私的、日本学術会議の問題本質

1.総理に、日本学術会議における任命拒否権はあるのか、個人的意見

日本学術会議の総理任命拒否の第1の問題は、法的に(日本学術会議から推薦された105人の会員候補の内の6人を)総理が任命拒否出来るのかとの議論だと思われます‥
日本学術会議の法律(日本学術会議法)によると、(推薦に基づいた)任命権者は総理にある(同第七条2)ので、個人的には、<会員のバランスを取る>ことが理由であれば、総理の任命拒否は認められるのではないか‥と考えています‥
2018年の内閣府と内閣法制局の法的整理も「内閣総理大臣に…推薦のとおりに任命すべき義務があるとまでは言えない」となっています(下文書)

もちろん様々な別の議論がある事も承知しています‥

2.日本学術会議の問題、党派的偏り

ところで(任命拒否権など総理にはないのだという議論とは別に)、日本学術会議の中身自体についても様々な識者から会議に対して批判的な意見が出されています‥
その中身は、日本学術会議は党派的に偏りがあり、意見の多様性を認めない一面性があり、排斥性があるとの批判です‥

・「日本学術会議はもともとは…ある政党に完全に支配された状態が続きました」(村上陽一郎 科学史家・科学哲学者)
・「学術会議は、こと文系に関しては、むしろ左派の牙城といった様相を長く呈していたように思うのは、私だけでしょうか?」(伊東乾 東京大学 大学院情報学環 准教授)
・「意見の多様性を認めず、特定の見解を全ての研究者に押しつけている印象」「多様な意見の存在を無視して「軍事研究はしない」という極めて一面的な結論を出してしまった」(戸谷友則 東京大学 理学系研究科 教授・天文学)
・「学術会議の声明は絶対平和を追求するのが「絶対的正義」であり、この声明に賛成しないのは不正義だと決めつける。安保法制反対もしかり。集団的自衛権を容認しないことこそが「絶対的正義」であり、どのような観点からであれ容認するのは許しがたい不正義だと容認派を徹底的に責めて、排斥する。」(衛藤幹子 法政大学 法学部政治学科 教授・ジェンダー政治学)

個人的に調べた所では、ここに挙げられた意見は学者の皆さんの中では特殊ではなく、特に中堅若手学者の皆さんのおおよその評価だとは私的には思われました‥

日本学術会議の党派的偏りに関しては、例えば法学者は、33~50%が共産党の影響が大きい学会(民主主義科学者協会法律部会(「民科」))出身者に偏っている、との指摘もありました‥

「14~15名の法学者のうち、5~7名を常に「民科」の会員が占めています。実に33~50%の割合です。」
「今回任命拒否された法学者3名の松宮孝明・岡田正則・小沢隆一も、民主主義科学者協会法律部会の理事経験者らです。」
「日本学術会議の法学者は民主主義科学者協会法律部会メンバーばかり」Nathan(ねーさん)

日本学術会議 元(前)会長の肩書で、共産党の選挙応援演説をし、SEALDsの応援演説をしていた広渡清吾 元日本学術会議会長も、民主主義科学者協会法律部会の出身者の様です‥
もちろん日本学術会議の肩書で政治活動を行うのは問題あるとまでは言えず、共産党だからダメなのではなく、日本学術会議全体として<バランス>が取れているかどうかの話です‥

3.菅義偉総理の問題

ところで菅義偉総理による6人の任命拒否が(日本学術会議の<バランス>の是正でなく)「安全保障関連法や特定秘密保護法などで政府の方針に異論を示してきた」(東京10/1)のが理由であれば、総理の任命拒否の正当性は失われるとは思われます‥
あと10/12に「(6人)除外の判断に杉田和博官房副長官が関与していた」(時事10/12)と杉田官房副長官の関与が報道されましたが、この杉田官房副長官は警察庁警備局公安出身のいわゆる警察公安畑の人物で、安倍政権の時代からかなり問題が大きいと言われて来た人物です‥
そして菅義偉総理自身も安倍政権の時の官房長官として、例えば、
TBS元ワシントン支局長・山口敬之氏の準強姦罪での逮捕状執行を取り止めさせた(週刊新潮17/5/18号)事に関わっていなかったのか、疑惑が持たれています‥
(これに関わった中村格 警視庁刑事部長(当時)は、菅官房長官の元でその後出世しています(週刊新潮17/7/13号)
さらに、森友学園問題での(近畿財務局が森友学園に支払える額の上限を事前に聞き、それより安い値段で売ったという)スクープを報じたNHK相澤記者を、記者職から左遷させる事に間接関わったのではないかの疑惑(ハフポスト18/10/27)があります‥
これら問題は、政府に近い人物の凶悪事件の逮捕を辞めさせた疑惑と、政府にとって不利益な報道に圧力を掛けた疑惑が持たれていて、これら疑惑が事実であれば、当事者のみならず国民にとっても害悪な行為としか私的も言う他ありません‥

また、「森友学園」の国有地売却問題を担当していた財務省近畿財務局職員の赤木俊夫さんが、決裁文書の改ざんを強要され自殺した件(東京7/13)では、菅義偉総理は、赤木さんの妻の真相解明の求めに応じる事なく、森友学園での公文書改ざんに関する再調査を改めて否定(朝日9/12)し、情報公開に消極的な国民にとって不利益な姿勢を見せています‥
これらの官房長官時代からの菅義偉総理の姿勢は、事実を歪め国民に開かれない、問題ある態度を取っていると、私的にも思わざるを得ません‥

4.日本学術会議における右派メディア・政治家の問題

ところで、今回の日本学術会議に関わる報道や情報伝達で、右派メディアや右派のメディア関係者、政権に近い与党議員が、事実をきちんと検証しないままズサンに扱っている問題がありました‥
フジテレビの平井文夫上席解説委員は、日本学術会議の会員は「大体」日本学士院に行き(あたかもほぼ全員が)年間250万円の年金を受け取れるという誤った情報を番組で流しました‥(ハフポスト10/6)
実際は日本学士院は150人の定員が決まっており、日本学術会議は任期6年210人なので、そもそも日本学術会議の会員OB全員が学士院に行くのは無理で、調べればすぐ分かる話でした‥

また、自民党の甘利明・元経済再生担当相は、日本学術会議が中国の「千人計画」に「積極的に協力している」とブログに誤った記載をしました‥(BuzzFeed10/12)
実際は、日本学術会議が会議として中国の「千人計画」に関わっているのは事実根拠がなく、甘利元経済再生担当相は訂正に追い込まれています‥
この話も中国の「千人計画」の危険性は指摘されて(古森義久/JBpress7/15)おり、日本人の参加の報道もされています(毎日19/4/25)が、日本学術会議がそれに関わっているかや日本の学者が意識して参加しているかは調べれば分かる事で、元大臣が余りにもズサンな情報を拡散して見識が疑われても仕方がないかと‥

これに留まらず(今回に限りませんが)右派メディアの情報のズサンさは、事実に対する謙虚さと慎重さが欠けると思われ、事実は他者が物事を多角的に検証する為の基盤でもあるので、結局は他者に対する態度が余りに適当であるとの現れであり、個人的には国民にとってこちらも害悪でしかないと強く思われています‥

5-A.日本学術会議問題の背後にある本質、日本の構造問題①超少子高齢化の問題

ところで、今回の日本学術会議の問題は、その背後に日本の構造問題の本質が大きく2つ横たわっていると思われています‥
その①つが、日本の超少子高齢化の問題です‥
日本は現在、世界最高水準の高齢化率(内閣府 令和元年版高齢社会白書)で、社会保障費は増大(財務省財政制度分科会18/4/11資料)していて、あらゆる資金が社会保障費に回されています‥

一方で、日本は生産年齢1人当りGDPは00年~米国より成長(クルーグマン15/10/20白川日銀総裁 当時12/9/27)しています‥

つまり日本の経済停滞(デフレ)の大きな要因は超少子高齢化の人口要因が多大だと考えた方が自然だと思われます‥

※これに関しては生産年齢人口でなく労働力人口で計算するべきとの批判(松本健太郎氏19/11/4)もある様ですが、高齢者はたとえ働いていても労働時間が少ないとも考えられ、労働1時間当たり実質GDPの国際比較(ゲオルグ・ブリント氏17/6/14・下図ソース)で見てみると結局はアメリカとほぼ変わらず、やはり日本経済停滞は超少子高齢化の人口要因が大きいとは‥

なぜ民主党政権が当時マニフェストを反故にしても三党合意で消費税増税の方針を当時決めた(日経12/6/15)のか‥
当然この超少子高齢化による社会保障費の増大を現実的に認識したのが要因だと言えます‥
消費税増税が必要ないなどという主張は、この日本の構造問題①である超少子高齢化を無視しているまやかしだと個人的には思われています‥
超少子高齢化の根本解決は移民の解禁だと思われますが、恐らく日本は大々的な移民解禁の選択をしない可能性が高く、今のままでは団塊ジュニア世代がいなくなる約30~40年後にならないとこの超少子高齢化による問題(高齢者増大・社会保障費増大問題)の根本解決はしないと私的には思われてはいます‥
当然、日銀の異次元緩和は対処療法で、それまで永遠に続ける必要があるのではと‥

5-B.日本の構造問題②アメリカとの戦争と沖縄基地問題、中国の人権問題

日本の構造問題の②はアメリカと中国の関係問題です‥
日本は先の大戦で関東軍の暴走などで中国に侵攻し(侵略し)、結果国際圧力の中で無謀なアメリカとの戦いを始めてしまい、多大なる国内外の犠牲者を出して、日本は敗戦しました‥
敗戦後に広がった国民感覚としては決して戦争などしてはいけない‥と同時に、特に日本の政府・官僚の中で、大国のアメリカに対して無謀な戦争を仕掛けてはいけない‥だったかと思われます‥

ところで、日本は沖縄を除く本土決戦は行われなかったので、現在の国内で考えれば地上戦は沖縄でのみ行われました‥
沖縄戦は、3ヶ月~5ヶ月間続いた、日本の死者が18万8136人(沖縄県出身者12万2228人(一般人9万4000人、軍人・軍属2万8228人)(他都道府県出身兵6万5908人))で、米軍の死者も1万2520人(沖縄県平和祈念資料館)という悲惨な戦闘でした‥
((参考)沖縄戦 NHK戦争証言アーカイブス

なので個人的には未だに多大なアメリカ軍の基地が沖縄に残っている事には問題が大き過ぎると思われています‥
ところが、普天間基地の辺野古移設に関して、当時の民主党政権は「最低でも県外」という鳩山由紀夫総理(当時)の発言を総理自身が反故にし、沖縄基地の軽減はここでも断念されました‥(日経10/5/5)
そして辺野古移設決定当時の外務大臣だった岡田克也議員は、
「普天間基地問題―辺野古への移設が最後に残された唯一の選択肢」「答えは辺野古に持って行くしかないということになりました。以来、民主党の考え方は、辺野古に移設させる。…という考え方です。」(岡田克也氏13/11/27)
と、辺野古移設が唯一の選択肢であると後にだめ押しをしています‥
つまり、辺野古移設に反対するならアメリカ政府も納得する具体的代替案がない限り個人的には実現不可能で、それを忘却したまま言い続けるのであればまた沖縄県民を騙す「最低でも県外」反復のまやかしだと思われています‥

ところで、ではアメリカとの関係は解消して、中国政府と関係を深めれば良いではないか‥との話もあるかもです‥そうすれば米軍基地を追い出せるはずだと‥
しかし残念ながら、中国政府は人権意識が私達とはまるで違い日本と一緒にやる事は出来ません‥
その中国政府の人権意識希薄の象徴が、民主化を求めた自国民に銃を向け死者1万人を出したと言われる「天安門事件」(BBC 17/12/26)であり、一国二制度を破壊しつつある今の香港(BBC8/14)であり、ウイグル自治区での人権弾圧(BBC19/11/26)です‥
(ここにチベットや内モンゴルも加える必要なんでしょうが‥)
つまり日本は人権意識の余りに違う中国政府とは一緒にやれません‥

日本は先の大戦で中国に侵攻し(侵略し)無謀な戦いをアメリカに挑んで国内外に多大な犠牲者を出して、もう戦争は良くない、そしてアメリカに対して無謀な戦いは仕掛けてはいけないとなり、国内的に平和な75年を過ごしました‥
そしていわば沖縄は今もその被害者になっていると言えます‥
これらの構造的現実を見ないで理想論を掲げて代替案を示さず出来もしない辺野古移設廃止を唱える、特に前の民主党政権にいた議員達は本当に酷いものだと個人的には思われてなりません‥

このアメリカと中国との本質的関係こそ、日本の構造問題の②だと思われます‥
(私個人は反対でしたが)当然、安保法制もアメリカからの要望にどれだけ歯止めを掛けて構築したかを、構造的現実から見る必要はあるのかと‥

6.(結論)理想を唱え、それによって日本の構造問題①②に対峙せず忘却してしまっている識者の問題

2.でも挙げましたが、ジェンダー政治学の衛藤幹子教授は、「学界が自らの「正義」を絶対的なものとして他者に押し売りする点」に触れ、日本学術会議について厳しく批判して問い掛けています‥
個人的にも強く共感しました‥

現在、私達が見ているのは、「絶対的な正義」を掲げ同時に現実の日本の構造問題(大きくは①超少子高齢化と②アメリカと中国との関係)対峙から目を背け続ける硬直化した左派の存在だと思われます‥
と同時に、事実に謙虚に向き合えない図に乗った(と私的思える)ズサンな硬直化した右派の存在もあると思われます‥

その上で、菅義偉政権は、馬鹿げた警察公安的な国民への情報コントロールを辞めて、正々堂々と正面から日本の構造問題①②を国民に説明し、地道な歩みを国民に促す必要があると思われてなりません‥
不妊治療の保険適用方針(NHK10/11)緊急避妊薬の薬局販売方針(中日10/7)選択的夫婦別姓の検討(NHK10/9)など、地味だが個別国民に望まれている政策に集中する必要があると思われています‥
(携帯電話料金の引き下げは、政府が関わってるかは不明ですがNTTのやり方が結果やや強引の印象(J-CAST9/30)なので、個人的には様子見ですが‥)

日本学術会議の問題は、本質的には日本の構造問題(特に①②)に対峙せず理想論に逃げ込んで忘却する特に識者の喧騒だと個人的には思われています‥
そしてそうではない賢明な識者の方々は、日本学術会議の(声の大きな)人達は(日本の構造問題に向き合えておらず)「絶対的な正義」に逃げ込んでいる‥と、リスクを犯して批判の告発をした、数少ない識者達を守って、この国の構造問題に一緒に対峙下さる事を願っています‥

そしてその対峙の先にしか、本当の「学問の自由」を含めた個人の人権が守られる地平はないのだと、静かに深淵で一般の人々は無意識で感じ続けていると思われています‥

(長い文書を最後まで読んで下さり、ありがとうございました‥)

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