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◯拷問投票75【第二章 〜重罪と極刑〜】

「声を上げるようなことはしませんか?」
「初期設定では、声を上げることはないと思いますが、さきほども言ったように学習によって……」
「ああ、けっこうです。ありがとうございます」
 検察官の女性は、繰り返しを避けるためか、エンジニアの発言を遮った。
 日本において運用されている人型ロボットの九割はM2ロボットの類型種であり、また残りの一割もM2ロボットと性能の違いはほとんどない。
 M2ロボットを基準に考えるならば、被告人側の主張はどうだろう。そもそも人間か人型ロボットかについて歩行態様から判別できないのなら、夜道で偶然に見かけた人のことを人間だと断言することもできないが、これは絶対に人型ロボットだというように判断することもできない。エンジニアが言ったように、人型の生き物が動いていれば、それは人間だと捉えるのが一般的だと言える。
 ハンマーで頭部を殴ったときの反応も学習機能によって多様化するので、本物の人間と判別するのは難しそうである。
 検察官の女性は、手元の資料に目を走らせた。
「次に、M2ロボットの表情の動きについてお尋ねします。目を細めたり、口を窄めたり、頬を持ち上げたり、このような動作は人間と違いがあるでしょうか」
「ほとんどありません。初期状態からすでに繊細な動きが可能です。皮膚の完成度も高いですし」
「表情の動きを見て、これはロボットだと見抜くのは難しいと?」
「うーん。全体的には自然な動きをすると思いますが……」
 エンジニアは、三秒程度、法廷の天井を見上げた。
「でも、目の動きは不自然だと指摘されることがありますね。僕が答えるまでもなくご存じかと思いますが、自然に瞬きをするというのは難しくて、そのポイントで人型ロボットのことを見抜ける人もいます」
 佐藤の感覚でも、人型ロボットの瞬きは平均的な人間の瞬きよりもスピードが遅い印象がある。
 そのポイントでは、人型ロボットだと見抜くことができるかもしれない。逆に、そのポイントから、人型ロボットではないと見抜くこともできるかもしれない。
「その不自然な瞬きというのは、学習によって改善することはありませんか?」
「ないですね。そこは技術的な問題なので」
 人型ロボットの容姿は画一的ではなく、表情の動きも含めて学習性が高いので、人間の群れに紛れることができる。見分けるポイントとしては、瞬きの遅さというのが大きいのかもしれない。
「続いて、M2ロボットの身体の材質について、お伺いします。まず髪ですが、どのようなものが使われていますか?」
「専門的に言うと難しくなってしまいますが、人間の髪を参考にして化学的に配合されたものです。手触りでは人間の髪と区別できません」
「すべてのM2ロボットの髪は画一的ですか」
「カスタマイズできるようになっています。いろいろな種類があります」