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◯拷問投票97【第二章 〜重罪と極刑〜】

 五番も女性だが、年齢不詳なところがある。おそらく四十代から六十代だろう。それ以上の年齢の特定は難しそうだ。
 職業については明らかになっていない。佐藤の勝手な想像の中では、小学校教師ということになっている。とくに決定打はないが、なんとなく小学校教師だとすると納得できるような感じである。
 補充尋問のとき、五番は積極的に質問をしていた。被告人に対して「性風俗用の人型ロボットを正規のルートで購入し、合法的に人型ロボットと性行為をする、という方法は考えなかったんですか」と尋ねていた。「考えましたが、お金がもったいないと感じたんです」と応じた被告人に対して、「他人所有の人型ロボットを非合法に襲うことは、お金よりも大きなものを失うリスクが高くないですか」と問い詰めた。そのようなやり取りからしても、芯の強そうな女性である。
 六番は、もちろん佐藤だ。あんたはどんな人間か、と問われるとよくわからない。とりあえず合議体の中では最年少の部類で、立場としては若者の代表だ。
 どうでもいいことかもしれないが、殺人事件を娯楽にすべきでないとか、漫才は平和的であるべきだとか、そういう現代的な若者の価値観や感覚を、この事件の判決に反映させることが役割かもしれない。
 ほかの裁判員や裁判官からも、佐藤のことは、四番とともに若者の代表として認識されている。いまの若い人たちの感覚ではどうなのか、と話を振られることが多い。そのうちに若者一般の感覚で議論に参加したほうがいいのかもしれない、と強く思うようになってきたが、どうなのだろう。
 以上の六人の裁判員に加えて、ふたりの補充裁判員がいる。七番と八番だ。
 どちらも中年の主婦のように見える。七番は太った女性で、八番は太ってはいるが小柄な女性だ。
 法廷にいるときは法壇に座ることができない。法廷の隅っこでパイプ椅子に座って傍聴している。合議室においてはほかの裁判員と同じように裁判官に質問することもあるが、立場上、発話回数は少ない。法律上も、補充裁判員が積極的に評議に参加することはできないとされている。
 とはいえ、食堂では、わりと口を開いていた。補充裁判員同士として親近感が湧くのだろうか、七番と八番は仲のいい様子である。
 果たして、事件に関する議論に耳を傾けるだけというのは、不幸なことなのだろうか、恵まれたことなのだろうか。どうあれ、ふたりとも責任感は強そうで、補充裁判員として事件と真剣に向き合っているようだった。
 以上の、十一人。
 それぞれの個性が見えてくると、お互いの警戒感はより薄れていった。