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W. A. モーツアルト:交響曲 第25番 ト短調 K. 183【疾風怒濤】

演奏:ヴァインベルガー室内管弦楽団
指揮:ガボール・タカーチ・ナジ
場所:チューリッヒ トーンハレ  収録:2016年 1月31日
演奏時間:約22分

若き17歳のモーツァルトが作曲した交響曲第25番。

17歳にして既に25曲の交響曲を書いていたことが最初の驚き、そして
この、若々しく、雄々しく、且つ緊迫感にあふれた曲を、未だ17歳のモーツアルトが書き上げたことが、次の驚きです。

この曲は、以前、日本では「しっぷうどとう(疾風怒濤)」という「愛称」で呼ばれていました。

「疾風怒濤」という言葉は、ドイツ語「シュトゥルム・ウント・ドラング」の訳で、18世紀後半にドイツの文学を軸とする芸術分野で起った運動のことを謂い、当時のヨーロッパ知識人なら誰でも影響を受けた一種の熱病です。

「理性に対する感情の優越」(つまり、自分の感情を大切にしよう)と主張し、後の、ロマン主義へとつながっていった思想でした。
この思想によって生まれた代表的な作品として、ゲーテの小説『若きウェルテルの悩み』や、シラーの戯曲『群盗』などが有名です。

このヨーロッパの若き作家たちの思想を、片田舎ザルツブルグに幽閉同然だったモーツアルトが敏感に感じ取り、ザルツブルグ大司教ヒエロニムスへの雄々しい憤りをこめた交響曲を書いた、ということに驚きを禁じ得ません。

先進の思想家たちの考え方に敏感に反応する、という能力は、やはり、天才の持つ必須の素養なのでしょう。

さらにもう一つ、モーツアルトはこの曲で、天才らしい、小さな改革をしています。
この曲は、オーボエ2台、ファゴット2台、ホルン4台と、弦楽五部で編成されているのですが、この時代にホルンを4台使うと言うことはとても珍しいのです。(というより、初めてではないでしょうか?)

音楽の響きを幅広く豊かにするのはもちろんのことですが、その当時の楽器では、出せる音も限られていたのです。
モーツァルトは、4本のホルンを使うことで、楽器の欠点を補おうとしたのです。

このように、表現したい音をなりふり構わずに追及して「やってしまう」ところが、いずれウィーンの宮廷音楽家たちから大きな反発を買ってしまうことになってしまうのですが・・・。

さて、そろそろ、大司教との軋轢の時間が迫ってきました。

⇒  W. A. モーツアルト:バイオリン協奏曲 第3番 ト短調 K.216 へ
  続きます。


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