見出し画像

◯拷問投票74【第二章 〜重罪と極刑〜】

「M2ロボットの歩行についてですが、近年は、歩行制御の技術はかなり進歩しているという話があります。ぶっちゃけたところですが、M2ロボットが歩いているとき、それを人間だと誤解することはありえますでしょうか?」
「というより、ほとんど誤解すると思います」
 エンジニアは、あっけらかんとしている。
「M2ロボットの歩行は、人間の歩行を詳細に分析したうえでプログラムされています。違和感なく滑らかに動けるように。ですから、歩いているシルエットだけを見れば、これはロボットだというようには受け取らないと思います」
「ということは、街中をM2ロボットが歩いているとき、それを見た人は『これは人間である』というように捉えるのが一般的、ということでしょうか?」
「ほとんど違いがないですから。もちろん、衣服を身に着けていなければロボットだと思うでしょうが」
 現代においては、人型ロボットの多くは衣服を身に着けている。佐藤の感覚でも、街中を歩いている人型ロボットを見抜くのは難しい。歩行だけでは、さすがに判別できないだろうと思った。
「M2ロボットの取り扱い説明書によりますと、身近な人の歩行情報を取り込んで真似るシステムになっているとありますが?」
「はい。そこはまさに学習機能です」
「とすると、人型ロボットの歩行というのは、個体ごとに、それぞれ個別化していくのであって、この歩き方をしているなら人型ロボットだ、というように判断することは難しいですか?」
「おっしゃるとおりです。人型ロボット特有の歩き方というのは初期設定だけです」
「学習機能によって、人型ロボットの動きは個別化していくということですね。では、たとえば、路上を歩いているM2ロボットに対して、急に頭部を叩くようなことをしますと、どのような反応をするでしょうか?」
「個体によって違います」
「そこも学習機能のためですか」
「はい。なので、基本的には歩行と同じです。初期設定としては同一のものになっていますが、身近な人の動きを真似る学習システムによって動きは徐々に変わってきますので、こう動くだろうと断言することはできません」
「ちなみに、M2ロボットの初期設定では、突然に頭部を叩くようなことをしますと、どのような反応をしますか?」
 数舜の間を置いてから、エンジニアは答えた。
「具体的なところは実験してみないと断言できませんが、おそらく、まずは動きを停止します。それから振り返り、背後を確認します。基本的には人間と同じように危険を察知したら逃げるようにプログラムされているので、背後に立っている人を危険だと判断すれば、その人から遠ざかるだろうと思います」
「その動きは、人間みたいに滑らかでしょうか?」
「ええ、それは間違いないです。初期設定とは言っても、すでに人間の動きを習得しておりますから」