〔民法コラム26〕集合物譲渡担保の効力


1 総説

 集合物譲渡担保とは、工場内の機械・器具又は倉庫内の商品・半製品・原材料など構成部分の変動する集合動産で、その種類・所在場所及び量的範囲を指定する等の方法により目的物の範囲が特定されるものを、一個の集合物として譲渡担保に供するものをいう。
 このような集合物譲渡担保は、不動産等他に適当な担保を有しない中小企業や、金融資産以外に有力な担保をもたないリース、クレジット会社等が融資を受けるための手段として、その需要が高まる傾向にある。

2 集合物譲渡担保と一物一権主義

 一物一権主義とは、一つの物権の客体は、一個の独立物でなければならないという建前をいう。
 一物一権主義の根拠としては、①物の一部の上に独立の物権を認めたり、複数の物の上に一個の物権を認めたりする社会的必要性ないし実益が乏しいこと、②これを認めると、その公示が困難であることが挙げられる。
 集合物譲渡担保は、複数の物の上に一個の譲渡担保権という物権を設定するものであるため、この一物一権主義との関係で、その有効性が問題となる。

〈論点1〉集合物譲渡担保は有効か。
 A説(無効説)

  結論:集合物譲渡担保は一物一権主義に反し無効である。
  理由:①一物一権主義に反する。
     ②法律上一個の物として公示する方法がない。
 B説(有効説)
  結論:集合物譲渡担保は一物一権主義に反せず有効である。
  理由:現在の経済的活動において、他に適当な担保を有しない中小企業等の経済活動を円滑にするため、集合物譲渡担保を有効とすべきである。
  ※集合物譲渡担保の有効性を肯定するための理論構成については、下記のような争いがある。
 B①説(分析論)
  結論:集合を構成する個々の物の上に譲渡担保が成立する。
  理由:一物一権主義に忠実に、伝統的な民法理論の枠内で処理すべきである。
 B②説(集合物論 判例・通説)
  結論:集合動産を経済取引上単一体とみることのできる集合物と捉え、この一個の集合物の上に譲渡担保が成立する。
  理由:物概念は元々相対的なものであり、経済需要に応じて物概念を拡張すべきである。

3 集合物譲渡担保の目的物の特定

 集合物譲渡担保が有効であるためには、物権一般の法理からすれば、譲渡担保の目的物の特定が必要である。とりわけ、内容の変動する集合物情と担保においては、目的物の特定性が必要である。
 判例(最判昭54.2.15)は、「種類、所在場所及び量的範囲」の指定を基準に目的物の範囲が特定しているか否かを判断している。

⑴ 種類の指定

 ある程度は抽象的な種類指定であってもよい。具体的指定(例えば、タバコ、コーヒー豆、シャツ、冬物背広等)であれば問題はないが、包括的指定(例えば、原材料、動産、在庫商品等)であっても、それが所在場所、量的範囲の指定と相まって担保の目的物が特定されればよい。

⑵ 所在場所の指定

 目的物自体に標識が付けられる性質のものである場合には、設定契約上一定場所に所在する物のうち一定の標識付きの物のみを目的物とする旨取り決めることで特定されるとみてよいから、目的物を別置しなくてもよい。
 目的物それ自体として非担保物と区別できる場合は、標識は不要である。
 一定倉庫内の同種の商品の一部を担保に供するときは、これを別置し、設定契約でその旨を約定する(例えば、「中央通路の東側の商品」)ことにより特定する。
 一定の所在場所内の商品全部を担保に供するときは、当該場所の指定のみで足りる。

⑶ 量的範囲の指定

 一定の所在場所内の物全部が担保に供されるときは問題を生じない。具体的には「○○倉庫内にあるサケ缶詰全部」といった指定がなされた場合である。
 一定の所在場所にある物の一部が担保に供される場合に、例えば「○○倉庫内のサケ缶詰3分の1」と指定されただけでは、「3分の1」が具体的物件のどの部分なのか判然としないから、目的物の特定を欠くことになる。この場合は、標識を付すとか、別置するとかした上、設定契約でその旨を指示しなければならない。

⑷ 附帯条件の影響

 設定者以外の者(第三者)の所有に属する物を除外する趣旨の附帯条件が付されると、目的物の範囲は特定を欠くことになるから、標識等で特定しなければならない。

[重要判例]
・最判昭54.2.15昭54重判[民法3]

4 集合物譲渡担保の対抗要件

 譲渡担保権設定後に流入してきた動産につき譲渡担保の効力が及ぶことを第三者に対抗するためにはどのような要件を満たすことが必要かについては、争いがある。

〈論点2〉集合物譲渡担保の対抗要件は何か。
 A説(判例・多数説)

  結論:(集合物論を前提に)集合物全体につき占有改定がされればよい。
  理由:集合物を一個の物と捉えることができるから、これにつき占有改定があれば、その効力は集合物を構成する個々の動産にも及ぶ。そして、設定後に流入する個々の動産にも、集合物としての同一性に変更のない限り、譲渡担保権の効力が及ぶ。
 B説(少数説)
  結論:明認方法を施すことが必要である。具体的には、ネームプレート、打刻、倉庫等の入口における表札の掲示等の方法による。
  理由:占有改定は公示機能として不十分である。

[重要判例]
・最判昭62.11.10

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