映画のコピー

男女逆転の世界が教えてくれた -映画『軽い男じゃないのよ』-

Netflixオリジナル映画『軽い男じゃないのよ』を観ました。
世界共通の問題である「男女の不平等」。この映画では、男女が逆転した世界を描くことで、通常私たちが過ごしている世界の「異常さ」をあぶり出しています。

あらすじ
女性を見下す無神経な独身男が、ある日頭を売って気を失う。意識が戻ると世界が逆転。女が上に立ち全てを牛耳る社会で、傲慢な女流作家の助手となり……。(Netflixより)

何が「女性差別?」

主人公のダミアン(ヴァンサン・エルバス)は女性を見れば誰彼構わず声をかけ、気に入れば片っ端から口説いていくような軽薄な男だ。会社でも彼に意見した女性にセクハラまがいの言葉をかける。そんな彼はある日、頭を強打し意識を失う。気がつくとそこは、男女が逆転した「女尊男卑」の世界だった! というコメディ(コメディ?と首を傾げたくなるシーンは多々ありますが)。

この作品で描かれる「女が強く男が弱い」世界は、このように描写される(一部です)。

・男性は露出度の高い服を着る(そのほうが女性に喜ばれるから)
・半裸など、セクシーな男性のポスターが街中のいたるところに貼ってある
・道を歩いているだけで女性から「かわいいね」などと声をかけられる
・「女性にウケないから」という理由で、提案した企画をボツにされる
・女性上司からのセクハラを拒否すると、不当に解雇される
・家事や育児は男性のもの(子どもを産むのは女性)
・ウエイトレス、店番、助手などの補佐的な仕事は男性のもの
・女性が浮気をするのは性欲が強く、女性が思いのままに行動する「子ども」だから
・ある文学賞を受賞した男性は「これまでに4人しかいない」
・ポーカーではキングよりもクイーンが強い(!)

などなど。

痛快だったのは、セックスのシーン。
ある女性といい雰囲気になってセックスへ持ち込まれる(女性が主体なので、男性は「持ち込まれる」側だ)ダミアン。彼女は一方的に彼の上に乗り、ダミアンが「やめてよ」ということも聞き入れずにことを進める。オーガズムに達したあとは「こっちはまだ終わってないよ」というダミアンの声も無視して寝ようとしてしまう(彼は彼女に飼い猫を投げつけ(!)、彼女は顔を引っ掻かれる)。これを「あるある」と言ってしまうのはさみしいけれど、実際、あるよね。もしくは見聞きしたことあるよね。

胸が痛くなったのは、男性の権利を求めるダミアンたちが、女性から「マスキュリニスト」と煙たがられるシーン。「Me too運動」が起こった時、日常的な女性差別を訴えた時、「フェミニストがまた何か騒いでいるよ」、「俺たち男だってつらいのに」という男性(そして一部の女性)からの白けた反応は、残念ながら現実でも散見される。大変つらいが重要な場面だ。

それから、「うまいなぁ!」と思ったのは、「わき毛やすね毛の生えた女性は普通にいる」描写があるのに、一夜をともにしようとした女性から「なんでこんなに濃い胸毛が生えているの!? 生理的に無理!」とダミアンが言われるシーンだ。彼はその後、友人の指南で「ムダ毛のお手入れ」に精を出すようになる。そうかぁ、気がつかなかったけれど、毛ひとつとっても、たしかにいまの社会では「男女非対象」だなぁ。この逆は常に起きているもんね。と、はじめて気づいたのでした。悲しいことに女性にとって「見覚え、聞き覚えの多い」シーンがふんだんに盛り込まれている本作だけれど、時々この「ムダ毛」のように、「気づいていなかった男女差」が現れ、ハッとする。

逆に、こちらの世界では女性が上半身裸になってランニングをしていたり、仕事ではかっちりとしたスーツを着ていたりする。

このように、男女が逆転することによって、何が「女性差別」として存在しているのかが浮き彫りになります。コメディゆえに「差別」の描写がややデフォルメ気味なので、「そんなことないよ!」と思う男性もいるかもしれない。でも、デフォルメじゃない表現もあるし、そこまでいかなくとも「似たような」ことは、実はたくさんある(本当に悲しいけれど)。

「元の世界が恋しい」ダミアンにはならないで

これだけ丁寧に、男女逆転世界における「男性差別」の実態をあぶり出したにも関わらず、少しだけ残念な部分がある。先述した差別の目に遭っても、ダミアンは「元の世界が恋しい」という発言をするのである。自分のこれまでの行いを反省したり、「元の世界に戻ったら、男女の非対称性について解決しなければ」とも言わない。逆転の世界では男性解放団体に所属し、男性の権利は訴えようとするのに。

この映画を観た方には、ダミアンのようにはならないでほしい。きっと少なからず覚えた、「男性に向けられる『差別』」への不快感を、なかったことにしないでほしい。そして、身近な女性が「差別」を受けていないかどうか、明日から少しだけ気にしてみてほしい。

日本版『軽い男じゃないのよ』

映画鑑賞後にTwitterで他の方々の感想を見てみたところ、「ネットフリックスジャパンに、日本版をつくってもらいたい」という意見を複数発見した。本作はフランス映画だから、たしかにその内容も多少は「フランス仕様」だったのではないだろうか。

なんせフランスは、『ジェンダーギャップ指数2018』で12位(149ヶ国中)の国だ。それに比べ、日本は110位と不名誉な下の下ランクである。フランスにはない(少ない)けれど、日本にはある(多い)「差別」があるはずだ。
詳細はこちら

では、日本版をつくる際に欠かせないことはなんだろうか。
ジェンダーギャップ指数の中で特にスコアが低い(男女のギャップが大きい)のは「経済的機会」と「政治的な意思決定への参加」である。前者だと収入における男女格差や女性管理職の少なさ、労働参加率の低さについて、後者の場合は、これまでに女性首相が誕生していないこと、女性議員の少なさについての描写になるだろうか。
(ちなみにスコアが高い項目は「教育の機会」と「保健・医療」で、これについて日本は満点に近い点数を取っている)

ジェンダーギャップとは離れるが、日本独特の「痴漢」などの性犯罪を扱うことも必須だろう(詳細はこちら)。

ネットフリックスジャパンさん、どうでしょうか?(勝手に投げかける)

最後に

気づけば2000字をすぎてしまっており、なんてつらつら書いてしまったんだ!と反省していますが、老若男女様々な人に観ていただきたい。目の前にある「差別」をきちんと認識し、「ないもの」にしないこと、そしてそれを解決していこうとすることが大切だと思います。

「女性がつらいのもわかるけど、男は男でつらいんだけど……」と思った方もいるでしょう。「わかるよ」と女の私が簡単にいうのも忍びないですが、少なくとも「男のつらさ」は存在しないもの、とは思っていません。

「男がつらい」人は、ぜひ、以下の図書を読んでみてはいかがでしょうか。私もまだこの分野は勉強途中なので、これで完全とは思わないけれど。

あと、Netflixオリジナルドラマ『13の理由』シーズン3は、「男子のつらさ」にきちんとフォーカスしているので、ぜひ観てほしいです。『13の理由』はテーマが重いので描写もきついものが多いですが、観る意義はとてもあります。

脚本家と各専門家、そして出演者たちの対談番組もあるから、視聴後にそちらもぜひ。

それから、先日観た『ぼくたちのチーム』もおすすめ。寄宿制男子校という「究極に男らしく振る舞わなければいけない」世界で、「男らしさ」の呪縛を解き放つ物語です。

こちらは読後感(鑑賞後感?)さわやかです。主人公に対して「おい、おまえ〜!」って思うシーンもありますが……。

「男らしさ」や「女らしさ」にとらわれすぎず、「人間らしく」生きられる社会になるといいよね。いつかはこの『軽い男じゃないのよ』という映画が「いつの時代の価値観だよ!(笑)」、「こんなことがあったなんて信じられない!」と若い子から笑い飛ばされますように。


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