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山本清流の傑作ショートショート③『筋トレの成果はいかに』

 新型コロナウイルスの影響で外出自粛をしている都内在住の大学生、新鍋さん(20)は、体力が落ちないように毎日筋トレに取り組んでいる。腕立て伏せ50回、腹筋50回と、わりと本格的に取り組んでいた結果、2020年4月に入ったあたりで腹筋が割れはじめた。

 かねてからの願いであったため、そのことを喜んで、さらに筋トレに励むことになった。

 そして、今日、4月18日、午前8時ごろのことである。新鍋さんが目を覚まして朝風呂に入ったとき、誤って冷水シャワーを浴び、ばくばくと心臓が動いた。その動きを抑えようとして、胸に手を当てたときのことだ。一時的に心臓が止まってしまった。

 「やばい。このままでは死ぬ」

 慌てて心臓が動いてくれるように祈ると、祈りが届いたように、ドク、ドク、ドク、と平常時のリズムで鼓動が再開した。

 衝撃を受けた。どういうわけか、心臓を自律的に制御する能力を手にしたのである。意識的に、心臓の鼓動を早めることができ、かつ、一時的に停止させることができた。

 「それだけなら、まだよかった」と語る新鍋さんの言葉は、言い過ぎではなかった。

 午前9時ごろ、心臓に留まらず、自由自在に副腎髄質からアドレナリンを分泌させたり、脳内でセロトニンを分泌させたりすることが可能であることに気が付いた。

 試しに、睡眠に関するホルモンであるメラトニンを分泌させると、急激な眠気に襲われ、眠りそうになった。「やばい、やばい」と慌てて、目覚めのホルモンであるコルチゾールを分泌させ、眠気を吹き飛ばしたという。

 「でも、まだ、それだけではなかった」と新鍋さん。

 午前10時ごろ、意欲や感情さえも制御できることに気が付いた。勉強をやりたいと思えば、燃え上がるようなやる気を用意することができ、恋愛感情が邪魔であれば、ただちに相手への気持ちを消滅させることができた。

 新鍋さんは語る。「自分の身体を動かしていたのは、ほんとに、自分だったのだろうか」と。

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