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◯拷問投票135【第二章 〜重罪と極刑〜】

 結論としては、同意の存在を錯誤していたのではないかという疑いはほとんどない、ということになった。この話題は、それ以上深く吟味されることもなく、大きな円卓の上から消え去った。  その次に議論の対象となったのは、同情して殺したとする被告人の供述が嘘だとするなら、本当の動機はなにか、だった。
 種々の証拠からして、第二の事件においては、被害女性を殺害したことについては計画性がなかったことが確認できる。
 では、第二の事件での殺害はなぜ引き起こされたのか。
 この動機については、殺害行為が始まったのがレイプ行為の終わった直後だったことからして、次のように推測できる。計画上は殺さないつもりだったが、レイプをしたあとになって、被害者を解放して逮捕されることが怖くなり、その場で計画を変更して殺すことにした、と。
見えないところにも思考の手を伸ばし、少しずつ事件の細部を描いていく。
 合議室で細かい話題を掘り下げることを繰りかえすうちに、佐藤は、だんだん裁判の思考方法に慣れてきた。
 いつもの日常生活では簡単な思考で済ませているところも、納得できるまで細かく分析し、総合し、また分析する。
 人の生死に関わっている以上は、それくらい優柔不断になることも必要だ。
 とはいえ、評議の前には想像もつかなかったような事件の姿が現れてくるということはなかった。細かく吟味したとはいっても、最終的な結論としては、評議を始める前から抱いていた印象のままである。
 被害者の同意は存在せず、被告人も被害者の同意を錯誤しているのでなかったならば、第二の事件についても、やはり殺人罪を適用することができる。しかも、身勝手な動機によって引き起こされた――。