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権丈先生、ふろむださんまで…「日本の生産性が米国より低い理由は高齢者が増えたから」説は本当なのか検証してみた

先日、私の大好きなふろむださんが、面白いツイートをされていました。

1980年から2014年まで、35年間の長期にわたった「日本と米国の経済パフォーマンス」と題された折れ線グラフは、2000年を100として「どれほど経済成長したのか?」を表しているようです。

「ほへぇー」と最初は受け止めていたのですが、考えれば考えるほど疑問点が浮かびました。以下、端的にまとめると以下3点に集約されます。

①1人あたりGDPと生産年齢人口1人あたりGDPの差は生産力なのか?
②三面等価の原則に照らして、生産・分配・支出に、生産年齢人口外の活動は含まれないのか?
③そもそも1人あたりGDPは何なのか?

これらの疑問を解消するため、以下の通り調べてみました。長文、ご容赦いただければと思います。


データの出所について

ふろむださん、えらいキレイなグラフ作りはったなぁ〜…と思っていたら、調べてみると以下コンテンツからの引用だと分かりました。ちなみに、筆者の権丈先生は社会保障分野で非常に有名な方です。

実データを確認するため、BISのWEBサイトにて「the cost of deflation:a historical perspective」について探したのですが、恐らくは私の検索の仕方が甘いせいでデータを確認できませんでした。

こちらの論文を発見したのですが、データも見当たら無いし、合っているのか間違っているのか…英語ができなくてすいません。

※もし、このnoteが権丈先生に届いたならば、グラフの元になった実データをどこかで公開していただければ…と切に願いします。

必要なデータは日本と米国の1980年以降の実質GDP、総人口、生産年齢人口の3点ですから、それぞれIMFと世界銀行のWEBサイトから代替としてデータを入手します。

■ちなみに「生産年齢人口」とは?
国内で行われている生産活動に就いている労働者のうち、中核の労働力となる年齢の範囲内にあたる人口を指します。現在、15歳以上65歳未満の年齢に該当する人口が生産年齢人口となっています。経済学用語の1つです。

実質GDPはコチラを参照ください。Subject Descriptorが"Gross domestic product, constant prices"で、Unitsが"National currency"が該当データになります。

人口はコチラ、生産年齢人口はコチラを参照ください。

これらのデータを加工すれば、以下のような表の完成です。これらのデータは、誰もがコピーできるよう設定しています。追加検証されたい方おられればご利用ください。

また、権丈先生が作成されたように、2000年を100とするグラフを作成してみました。Tableau Publicにアップしてますのでご覧ください。

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元の「日本と米国の経済パフォーマンス」画像に、かなり近付けたと思います。元画像は2014年までだったけど、2018年までに延長できたのも◎

さて、このグラフを元に権丈先生は以下のように述べられています。

そして、図のようにかなり長いタイムスパンである1980年から今までの、人口1人当たり実質GDP、生産年齢人口1人当たり実質GDPを眺めてみると、アメリカと比べて、日本はけっこうがんばっているように見える
 生産年齢人口1人当たり実質GDPのほうが1人当たり実質GDPよりもがんばっているように見えるのは、生産年齢人口の減少幅が総人口よりも大きいからである。
※太線は松本による加工。重要なポイントだと判断しました。

ふろむださんも以下のように述べられています。

日本の生産性が下がっているように見えるのは、日本人が非効率な働き方をしているからではなく、単に老人が増えてるからだ。
※太線は松本による加工。重要なポイントだと判断しました。

要は「相対的に見て人口比に占める老人が増えているから日本の生産性は下がっているように見えるだけ、生産年齢人口1人当たり実質GDPで見れば日本は米国より頑張っている」と理解しました。

果たして本当でしょうか?


2000年100基準ではなく、実際の数字を見る

権丈先生の作成されたグラフは2000年を100とした前後の「伸び」に注目したグラフです。そうではなく、実際の推移を確認しましょう。

米国は以下の通りです。

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「1人当たりGDP」と「生産年齢人口1人当たりGDP」の差分が少しずつ開いているように見えますが、実際は"数字の錯覚"です。

ある年に100だった指標に×50%すると50です。それから数年後に200に変わった指標に×50%すると100になります。その差は50から100の2倍に広がっていますが、×50%は変わっていません。

以下の数式を見て下さい。まさに「生産年齢人口÷総人口」こそ、上の計算で言うところの「×50%」です。

図1

米国の場合、この39年間で以下のように推移しています。軸のメモリが下限60%〜上限70%になっている点、留意下さい。

図1

この39年間で66%を中心に緩やかに上がっては下がってを繰り返していると分かります。ま、だいたいずっと一緒と言っても良いでしょう。まるで、3分の2は生産年齢人口と法律で決まっているかのようです。

続いて日本は以下の通りです。

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「1人当たりGDP」と「生産年齢人口1人当たりGDP」の差分が、米国同様に開いています。こちらも「生産年齢人口÷総人口」を求めてみましょう。

米国と比較がし易いように、青線をそのままに、日本=橙線をグラフに追加してみました。以下の通りです。

図1

1991〜92年をピークに徐々に下がり続け、2005年には米国を下回り、2018年には60%を下回って59.73%を記録しました。

ただ、そもそも論ではありますがGDPという数字を人数で割ったとして、その数字は何を意味するのでしょうか。

ふろむださんはストレートに表現されていますが「1人当たりGDP」という指標は、果たして本当に「生産性」を意味するのでしょうか。

そう言えば、デービッド・アトキンソンさんは積極的にメディアに露出されて「1人当たりGDP」を生産性と定義して、警鐘を鳴らされていますね。

日本労働生産性本部では「GDP÷就業者数」を労働生産性と定義し、購買力平価を用いて国際比較を可能にしています。その結果によると日本の生産性はOECD加盟諸国中21位だそうです。

しかし、本当にそうでしょうか? 人生の先輩方に反論をするのも恐縮ですが、幾つかの疑問点を指摘させて頂ければと思います。


「1人当たりGDP」は生産性を意味するか?

まず、そもそも論から考えたいと思います。「1人当たりGDP」は「1人当たりの生産性」と同義と言えるでしょうか

確かに「生産性」という定義を、インプットに対するアウトプットの吐き出す量だと定義した場合、インプット=その国の人口、アウトプット=その国のGDPという見方もあるかもしれません。

だからアウトプット(GDP)をインプット(人口)で割った数字は生産性だという理屈は理解できます。

しかし「1人当たり」という指標は、実際に一人ひとりを計測しているように聞こえて、実際のところは総労働者数で割った単なる平均値です。

平均値=だいたい真ん中を表す代表的な値と受け止めがちですが、左に偏ったロングテールを表す分布では、平均値は実態から乖離します。中央値の方が実態に即しているのですが、労働生産性は一人ひとりを測っていないので分かりません。

「1人当たりGDP」は、本当に「平均的な日本の生産性」と考えられるでしょうか?

違う観点からも考えてみます。GDPとは、様々な産業の付加価値の総和だと言えます。産業単位で「1人あたり」を求めると凸凹するはずです。

日本生産性本部が作成した「主要産業の労働生産性水準」資料によると、以下図の通り、産業によって生産性はバラバラです。では建設業631万円は生産性を上げれば不動産業5572万円を追い抜けるでしょうか? 産業構造など様々な問題で、容易では無いんだろうなーというのは伝わるかと思います。

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産業による違いだけでなく、都道府県による違いもあるでしょう。日経ビジネスに連載をさせて頂いているのですが、以前に生産性について調べた際に都道府県単位労働生産性を求めた機会があります。

その結果、沖縄県と東京都で同じ産業を比較しても、大きな違いが現れたことが分かりました。

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産業によっても、都道府県レベルで見ても、それぞれ異なる1人当たりGDPという数字を、全てマルっと1つの指標に納めてしまうことに、私は違和感を抱きます。


日本・米国の国家間の比較は適切なのか?

加えて「1人当たりGDP」は「1人当たり生産性」だと言うなら、その1人ってどんな人なんよ、とは思うのです。日本と米国、同じ1人という前提条件に本当に立てるのでしょうか?

ある学級の平均点やある店舗の平均売上を求めるのとは違います。あまりに様々なノイズが入り過ぎていないでしょうか。

日本と米国、国が違えば産業構成比も当然、異なります。経済産業省の2015年度版「ものづくり白書」によると、日本と米国のGDPに占める各産業比は以下のようになっています。

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先述した通り、産業によっても1人当たりGDPは異なるのに、その差を考慮せず国家間比較をすることは果たして適切なのでしょうか。せめて産業間比較に留めたい、とは感じます。

ちなみに権丈先生の書かれた原稿では特に言及がありませんでしたが、国際比較を行う際、現地の通貨同士ではどっちが大きいかが分からないので、ドル換算にします。

その際、その年の円・ドルレートを使うのではなく「購買力平価」という技術を用います。購買力平価には、通貨の異なる国であっても、同じモノは同じ値段で買えるはずだという考えが基本にあります。OECDでは、約3000にもなる財・サービスを同じ量だけ購入する際、それぞれの国で通貨がいくら必要かを調べ、物価水準などを考慮して、各国通貨の実質的な購買力を交換レートで表しています。

ちなみに2017年の円ドル換算購買力平価レートは、1ドル=99.59円でした。2017年の為替平均は112.13円でしたから、結構な差です。

ただ、購買力平価自体、完璧な指標ではありません。OECD自身が「正確な測定値というよりも統計的な複合値」と述べています。

また、2011年3月のOECD統計概要に掲載された「2008 Benchmark PPPs Measurement and Uses」では、推奨されない利用として、「各国の厳密な順位付けを行う上での正確な尺度」と書かれています。

■余談
日本の名目GDPに購買力平価を掛け合わせた購買力平価GDPを、2010年を100とする計算を求めたところ、米国の推移と全く同じになりました。権丈先生もこうした背景を踏まえて、比で比較されたのでしょう。


「生産年齢人口」で割る行為は正しいか?

15歳以上65歳未満を意味する「生産年齢人口」でGDPを割ると、それは真の意味での「生産性」と言えるでしょうか?

以下は、富山県にて作成された生産面から見たGDP表です。恐らくはこの表のイメージがあるから「生産年齢人口」で割ったら良いと思われたのかなーと感じます。つまり働いている人で割れば良い、という発想です。

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だとしたら「生産年齢」という言葉が誤解を生んでいるかもしれません。英語では「Working age population」と表現します。「働ける年齢」という意味で生産している・していないは別の話です。

もっとも、権丈先生が何を求めたいのかという気持ちは分かります。

だとすると生産年齢人口ではなく、労働力人口で割るべきではないでしょうか。なぜなら「生産年齢」には失業者、非労働力人口など「働いていない人たち」も含まれるからです。逆に「生産年齢人口」外にも「働いている人たち」が含まれます。

というわけで、先ほどと同じく世界銀行からデータを取得しました。コチラをご参照ください。労働力人口は残念ながら1990年以降のみしかデータはありませんでした。

結果は、以下の通りです。生産年齢人口1人あたりと労働力人口1人あたりで比較できるようにしました。

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労働力1人あたりの推移は、元の「日本と米国の経済パフォーマンス」画像にも掲載された生産年齢人口1人あたりの推移とは大きく異なります。日本は大きく値を下げ、米国はむしろ少しだけ値を上げました。逆転してしまいましたね。

実際の数字を見てみましょう。

米国はこちら。

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日本はこちら。

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日本における労働力人口に、65歳以上の高齢者が多くいることが伺えます。データブック国際労働比較2018によると、65歳以上の労働力人口は以下の通りです。(データは2016年)

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日本は770万人(労働力人口の約12%)に対して米国は892万人(労働力人口の約6%)です。そりゃ、生産年齢人口で割ると数字が変になっちゃうよね、という話です。

では、この差分(労働に就く65歳以上の高齢者。15歳未満の子どもはいないと想定する)を元に「日本の生産性が低いのは高齢者が増えたから」と言えるでしょうか?

それは前の項に戻りますが、GDPは付加価値の総和なので、人口で割った数字自体に生産性という概念を紐付けて語ることには疑念があります。本件はあくまで労働者人口で割るか労働生産人口で割るか「割る分母」の問題に過ぎないからです。

ちゃんとやるなら、産業別高齢者とか、そういうのを色々と求めた方が良いんでしょう。少なくとも単一指標でやるべき話では無いと感じます。

権丈先生は「アメリカと比べて、日本はけっこうがんばっているように見える。」とおっしゃられましたが、先生が知りたいことに対して、求めている計算内容、見るべき指標は少し違うのではないか、と感じる次第です。


漂う「生産性」指標

GDPを人口で割って生産性と見ることについては、経済学者の飯田泰之先生も批判的に見ておられます。私自身が調べ切れていないのですが、大勢いらっしゃるのではないでしょうか。

僕自身は、今回のnoteで指摘したような多くのデメリットは、メリットを上回るのではないかというスタンスです。使わない方が良いと感じています。皆さんのイメージする「生産性」と、実際に求める「生産性」に乖離がありすぎます。あくまで測れる「付加価値」のみ対象なのです。

物事は思っている以上に複雑に入り組んでいるし、そんな現代社会に鋭いメスを入れ様々な謎や疑問を徹底的に解明するのはナイトスクープの役目でもあり、メディアの務めです。

ところが池上彰さんが流行ってから、単一指標で社会をパッを分かりやすく表現する手法が流行ってます。それってどうなんだろう…と思う次第です。今回の「生産性」しかり。背景、前提条件が違えば、同じ指標でも全く意味を為さないわけで…。

ちなみに「生産性指標」については、意外と高学歴ほど引っ掛かっている印象です。みんなアトキンソンさん好きだな…。ふろむださんと言えば芸術的なほど右に左に意見を出し分けるプロなので、また違う機会には筋が通った別の見方を披露されるんかなーと思ったりもします。

以上、お手数ですがよろしくお願いします。

話は変わりますが、このような数字を使って色んなものの見方をする連載を日経ビジネス電子版でやっとりまして、もしよければ「講座をフォロー」して頂ければ幸いです。

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