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◯拷問投票94【第二章 〜重罪と極刑〜】

 第一の事件に関する審理の終結というこのタイミングを見計らったのか、田中裁判長から、みんなで食堂に行かないか、という話が出てきた。
 裁判所内の食堂で、無償で昼食を提供してくれるらしい。
 この提案に裁判員のみんなが賛成したのは、達成感と充実感を合議体で共有したいという気持ちがあったせいかもしれない。
 同じ建物の中にある食堂は、私立高校の食堂みたいに意外と広かった。佐藤は、とくに考えることなくカレーライスを注文した。
 それぞれに注文した昼食を手に、補充裁判員も含めて十一人で、ひとつの長方形のテーブルを囲んだ。裁判官たちも私服だ。
 食事をスタートしても、自然な会話は発生しない。
 それほど距離は縮まっていなかった。もしかしたら、田中裁判長は、そのことを心配しているのかもしれない。
 トンカツ定食に箸を進めながら、田中裁判長は、口火を切った。
「みなさんは、法廷もののドラマを見たりしますか?」
 少し間があり、一番が応じた。
「僕はけっこう見ます。訴訟合戦とか、好きなんで」
「裁判官でも、そういうドラマを見るんですか?」
 四番が興味深そうに尋ねると、田中裁判長は、お茶目な笑顔をした。
「子供のころから好きでしたね。いろんなドラマに影響されて、小さいころは弁護士になりたかったんです。正義の味方みたいで、カッコいいじゃないですか。いつのまにか、裁判官になっちゃいました」
「へえ、なんか親近感、湧きます」
 慎重な会話だったが、徐々に堅さが崩れていった。たしかに評議が始まる前に、適度に打ち解けておくことも必要かもしれない。佐藤も、自分の入れそうなタイミングで会話に参加することを心掛けた。