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◯拷問投票254【第四章 〜反対と賛成〜】

 


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 その瞬間、長瀬の身体を貫いていたのは、激しい怒りだった。
 ――人型ロボットだと思って襲ったら、それが人間でした、だと? どこの戯言だ。ふざけるな。
 長瀬の怒りはアクセルを強く踏み込ませ、決して足の力を緩めようとしない。人型をしたものたちの群れへ、真っすぐと突っ込んでいく。
 頭の中では、被告人のことをお前呼ばわりしていた。
 お前の顔を見るたびに殺意を押し殺している人間がいることを、どうやら、ぜんぜんわかっていない。
 お前は人型ロボットを襲ったんじゃない。最初から、好みの女性を犯して満足したかっただけだ。お前は街中を歩いていた見知らぬ女性を見つけ、欲情した。人間だとわかったうえで殴りかかり、車に連れ込み、発散した。恐怖に染まった女性を見て、さらに興奮し、もっと恐怖させようとした。生きたまま乳房を切断し、痛がっているところを見て、世界を支配した気になった。
 お前は、法律に守られている。
 厳重な管理体制のもと、お前は誰にも襲われることなく、のうのうと法廷で嘘を吐きつづけた。
 なんで拷問投票制度ができたと思う?
 聞くまでもない。お前みたいなやつがいるからだ。
 お前は、理性で固められた人間社会のオヤツを貪り、社会に守られながら、社会を嘲りつづけた。
 もう、終わりだ。
 ここで理性は死ぬ。
 お前はいまにも絶叫し、あまりの苦痛に神に祈る。被害者の痛みを知り、世界に支配される屈辱を味わう。
 ひとつ、いいことを教えてやろう。
 ――人型ロボットを襲うということは、こういうことだ。