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n=1の生活者の声から見る「顧客化トリガー」は、ビジネス貢献につながるマーケティングへどう進化させるのか

生活者の多くがSNSを使うようになった現在、SNSを駆使することはマーケティングやPRにおいて欠かせないものとなりました。同時にクライアントが広告代理店に求める動き方や関わり方にも変化が表れてきています。
今回は、事業戦略執行役員の角田和樹とクリエイティブディレクターの飯泉翔太の2名、それぞれの立場からスパイスボックスが確立していくべき事業のあり方やこれからの未来について語ってもらいました。SNS上のビッグデータをビジネス貢献に繋げる方法についても考えます。

取り組んでいる業務

——現在、取り組まれている業務について教えてください。

角田:事業戦略を考えて推進する役割と、コミュニケーションプランニング領域との、主に2つあります。事業戦略部分は、スパイスボックスの強みをしっかりと言語化し、世の中や生活者の消費行動の変化、クライアントやマーケット分野が持つニーズなどの外部的な要因と自社の強みをどうしたら接着できるか、価値あるものにできるのかを常にPDCAを回しています。コミュニケーションプランニング領域では、ニーズに対してしっかりと提供価値のあるものにできるよう飯泉と一緒にプランニングしています。

角田 和樹
(執行役員 事業戦略・プランニング担当)

飯泉:僕はコミュニケーションプランニングのクリエイティブ部分の責任者となることが多いので、例えば食品会社のいくつかのブランドでは、クリエイティブディレクター(以下、CD)を務め、マーケティングの責任者の方と向き合っています。他にも、今期からスパイスボックスの事業戦略にも少し関わらせてもらっているのですが、すごく楽しいです。自分が感じていたことを経営層と話せるカルチャーや環境っていいなって思います。

飯泉 翔太
(アカウントプランニング クリエイティブチーム クリエイティブディレクター)

クライアントが求めることの変化

——クライアントから求められることに変化を感じますか?

飯泉:CDって、実はものすごく営業職なんだと感じています。クライアントが言いたいことや考えていることをいかにインストールできているかが重要で、うまくいくと長い付き合いにもなる。ちゃんとクライアントを理解しているCDをクライアントも求めているんですよね。

角田:コロナ禍やウクライナ情勢、人口減少、少子高齢化、経済的にポジティブではないニュースが増えることで、マーケティング市場全体でも売り上げを伸ばしていくことが厳しい局面である空気を感じるようになりました。
これまでは、クライアントからもブランディング領域、認知領域、刈り取り領域など、領域ごとにミッションやKPIを置いて、達成すればそれらがつながることを前提とした与件やオリエンが多かったのですが、今は我々がブランディング~認知・共感の獲得~商品・サービスのトライアル獲得を強みとしている中で、これらがどうビジネス貢献につながるかのマーケティング全体の構造を捉えるオーダーが増えました。

これまで我々が「エンゲージメントコミュニケーション(※)」と言っていた、ブランド全体にエンゲージメントしてもらうという抽象的なことから、商品やサービスなどの提供価値にエンゲージメントしてもらうことでトライアルを獲得できるか、また、生活に変化が起きるのかが重要になったように感じます。

(※)エンゲージメントコミュニケーション
SNSやソーシャルメディア上の生活者の反応データ(いいね!やシェア、コメント、リツイートなどを、マーケティング用語で「エンゲージメント」と呼ぶ)を分析、活用して企業と生活者を繋ぐコミュニケーション施策を設計すること。企業やブランドのメッセージをターゲットに届けやすくするために、SNSやソーシャルメディア上のデータからターゲットが持つ興味や問題意識、トレンド、社会状況などを把握して施策に活かす。スパイスボックスが定義。

飯泉:僕は並走してほしさを感じる。デジタル施策だけでなく、一緒に課題に向き合ってくれるパートナーを求めているような。実際に、担当しているアパレルブランドの場合も、コンサルに近い形で関わっていますし、金融商品を扱う会社でも明確な売り上げ目標に対してではなく、ざっくりとしたブランドの課題から考える機会が増えました。更には、オリエンシートがなく、「来年の春どうしましょう?」と、課題自体を一緒に考えることも増えました。

角田:確証は得ていないのですが……クライアントからしたら、広告代理店以外にもコンサル領域の会社に頼むという解決策の手法もあるわけです。コンサルは事業面よりも経営レイヤーやシステム面の課題発見から解決をしてくれますが、最近だとコミュニケーションの方まで担当領域が落ちてきていることもあります。
クライアントが設定した課題に対して動いてほしいというニーズより、マーケティングコミュニケーション領域での課題は何か? を考えるところから入ってもらいたいという変化を感じます。もちろん明確な課題や答えがない場合も多いので、一緒に探りながらトライアンドエラーを繰り返す作業をしたいニーズがあるんだろうなと。だからこそ、飯泉という1人の人間に対して、大手企業のCMOクラスが「飯泉さんがいい!」と言ってもらえるんだと思います。

n=1とSNSの声を聞く

——クライアントから問いが来たとき、どんな風に考えていますか?

飯泉:まずは、すごく歩いて考えます(笑)。次に、クライアントが抱えている課題やいきたい方向性などのオーダーに対して、それが本当に正しいのかを検証します。例えば、受験生をターゲットにした施策で「合格を印象付けたい」というゴールだったのですが、ブランド側が「合格できる!」と断言することに懸念を抱き、半年前まで受験生だった5人にヒアリングをしました。すると5人とも「嘘でもいいから絶対合格する」と言ってほしいことがわかったので、そこからコアアイディアや受験生に伝わるコピーを考え出しました。
しっかり噛み砕いた上で、インプットしたいので、当事者にヒアリングしたり、SNSで声を探したりします。

——「n=1」の実際の声を探すのがスパイスボックスらしいと思いますか?

飯泉:サボらずに泥臭く探り続けることが、かえってかっこよく見えてスパイスボックスっぽいなって思います。そこに答えがあることも多いですし!

角田:「ソーシャルビッグデータから分析して生活者のインサイトを発掘する」って言うと教科書通りで1種のフレームっぽいけど、n=1は近所のおばさんや受験生のヒアリングなどもあるので、自分も勝手に、会話の中で人の生き様や生きがいをインタビューしちゃうんですよね(笑)。この前も子どもの散歩を朝していたら、10年ぶりに会った近所のおばちゃんがいて、話してみたら、旦那さんが能に取り組まれている方だったみたいで、今のこの瞬間に目を向けたいから家にテレビはなく……ってことを初めて知ったんです。色々な人と関わることで、色々なことにアンテナが立つようになった人種ってスパイスボックスには多いと思うんですよね。

——ブランドの顧客の考えを深ぼることは多いのでしょうか?

角田:重要なのは、その人が実際はどんな人なのかという「実体感」を知ることなので、n=1の声を聞くことも重要です。データだけ見ていても「なんとなくこういった人」というペルソナ像で終わってしまいますが、n=1の誰かの情報が入ることで急に我々が標榜している「トライブ」の解像度が高まり、ターゲット像がハッキリしだすんです。ソーシャル上から発掘した定量データとn=1の声をかけあわせることで、インサイトの分析ができるんだと思います。

顧客化トリガーとは?

——最近スパイスボックス社内で聞く「顧客化トリガー」って何ですか?

角田:クライアントからすると、自社の商品が生活者とどのくらいの距離感なのかが気になります。商品を知らない未顧客の状態なのか、商品は知っていても買いたいとは思っていないのかなど。どういうインサイトのボタンを押せば、「買いたい」や「買ってみた」「もう1回買ってみた」と次のファネルに進めていけるのか、そのボタンのことを「顧客化トリガー」と呼んでいます。

スパイスボックスは、生活者の声を知るためにソーシャルビッグデータを自前で持てるようにして、データからインサイトを紐解いていくプランニングの強化を10年近く実施している歴史があります。生活者の声を知る理由が、どういう顧客が何を求めているのかを細かく把握していきたいニーズに変わりつつあるため、ビジネス全体にどう貢献するのか、また生活者インサイトが何に寄与するのかまでを設計する必要も出てきています。今まではソーシャルイシューや生活者インサイトの体系化にとどめていましたが、顧客化トリガーという概念まで昇華して、我々の強みをアップデートしながら進めている段階です。

——ブランドへの共感という抽象的なものより、検討を進めるための後押しやブランドを選んでもらうキッカケなど、具体的な顧客化トリガーに寄与するデータの使い方が重要になってきているのでしょうか?

角田:n=1の生活者から出てくるイシューをどのようにマーケティングに活かしていくか、カテゴライズしていくことは顧客化トリガーの明確化につながります。どこの誰にどういう情報やブランド体験が、どういう段階で求められているのかをカテゴライズすることで、マーケティングファネル上でのポイントを明確にでき、それを踏まえたコミュニケーション構造がビジネス貢献に繋がっていくと考えています。

飯泉:顧客化トリガーという単語ができる前ですが、金融商品を扱う企業の施策は近いものがありましたね。投資系の金融商材は知識も必要で、生活者自らが選ぶことが難しい商材のため、誰かの意見を参考にしたいインサイトがありました。ただ、インフルエンサーを真正面から使うことはできないので、その界隈で参考にされているインフルエンサーが自発的につい話題にしたくなる企画を考えました。

——顧客化トリガーの見つけ方は?

角田:スパイスボックスでは、「ヒト軸」と「コト軸」で生活者インサイトを発掘するソーシャルリスニング手法をメソッドとして持っています。
この2つを使って、どういうトライブのどういうファネルの人が、顧客化までのジャーニーの中でどういう声を発信しているのか、どういうイシューやニーズを持っているのかを発見していきます。

分析したデータをブランドとの関係性の状態で整理する顧客セグメンテーションでカテゴライズしながら、それぞれの顧客化トリガーを言語化していくという考え方が手法になります。また、n=1のインタビューも大事になります。すでに顧客になっている人に対してインタビューを行うとリアルな購買理由がわかるので、SNSデータと合わせて見ていきながら、どこが顧客化トリガーとして機能しそうか判断していくと、売り上げにより寄与できる、強い顧客化トリガーを見つけだすことができます。

——これまでスパイスボックスが取り組んできたSNSデータ分析との違いはありますか?

角田:今までスパイスボックスがやってきた調査では、SNSでどのような共感がどう大きく広がっていた(エンゲージメントしていた)のかを分析するために定量的な集計データにこだわっていましたが、エンゲージメントしていることが顧客化トリガーにつながる訳ではないので、今はn=1のまだ見ぬ兆しの声や、大きくはないけどみんながなんとなく共通して思っていることを発してくれている声も見落としてはいけないと考えています。
抽象と具体をうまくブレンドしていきながら、顧客化につながるコミュニケーションと、具体的に機能する顧客化トリガーまでブレイクダウンする我々のプランニング力の進化が試されるなと感じています。

マーケティングにおけるSNSの強みとは

——SNSがビジネスに貢献できるポイントは?

角田:結局、SNSというツールやプラットフォームは時代とともに移り変わると思うんです。ただ、生活者が誰でも情報を発信できる時代にはなったので、SNSの上にはn=1の生活者の声を知れるタネがたくさん転がっています。それを大切に拾って解明していきながらコミュニケーションに活かしていく行為自体は、売り上げにつながるシナリオになると考えています。SNSで分析するn=1の声をマスマーケティングやIMC(統合的なマーケティング・コミュニケーション)など様々な手法の中で活かしていくことで、SNSの価値が本当の意味で広がると思います。

飯泉:作ったコンテンツがバズるかどうかより、SNSで売れるときは口コミで売れている気がします。商品の良さや強みを生活者に伝えることで、結果としてSNSにまた返ってきてビジネス貢献にも繋がるというのが最も目指すべきコミュニケーションなのかなと。バズコンテンツを作るだけではなく、生活者のメリットになるポイントを見つけてコミュニケーションをすることを第一歩として、それを知ったり体験したりした生活者から広がっていくのが綺麗だなと。

角田:今回話したのは、あくまでもメソッドです。コミュニケーションプランニング全体として顧客や生活者、メディア、社内の誰かなど、リアルにいるn=1の生活者に対して、どうハッとさせられるか、新しい驚きやビックリを与えられ、クライアントのビジネスに貢献できるかが自分たちの価値の1つでもあると思っています。

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