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豊島美術館

基本的に懐疑的な性格をしているから、いい年をした色んな国の人が皆わかったような顔で水滴の床を流れる光景を見つめているのが、はじめは正直気持ち悪く感じた。

棚田と海が見渡せる小高い場所にその美術館はあった。ドーム状だが雫を想起させる形状をした白いコンクリートの空間。靴を脱いで入った。小さめの体育館くらいの広さがあった。天井は低めで照明もないけれど、大きな丸い穴が2つ空いていて、太陽の光が床に円を描いていた。木々や棚田や青空が見え隠れした。床には所々小さな穴が開いていて、染み出すように水滴が生まれていた。歪だが緩やかな勾配に従って水滴は床を流れる。水滴のフェイクであるかのようなオフホワイトの小さな球体やお皿が所々あった。

一つの水滴が目に止まった。数学的な美しさを孕んだ球体は、大きな水たまりに向かって速度を上げた。合流するその間際、水滴は自らのカタチを代償に波紋を起こした。悲しく切なく喜びと狂気に満ち溢れて飛び込み、そして溶け合っていった。目の裏が熱くなった。太陽の陽を浴びて立体的に輝く水滴の丸みが心から愛おしくなった。

手を組んで座り込み、生きる水滴の流れをじっと見つめた。しんとした静寂の中に、衣擦れの音が響く。顔を上げると、物悲しそうに微笑む白人男性の横顔が目に入った。そこら中で同じ目をした顔が見えた。僕は、その時間と空間と想いを、穏やかで茫漠とした強大な何かと共有している気分になった。


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