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数理の翼夏季セミナー 参加記

2023年8月、私は埼玉県近郊で開催された数理の翼夏季セミナーに参加しました。
講師の先生方による素晴らしい講義や、参加者との交流によって学んだものが多くあったため、ここに書き記そうと思います。
夏季セミナーについて振り返りたい人、これから参加しようと考えている方々の参考となれば幸いです。


序章 

0.1 はじめに

数理の翼夏季セミナーに関する情報を書き記すにあたって、参加者の個人情報や非公表の情報(開催地情報、詳しい講義内容等)は公開できないことを 先にお断りします。
御理解のほど、どうぞよろしくお願いします。

また、本記事の多くが著者の主観で構成されています。数理の翼公式の見解ではありませんので、どうか参加者の日記を見るような温かい目でご覧ください。

0.2 数理の翼夏季セミナーとは?

【数理の翼夏季セミナーは、フィールズ賞受賞数学者の広中平祐氏により1980年に第1回が開催されて以来毎夏各地で開催されている、合宿形式のセミナーです。 将来の科学技術を担う主力となるべき若い世代を発掘し育成する活動の一翼を担うべく、全国各地から数学・理科等に優れた素質と強い関心を持つ高校生・大学生等を招待します。 最先端で活躍する研究者の講義、参加者の研究発表会など、普段の生活の中では得られない体験を通じて数理科学への関心をより一層高める機会を提供します。
参加者は、全国から募集・選考された、高校生・大学生・大学院生を中心とする数十名の若者達です。高校生は、そのうち7~8割程度、残りが大学生以上となっています。宿泊費、講師の講演料などの費用は全て主催者が負担し、参加にあたって、参加費は必要ありません。
 期間が約一週間と短いということもあり、具体的知識を増やすとか、特定の技術を身につけるということではなく、数理科学の分野における創造の芽を育み、若い力でそれを発展させていく機会となることを目指しています。】
引用:NPO法人 数理の翼 (npo-tsubasa.jp)

第1章 夏季セミナーに参加するまで

1.1 参加しようと思ったきっかけ

(有益な情報ではないのですっ飛ばして読んでいただいて構いません)

私事になるのですが、2023年上半期は人生で一番荒んでいた時期だったように思います。
地学オリンピックで失敗して本選に参加できず、受験の直前だったこともあって天文学オリンピックの本選を自ら辞退し、受験前にギックリ腰を発症して(笑)進学する高校もなくなり、非常に落ち込んでいました。
高校に行かず自分で勉強する選択をしたはいいものの、いろいろ引きずって数か月間全く勉強していませんでした。

そんな状況をどうにか打破する刺激が欲しかったところに、「どうやら数理の翼とかいう人生がガラッと変わるイベントがあるらしい」ということを耳にしました。
しかし当初はあまり乗り気ではなく、正直、競技科学みたいなことをしている高校生を何人も集めて何になるんだ、と悲観的だった記憶があります。(否定的な考えに頑固な性格が相まって妙な思想を生み出していた、反省)

ですが、湧源クラブ(数理の翼のOB/OG会的な組織)に所属している方々から、「参加してみないとわからないことがある」「マジで人生変わる」「とりあえず、うだうだ言ってないで申し込んで」みたいなことを伝えられ、いわれるがままに申し込みました。
今考えてみると、申し込んでおいて本当に良かったと思うし、マジで人生変わりました。

1.2 いざ、応募!

そんなこんなで、最初はとりあえず適当に作文書いて落とされるか、くらいに考えていました。
ところが、作文テーマは自分の興味を持っていることをとにかく熱意が伝わるように書く、という趣旨のものだったのです。
書き始めると自分の古生物や地学に対する興味を抑えられなくなって、気づいたら600字程度の自由字数欄に5800字書いていました。(運営さんすみません)
作文を書き、考えを整理したことで、自分の古生物学やその他の分野に関する熱意が再燃しました。


当初は消極的だった夏季セミナーですが、「自分が興味を持っていることをほかの人にも知ってもらいたい」「ほかの人が興味を持ってる数理科学の分野についてもっと知りたい」という風に考えるようになりました。
「落とされてもいいや」だった夏季セミナーは、「絶対に通りたい」に変わっていました。

1.3 ドキドキの結果発表

募集期間は5月、結果発表は6月中旬です。(年によって変更される場合があります。)
私は気合がどの参加者よりも入っていたと思うので、長文をかなり早い段階で応募しました。結果発表に関しても、6月に入ったあたりからそわそわしていて、9日になれば「ようやく明日だ!」と思い込み、10日からは「もう中旬なのに来ない、遅すぎる」と毎日つぶやいていました。そんな時、急に携帯電話の通知が光ったのでメールが来てから5秒以内に合否を知りました。
歓喜しすぎて、結果は他言無用だったにも関わらず、ツイートしようとしました(ギリギリセーフ。メールは最後までよく読みましょう。)
結果通知が来てから1時間くらいは部屋で小躍りしていました。恥ずかしい。

小話)私のあだ名:スぺちゃんとたまたま名前が同じ推しのスペシャルウィークがジャパンカップで日本一になった時の曲を踊っていました。

1.4 くわしく知る

結果通知のあとは、徐々に参加資料が届いたり交流の場が設けられたりしました。私はそのたびにセミナーの想像をして舞い上がっていました。
より多くの人を知りたかったので、交流サーバーでのセミナー前の発言数は、かなり上位にランクインすると思います。

参加者の専門は数学・物理・化学・生物・地学にバランスよく分布していました。地学界隈にいる私は、知り合いが5人くらいいて、その方々としゃべることも、まだ何も知らない参加者と話すことも楽しみでした。
スタッフや講師の先生とも話したかったので、専門分野や過去の研究を見たりしていました。

とにかくセミナーに対するやる気が凄まじかったので、資料が配られるや否や、参加するすべての人の専門分野、研究、実績、顔、名前などの情報をすべて頭に入れていました。(ここまでしなくていいと思います。)

1.5 準備勉強

まず、自分の専門について。
私の専門は主に古生物学で、それに関連して生物学や地学をベースとした勉強を行っています。
 ・数多の自分の研究情報をすべて見返して、予想される質問に対する回答を用意した。
 ・過去の調査や活動実績をまとめた。(週1の発掘調査や、ジュニアキュレーター、博物館での活動、シンポジウム内容の確認等)
 ・抜けた知識を再び頭に入れるために、古生物、生物、天文などの専門書を全部もう一回読んだ(恐竜博物館の蔵書、自宅の本、県の図書館コンプリート)
私の専門とする古生物学は、多くの人が深く学んだことのない分野だと思ったので、抜け目が全くないように万全の準備を期していきました。
実際、専門分野だけで1か月に500冊以上読みました。
(オーバーキルかもしれません。)

次に、ほかの人の専門について。
私はいろんな人が人生をかけて学んできたことを1か月という短い期間で私の古生物学くらいのレベルまで仕上げるのは不可能だと思ったので、参加者の研究分野について話を聞いて理解できるレベルをめざしました。
 ・参加者やスタッフにお勧めの本を聞いたりして、県立図書館の数学・理科に関する本はとりあえず全部読んだ。
 ・大学の学部生が教養として履修する数学・物理・化学・生物・地学はとにかく全力で履修した。(1か月で履修するのは、普通にやってると到底不可能なため。)
実際、様々な分野の基礎を学習してから望んだことは、大いに役立ちました。
特に講義では、講師の先生の話されていることの理解度が深まりました。
事前に何も学ばない状態で行っては、得られたものも少なかったでしょう。

1.6 出発前の心境

最初は「誰とどんなことを話して、どんなことが得られるんだろう。」と妄想でワクワクしていました。
一方で直前になると、「専門分野について思いがけない方向から質問が飛んできて答えられなかったらどうしよう」や、「ほかの参加者の話に一切ついていけなくて1人ぼっちになるかもしれない」などといった根拠のない不安でいっぱいでした。
大切なのは、プライドを捨てて完全に初学者の気持ちで挑むことだと思います。

第2章 開催期間中のあれこれ

2.1 講義

講義では、数理科学を中心とした様々な分野の第一線で研究をなさっている著名な先生方に講義をしていただきました。多様なテーマについてのハイレベルな講義を聞くことができます。もともと興味のある分野についての理解を深めたり、全く馴染みのない分野と出会い新たに興味を持ったりできます。(第43回数理の翼夏季セミナーホームページより)

私が参加した第43回セミナーでは、5人の先生にお越しいただきました。
各分野の講義は非常にハイレベルで、特に山下先生の数学の講義は私も大半を理解できませんでした。
どの先生方も楽しそうに講義されており、講義内容も非常に興味深いため、まったくかかわったことのない分野にも興味を持つ絶好の機会です。

1人の先生につき3時間、日によっては1日に6時間も講義が行われるので、集中力を保つにはしっかり寝ることが大切です。
(私は部屋のベランダから天体観測をしたり同室の子としゃべったりして連日22:30就寝のはずが2:00まで起きてました。講義はわざと最前列で聞いてしっかり起きていました。)

詳しい講義内容は伏せますが、実際に高価な実験器具や観察器具を持ってきていただいて、「自分の目で理解する」貴重な体験ができました。
講義を聴くだけでも、数理の翼夏季セミナーに参加する意義があると思います。
講義を聞くにあたって大切なことは、主体的に参加することです。
聞いたこともないような専門的な話を聞きますが、最初からわからないと投げ出してしまっては、セミナーに来た意味がありません。
どうにか食らいついて理解しようとすれば、その分野に興味が持てますし、寝ずに充実した時間を過ごせると思います。

2.2 参加者発表

数理の翼セミナーでは、ただ話を聞くだけではなく、興味のあることについて自分から積極的に発信することができます。参加者発表は、常日頃興味を持っていることや取り組んでいる勉強・研究について、自由に発表してもらう場です。この発表をきっかけとして、それぞれの興味について意見を交わすことができます。(第43回数理の翼夏季セミナーホームページより)

たくさんの参加者が、自分の日々興味を持って探求してきたことについて発表していました。
発表時間は講義と比べると短いですが、自分の興味のある分野への関心を深めたり、他者の探求した分野について興味を持つ絶好のチャンスです。
実際、ほかの高校生が探求している分野について本人から熱意を持った話を聞けたことで、私は自分のやってきたことの狭さに気が付きました。
古生物学に関連した範囲でしかなかった自分の興味が、参加者発表を聞いたことによって幅広い数理科学の分野に広がったことを今でも実感しています。

私は、古生物学について専門的な話を短い時間で全員が理解させる自信がなかったので、まずは日ごろの活動について知ってもらおうと思い、「15分でわかる私の活動」と題して参加者発表を行いました。
自己紹介的な内容だったのですが、5日中の1,2,3日目に行われる参加者発表の3日目のラスト(つまり大トリ)になると知ったときは正直焦りました。
「誰よりも楽しそうに発表していた」と言われたり、その日の講師の先生の講評で「危険なくらい科学に沼りこんでいる」とコメントをいただいたときは本当にうれしかったです。私自身、発表しながら自分がやってきたことを話すのが楽しすぎて、終始にやにやしながら早口で喋った印象があります。

2.3 夜ゼミ

夜の自由時間には、小規模のゼミ(通称夜ゼミ)が多数開講されます。大学生スタッフの開くゼミに参加するだけではなく、参加者自らテーマを設定して夜ゼミを開講することも可能です。中には参加者発表では語りきれなかった部分について議論を深める方や、講義を聞いて湧いた疑問について参加者同士で意見を交わす方もいます。じっくりと主体的に数理科学について語り合う時間は、生涯記憶に残る宝物になるでしょう。
(第43回数理の翼夏季セミナーホームページより) 

夜ゼミは、好きな場所で好きな話を話す・聞く楽しい空間でした。
毎日、3~7くらいのグループが語り合っていました。
数学は毎日開催していたと思います。
そのほかにも、天文、生物、化学、講師の先生への質問、人生相談などが開かれていました。

私は、初日のみ古生物学に関するゼミを開きました。絵をかきながら、5人くらいの人に自分が持ってきた資料を使って「恐竜の分類学」を初心者でもわかるように頑張って説明しました。正直無関心かな、と思っていたのですが、聞いてくれた人がガンガン質問を投げかけてきたり、必死にメモを取ってくれていて驚きました。気づいたらあっという間に2時間がたっていて、のどがカラカラだった記憶があります。

2日目以降は地学徒のミネラルショーに参加したり(小袋に熊本県の化石3種類セット58袋を持参。8割持って帰ってもらえた。)、天文ゼミを聞いたり、恋する小惑星(地学の漫画)朗読会に参加したりしました。
個人的に夜ゼミは、あまり他分野のゼミを聞いておらず、息抜き程度に同じ分野の人と語り合って楽しんでいました。

2.4 企画等

講義やゼミ以外にも、参加者が親睦を深められるような企画も行われます。
(第43回数理の翼夏季セミナーホームページより)

詳しい内容は言えませんが、非常に楽しく、同じ班の人やスタッフとの交流を深められました。
アイスブレイクでは人見知りを発動して、同じ班の人とほぼ喋れませんでしたが(すみません)、最後の企画では班の人や班長さん(スタッフ)と仲良くなれました。

2.5 その他 雰囲気・食事・参加者との交流等

参加者とスタッフを合わせて40人ほどだったので、学校の1クラスにいるような雰囲気でした。しかし、その面子数理科学に興味を持つ人ばかりで、今まで経験したことない、充実した5日間を過ごせました。
参加者の多くととても仲良くなれました。

食事は本当においしくて、ビュッフェ形式だったので好きな量を取れました。4人1テーブルで、食事を共にするメンバーは毎回変わり、その都度同じ席の人と仲を深められました。

就寝時間が早く、夜更かしをするとスタッフに怒られるので、初日に脱走した人がいてかなり驚きました。今後参加する人は真面目に寝てください。

スタッフ同士の仲がよくて、全体を通していい雰囲気でした。特に私の班長さんは高校生に慕われていて、私も大好きなスタッフさんです。

2.6 番外編 セミナー中の面白かった出来事

・なんと、セミナー中にカブトムシのメスが落ちていたので捕獲しました。
野生のカブトムシは掴む力が強く、男子の手に乗せたら痛すぎて絶叫していました。(私はオオクワガタやカブトムシを自宅で大量にブリードしているので、セミナー中の面白かったことのひとつ目に書いています。)
・もちろん、Tシャツは理系ネタに凝りました。天文学オリンピック以来の鱟(カブトガニ)シャツや、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡シャツ、恐竜博物館のシャツなど。毎日面白がられました。
・参加者が眠気と戦うためにコーヒー、ZONEなどを飲んでいたのが印象的でした。不健康な高校生集団です。

2.7 セミナーを通して学んだこと・感じたこと

【学んだこと】
・講義では、1分野を突き詰めて研究することも大切だが、いろんな分野にまたがった研究をすることが大切だということを知りました。
・そのためには、高校生のうちから分野の好き嫌いをせず、さまざまな学問について触れることが重要だと学びました。
・理論立ったことばかりやるのももちろん大事ですが、自分の肌で触れて目で見て感じることが科学の醍醐味だと感じました。

【感じたこと】
・自分が思っていたより数理科学に心血注いでいる人が多いことに気づき、参加者の研究分野を理解するという勉強するための目標ができました。

第3章 解散後の生活とこれから

3.1 解散後の交流

・解散後、参加者10人程度で国立科学博物館に行きました。
・各自帰宅後も、SNSや交流サーバーで積極的な交流が行われました。

3.2 セミナー前との変化

・今まで興味をあまり持っていなかった数理科学分野についての興味が増しました。また、自分の興味分野についての魅力を話したことでさらに探求意欲がわきました。

3.3 新たにできた目標

・数理の翼夏季セミナーにスタッフ、講師として参加することです。

終章 伝えたいこと

参加しようとしている方へのメッセージと、第43回夏季セミナーに参加した方への謝辞に代えさせていただきます。

4.1 参加しようとしている人へ

多くの人が言っている通り、数理の翼夏季セミナーに参加すると人生が変わります。しかしそれは、参加した人にしかわからないので、迷っている方はぜひ応募してみましょう!

4.2 セミナーの企画・運営をしてくれた方へ

このような素晴らしい機会をいただき、本当にありがとうございます。とても楽しかったです!

4.3 関わってくれた参加者へ

参加者の皆さんから得たものは非常に多かったです。
同世代の数理科学好きの高校生から刺激を受けたことが、一番人生を変えた気がします。
また会いましょう!


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