【道徳二元論②】〇基礎理論〇 欲望を果たすための2つの規範
こんにちは、山本清流です。
『道徳二元論』の第2回目の講義です。
今回は、「欲望を果たすための2つの規範」というテーマでお話ししたいと思います。
要約は以下のとおり。
それぞれの個人が満足度を最大化するためには、自分の満足度を増やそうとすると同時に、他人の満足度を増やそうとする行動を抑制しようとするはず。他人の満足度の追求は、自分の満足度の追求を邪魔する。かといって、他人を邪魔すれば、自分も邪魔される。そこで、満足度を守るために、自己責任の規範と、平等主義の規範の、2通りの規範が生じてくるのではないか。
以上の内容を、深掘りします。
ぜひ、お付き合いください。
【人々が満足度を追求したとき】
前回の講義で説明した満足度を思いだしてください。
その満足度を人々が追求している世界を考えます。
その世界は、現代社会のような複雑な社会ではありません。
いわゆる「自然状態」です。
法律や道徳などの社会システムが一切ないところに、
満足度を追求している人間たちだけがいます。
どうなるでしょうか?
【リンゴを食べたいケースを考える】
Aさんはリンゴを食べたいとします。
Aさんはリンゴの木を探し、それを採集して、食べるわけです。
リンゴを探し、見つけ、採って、食べる。
これは利益追求的な行動ですよね。
しかし、その世界にあるリンゴの数は限られていますよね。
Aさんがリンゴを食べようとしたときには、リンゴがなくなっているかもしれません。
【リンゴがないとき】
Aさんはリンゴの木を見つけましたが、すでに、人が群がっていて、リンゴを食べつくしていました。
ほかのところに行ってべつのリンゴの木を見つけましたが、そちらも同じ状況でした。
こんな感じで、何度リンゴの木を見つけても、すべて他の人に食べられてしまっていました。
互いの満足度は比較可能ですし、すべての人の満足度の性向は同じなので、リンゴを食べた人とリンゴを食べなかった人では、後者のほうが満足度が低いです。Aさんは満足度が低くなります。
【つまり】
人間が複数人いる以上、リンゴを食べるには、他の人が邪魔です。
「ある人が満足度を追求する行動」は、「ほかのある人が満足度を追求する行動」を邪魔しているのです。
【どうすればいいのか】
Aさんは、こう主張するべきではないでしょうか。
「僕だけ、ひとつも食べてない。不公平だ!」と。
平等を主張するわけです。
他の人のせいで自分の満足度を上昇させることができないから、他の人の行動を抑制しなければいけません。
道徳を武器にすることで、もしも残っているリンゴがあるなら渡すように要求します。
これが、ひとつの規範となります。
こうして道徳が生まれたのだ、と指摘するのは簡単ですが、
実は、そう単純でもありませんでした。
【もうひとつの規範について】
Aさんが別の立場だったときのことを考えましょう。
【リンゴを手に入れたとき】
Aさんは苦心の末に、まだ誰も見つけていないリンゴを見つけました。
そのリンゴを食べようとしたときのことです。
突然、遠くから、Bさんが駆けてきて、
「わたしも、まだ食べていない。不公平だ!」と主張してきました。
平等を主張したのです。
リンゴは手元にふたつあったのですが、
そのうちのひとつを渡すように要求してきました。
このとき、平等を求める規範にしたがうなら、リンゴをひとつ渡した方がいいでしょう。
しかし、前提を思いだしてください。
人々は自分の満足度を追求しているのです。
満足度は多ければ多いほど好ましいのだから、リンゴひとつよりもリンゴふたつのほうが満足度が高いです。
合理的に満足度を追求するなら、Bさんにはひとつのリンゴも渡さないほうがいいのです。
【どうすればいいのか】
そのとき、Aさんは、こう主張するべきではないでしょうか。
「早い者勝ちだよ。先にリンゴを見つけられなかったのは、自己責任だ」
自己責任論を主張するわけです。
平等を求める規範にしたがえば自分の満足度が下がるので、べつの規範を持ってきて、対抗しようとします。
これもひとつの規範として必要になってきますよね。
【まとめ】
まとめると、
「平等にするべきだ!」という、平等主義の規範。
「自己責任だ!」という、自己責任の規範。
時と場合によって、これら二つの規範を用いることで、自分の満足度を高めようとします。それが合理的だからです。
今回は以上です。お疲れさまでした。次回は、さらに、このふたつの規範を深掘りします。