〔民法コラム18〕他人物賃貸借の効力


1 他人物賃貸借

 賃貸借契約(601条)は有償契約であるから、売買の規定が準用される(559条本文)。そのため、他人物賃貸借も、債権的には有効に成立する(559条本文・561条)。

⑴ 他人物賃貸人・他人物賃借人間

 他人物賃貸人は、他人物賃借人に対し、目的物を引き渡し、使用収益させる義務を負う。他方で、他人物賃借人は、他人物賃貸人に対し、賃料支払の義務及び契約終了時に目的物を返還する義務を負う。そして、他人物賃貸人が他人物賃借人から受領した賃料は、「無効な行為に基づく債務の履行」としての給付とはいえないため、原状回復の対象(121条の2第1項)とならない。
 他人物賃貸人は、他人物賃借人に対し、所有者から賃貸権限を取得する義務を負う(559条本文・561条)。
 所有者から目的物の返還請求を受けた他人物賃借人は、他人物賃貸人に対し、通知義務を負う(615条本文)。また、この場合、他人物賃借人は、他人物賃貸人に対する賃料の支払を拒むことができる(559条本文・576条本文)。

⑵ 所有者・他人物賃貸人間

 所有者は、他人物賃貸人に対し、不当利得返還請求をすることができるところ、善意の他人物賃貸人は、受領した賃料を所有者に返還する義務を負わない(189条1項)。他方、悪意の他人物賃貸人は、受領した賃料(190条1項)又は目的物の客観的利用価値(平均的賃料相当額 190条1項類推適用)を所有者に返還する義務を負う。
 また、所有者は不法行為に基づく損害賠償請求(709条)もできる。

⑶ 所有者・他人物賃借人間

 所有者は、他人物賃借人に対して、所有権に基づいて、賃貸目的物の返還(明渡)を請求することができる。
 また、所有者は、他人物賃借人に対し、不当利得返還請求をすることができるところ、善意の他人物賃借人は189条1項類推適用により、目的物の客観的利用価値の返還義務を負わない。これに対し、悪意の他人物賃借人は190条1項類推適用により、目的物の客観的利用価値を所有者に返還する義務を負う。
 なお、他人物賃借人が他人物賃貸人に対し、賃料を支払っていた場合、他人物賃借人は不当利得返還義務を負わないのではないかという議論がある。この点については、他人物賃借人は、賃料を支払っていた以上、利得がないとして、不当利得返還義務を否定する見解もあれば、賃料を他人物賃貸人に支払っていたというリスクは、他人物賃貸人との間で処理されるべきであって、所有者の負担とされるべきではないとして、不当利得返還義務を肯定する見解もある。

2 他人物賃貸借の終了時期

 賃貸借契約は、賃借物の全部が使用又は収益をすることができなくなった場合は終了する(616条の2)。そのような、賃貸人が賃借人に対して負う、賃借物を使用収益させる債務が賃借物全部につき履行不能になる場合とは、他人物賃貸借では、所有者からの明渡請求を認容する判決が確定し、強制執行を受けたときのように、他人物賃借人が賃借物を事実上使用収益することができなくなった時点と解されている(最判昭40.3.23、最判昭49.12.20)。これは、転貸借における履行不能が賃貸人が転借人に返還請求をした時点とされている(最判平9.2.25百選Ⅱ(第8版)[64])こととは異なるから、区別して押さえておくべきである。

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