トライブマーケティングに取り組んだ数年、いま振り返ってその価値を考える
Social Date Lab. ストラテジックプランナー/アナリスト 岡本 悟
経営戦略室 室長 小谷 哲也
今、注目されるトライブマーケティングとは?
ーーはじめに、「トライブ」に着目した理由を教えてください。
岡本:まず我々は、バイアスのかかっていない「生の声」を拾いたいというところから出発しています。その上で特定の商品やブランド、ブランド周辺の話題が、どの属性の人に、どのように語られているのか、またどんなメッセージを届けたら良いのかをSNS(主にTwitterとInstagram)のデータから紐解いています。ユーザーがSNS上でどのような行動をしているのか、どんな情報を収集しているのか、趣味・嗜好を探り、グルーピングしたものを「トライブ」と定義しています。
小谷:これまでのマーケティング業界では「30代、女性、趣味〇〇」といった平均的な特徴に揃えたペルソナ像や、媒体のデータを用いた大まかなセグメントに頼ってきましたが、SNS時代が到来し、一人ひとりの生活者が多様に発信できるようになったことで、生活者のデータから「本当のターゲットは誰なのか」より具体的な像を捉え直す企業が増えました。性別や年代だけでのカテゴライズではなく、「n=1」の生活者の声(発信)や行動から、個々の価値観やライフスタイル、どういったトピック・話題にポジティブ/ネガティブに反応しているのかといった特徴を分析し、さらにそこから共通した価値観・特徴を持つトライブを捉えられるようになりました。SNSデータ起点にブランド周辺のトライブを分析し、新たなターゲット像を見つけるのがソーシャルトライブ調査という自社のサービスになります。
ーートライブをどのように活用するのでしょうか?
岡本:まず、そのトライブが市場に対してどのくらいのボリュームがあるのか、また、商品やブランドとの親和性がどれだけあるのかを見ます。これらの両面が大きいトライブを施策に活用していくことを推奨しています。
小谷:調査では具体的な発信内容やフォロー傾向ベースでの分析ができるため、どういうことにターゲットは共感しそうなのか、データ起点である程度仮説を立てながら、コミュニケーションコンセプトの設計や、広告コンテンツの制作、共感を得られるキャンペーン、ソーシャル起点のPRなどに活かすことができます。ターゲット市場を捉えながら、戦略を持って統合的なコミュニケーション設計も可能。トライブの種類だけでなく、トライブの価値観や、そのトライブが市場で占める割合まで見ることができるので、コミュニケーション全体の道筋を描くための第1歩目として利用する企業も多いですね。
岡本:例えば実際の施策では、ターゲットに情報が届きやすく共感も得やすい、インフルエンサー投稿のニーズが高くなっています。ターゲットに対して、データをもとに最適なインフルエンサーをバイネームで提案し、社内の部署連携によってキャスティングから投稿ディレクション、実績レポートの制作までサポート可能です。さらに投稿を広告として活用するケースもあります。
ーーインフルエンサー施策でいうと、トライブ調査をしなくても、フォロワー数の多いインフルエンサーを見つけることできそうですが?
岡本:ただやみくもにフォロワー数が多い方をキャスティングするのではなく、本当にブランドの情報を欲しているフォロワーや、商材の良さが響きやすいフォロワーを多く抱えたインフルエンサーをトライブ調査から導き出し、ターゲットとなるトライブと親和性の高い方を起用します。
ターゲットが明確になるという強み
ーーどのような課題感を持つ企業におすすめですか?
小谷:生活者の価値観がわからず、ターゲットを見直していきたい企業や、自社の顧客・ファンが解像度高く理解できていない企業におすすめです。某スニーカー会社の事例ですと、これまでの顧客とは明らかに異なる新しいターゲット層をSNSデータから見つけることができました。他にも、新規参入する企業におすすめ。スパイスボックスでは、日本に初上陸した海外ブランドに関しての調査・分析などを実施しました。(※詳細は「トライブマーケティングの成功例」の項目に記載しています。)
岡本:顕在顧客に対してのアプローチを積極的に行ってきた結果、新規層の顧客獲得が課題になってきた企業やブランドにもおすすめです。トライブマーケティングを駆使すると、まだ商品を知らない潜在顧客が市場にどれだけいるのか把握することが可能です。また、従来のペルソナ的な手法においては年代ごとにターゲットを見ることが多いですが、トライブマーケティングを実施することで興味や価値観でターゲットを捉えられるため、トライブごとの普段の投稿傾向なども知ることができ、かなりターゲットの解像度を上げることができます。
ーーやりがいはどこにありますか?
岡本:あらかじめクライアントが持っているターゲット仮説に対して、あっているかどうかをデータで明らかにできること。調査結果によってバラバラになっていた方向性が1つに決まることは嬉しいですね。
小谷:ターゲットが明確になることはおもしろいです。よりSNS的なペルソナやトライブが見えるとコミュニケーションやマーケティングの戦略設計も立てやすくなります。企業が持つ課題に対して新しいターゲットを提示できて、かつ結果を出すことにつながっている点はやりがいですね。
岡本:僕は、データを出すことや、データから何が見えるかの分析力がスキルとして身についていくこともやりがいです。そして、クライアントの課題に対してデータを活かしながら解決する方法も年々身につけられています。
小谷:1つのSNS投稿が大きく共感されて話題になることで、ブランドの投稿(UGC)が増え、マスメディアに取り上げられるという体験は、コアなファンを起点にブランドへの熱量がどんどん広がっていく様子を実感できておもしろいですね。
トライブマーケティングの成功例
ーーTwitterやInstagramだとどちらの施策のほうが多いですか?
岡本:Instagramのほうが少し多いですね。ただ、商品カテゴリや企業が目指している内容によってもどちらが最適かは変わります。過去事例で言えば、エンタメや子育て関連のカテゴリだとTwitter。コスメ系だとInstagramの方が使用感や生の声を拾いやすい印象です。どのSNSを使うかはクライアントから指定をいただくこともありますが、スパイスボックス側からも、クライアントの課題にあったSNSを提案することや、両方を同時期に実施することもあります。全ては目標からの逆算で決めています。
小谷:僕はTwitterを使った施策経験が多いです。Twitter上の共感文脈を起点に、生活者のトライブを仮説立てながらターゲット戦略を策定して進めたキャンペーンなど。社会的なイシュー(課題や問題)を捉えたトライブ起点のPR施策はTwitterの方が効果が出やすい部分もあります。
ーーお二方でやられた施策で記憶に残っているものはありますか?
岡本:海外のプロテインブランドを扱ったときですね。海外から輸入して日本初上陸という商品だったのですが、トライブをもとにSNS全体の施策を担当しました。実際に購買数にも繋がっていますし、その後同じブランドの他のシリーズでも依頼をいただくことができました。
小谷:トライブの考え方や、実際に分析で明らかになった複数のトライブに対しクライアントから共感を得られたのが大きかったですね。クライアントとも一緒にディスカッションしながらトライブを選定していけたのも、お互いの目線や目的を揃えて戦略を考えるきっかけになり、成功できた理由だと思います。インフルエンサー施策やSNSアカウント運用、キャンペーンなどSNS上で連動した施策を実施しながらターゲットトライブの反響を見て、さらに深めるトライブを吟味していきましたね。
岡本:もちろん売上も大切ですが、クライアントの求めることに答えられたのが嬉しかったです。商品認知やブランディング、売上など様々な指標がありますが、個人的には自分の行った施策がマーケットに対して影響を生み出せているとやりがいに繋がります。
スパイスボックスの根幹にある考えとは?
ーースパイスボックスにはどんな特徴がありますか?
岡本:きちんとデータを参考にする文化がありますよね。いくらデータを出しても、直感的に良さそうな施策に決定してしまうケースもありますが、スパイスボックスの人は生活者のインサイトデータをベースのロジックにして考えてくれる方が多いなと。また、社風に関しては、意志のある方が活躍している印象ですね。クライアントが言っていたことを全て鵜呑みにするのではなく、課題感を自分ごと化して、何が本質的なのかを考え、おかしいと思ったことは指摘するので、信頼につながっているのだと思います。たまに自分ごと化しすぎて熱が入り過ぎた結果、頑張り過ぎてしまう方もいるので、そこは少し心配しています。
小谷:1つは、ブランドが生活者に共感されることでつながりを強くし、長く顧客でいてもらえる状態にしていく「エンゲージメントコミュニケーション」の考え方をスパイスボックスは大切にしています。人から共感を得るためには、まずはその人を理解しないといけないので、SNSデータから特徴を分析しトライブを捉えるという考え方は、SNSがある以上大切にされると思います。同時に「n=1からソーシャルマスへ」という考え方も掲げていて、「n=1」の顧客や生活者の声を大切にしています。n=1の声が派生して共感される文脈が生まれ、トライブという共感性の高い集団に強く共感されるものとなり、さらにより広いマス層にその文脈で情報がひろがり、ブランドを届けることができるのがSNS時代だなと。そのためにも企業は顧客や生活者を大切に見て理解する努力をしなくてはいけません、先述のエンゲージメントコミュニケーションとも繋がる部分があります。
トライブマーケティングの今後を予想
ーー現時点で課題に感じている部分はありますか?
岡本:トライブ施策がどれだけ購入に結びついたかをデータ起点で見ることは、まだまだ難しい部分があります。より解像度高く得意先のビジネスに「貢献できている」と実感できるようにしていきたいですね。
小谷:そうですね。数年実施してきた中で、トライブ内でのトレンドも移り変わってきているので、変化をスピーディに把握しながら、クライアントに対して結果を出していく対応力が必要だなと。比較的狭い領域の施策(いちキャンペーンやアカウント運用)になってしまうこともありますが、トライブを俯瞰して捉えて、より大きく統合的なマーケティング施策を動かしていきたいです。
岡本:調査結果だけを出して終わりにするのではなく、インサイトを踏まえて施策の提案までできることを強みとして出していきたいですね!
小谷:より多くの企業の戦略を書いていきたいですし、この数年、早くからトライブについて取り組んできた立場としても、トライブに価値を感じてもらえるようこだわってやっていきたいですね!