巣に問題がなくても、痛みが出る人がいると報告されているので、急激にお腹が痛くなったら、休ませる対象と思ってください。はっきりとした理由の報告はまだされていないものの、とくに指導者のみなさんにはそういう人もいるんだと、頭に入れておいてほしいです。

年々生理痛が重くなるのは正常?

スポーツをする若い年代だと、身体が大人に近づくにつれ、徐々に生理痛が軽くなるのはよくあることです。しかし、年令が高くなってきて生理痛が重くなるのは、原因に病気がある可能性を考えなくてはいけません。

そういった症状があるならば、一度婦人科に行きましょう。

生理不順とのつき合い方は?

生理不順でもプレーに影響がない場合は、治療は必要ありません。数日のズレであればまったく問題はないでしょう。

一方、生理がいつ来るかわからなくて困っている場合は、もちろん治療対象になります。ピルを使って生理周期のサイクルを整えるのがいいでしょう。第4回でお伝えしたとおり、ピルを飲むことで出血が起こる時期を自分でコントロールできるようになります。

また、基礎体温を記録することも解決策の1つです。排卵がある人であれば、基礎体温をもとに生理が来る時期を予測することができます。

生理前はケガするリスクが高くなる?

都市伝説的に伝わっているのは、おそらく「関節可動域が広くなる」「じん帯が緩みやすくなる」ということだと思います。元サッカー女子日本代表の澤穂希さんが「生理前にケガをしやすくなる」とインタビューでおっしゃったことが「すべての人が生理前にケガをしやすくなる」という誤った形で広まってしまったことがあったので、そのことではないでしょうか。

女性の人生において、妊娠中から出産にかけてじん帯を緩めるホルモンが分泌されます。

しかし、妊娠していない人の中にも、生理前にそのホルモンが分泌されている人が一定数存在します。さらに、ホルモンが分泌されている人たちの中にも、じん帯を緩めるホルモンをキャッチするレセプターを持っている人と持っていない人がいることまでがわかっています。

そして、ホルモンが出ていて、かつ、そのレセプターを持っている人は、確かに生理前に関節可動域が広くなることによって、「足首がネンザしやすくなる」「さる腕がひどくなる」といった変化が起こることを体感していたりするのです。

ここまで解説してきたとおり、みんながみんなというわけではありませんが、生理前になんとなくじん帯が緩む感覚がある人は、ケガしやすいタイプだと思って対策をしましょう。逆にそういった感覚がない人は、過度に心配する必要はありません。それぞれが、自分の変化をしっかり確認する習慣が大切です。

ただし、第1回でお伝えしたとおり、そもそも女性にとって前十字じん帯は、男性の8倍ケガをしやすい場所だというエビデンスがあります。そのため、普段からケガを予防する動きをアップに取り入れたり、ヒザ周りの筋肉量を増やしたりすることが大事なポイントです。

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生理前はなぜ眠くなる?

生理前は睡眠中に体温があまり下がらないため、しっかり眠ることができず、目が覚めている日中も眠くなりやすい状態にあります。

昼寝できるチャンスがあれば、生理前はとくに15分くらい寝るのがおすすめです。眠くなると集中力の低下につながるので、練習中にいいパフォーマンスができない原因にもなりますよ。

生理中は貧血気味で困る!

生理中は失血状態なので、タンパク質や鉄分が失われます。正常な生理では20〜140gの出血があるとされていますが、それだけの血を失っても、生理の時期にだけ貧血になるということはほとんどありません。

世の中で使われる“貧血“と呼んでいる状態は、おそらく生理中にくらっとすることを意味しているのだと思います。しかしながら、その人たち全員が、血液検査をした時にヘモグロビンの値が低いかと言われると別問題です。

世の中で言う“貧血“かそうではないかを確認するためには、血液検査をするほかありません。アスリートが貧血、あるいは、貧血気味だというのであれば、少なくとも年に1回は自分の状態について確認しましょう。そして、血液検査でヘモグロビンの値が低いとなれば、貧血の改善をしていきましょうね。

では、世の中で言う“貧血“とはなんなのかというと、ヘモグロビンの値は正常ではあるけれど、血圧を上げなくてはいけないタイミングで上げられていないことをさしているのがほとんど。迷走神経反射や低血圧発作と呼ばれる状態でしょう。

「すでに起きて活動している時間帯なのに、副交感神経が優位になっている=まだ身体が起きていないため、血圧を上げられずにサーッと血の気が引いていく感じがする」「手足にじとっと汗をかいて立っていられない」という症状がある場合には、この”貧血”だと思われます。

よく起こるのが朝の時間帯なので、朝のストレッチや食事が効果的です。

とくに朝食は大事。たとえ飲みものだけでも、なにかしらお腹に入れれば、身体は否が応でも朝だということを知ることになり、対策として有効です。

また、寝不足や無理をしている生活も、“貧血“を引き起こす原因になりますよ。

次回も引き続き、みなさんから寄せられた女性特有の課題についての疑問、質問にお答えしていきます。

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