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目からビーム!101 可哀そうな人たちではありません~戦後教育の傲慢

「アメリカ人を殺した感覚はありましたか」。ある番組で、真珠湾攻撃に雷撃隊として参加した103歳の元海軍兵士に対する櫻井翔氏のこの質問内容にネット上は批難轟轟、しばし炎上状態となっていた。確かに、前線で戦った兵士に対し、あまりにも礼を失した無神経な言葉であると思う。その上でこうも考える、日教組教育に冒された彼の脳から出てきた精一杯の、率直な疑問だったのかもしれないと。彼に悪意なくゆえに罪深い。
「おじいちゃん、人殺しだったの?」。可愛い孫娘から突然そんなことを言われた元兵士の話も聞いている。以来、その人は戦友会の通知も家族の目に触れぬようにしていると。どうやら孫娘は学校で教師に何か吹き込まれたらしい。人でなしの所業としかいえない。
 元特攻隊員のインタビュー集を作っているとき、一度だけ意図的にドギツイ質問を元兵士にぶつけたことがある。陸士出身のYさんは口が重かった。一を聞けば、一を答えてくれるが、それ以上に話が広がらない。他の取材対象者、たとえば、海兵や予科練、予備学生の方々が、フランクにいろんなことを教えてくれるのとは対照的だった。苦慮した僕は、インタビューの流れを変えるつもりで、Yさんにこんな質問をしてみた。
「特攻隊員について軍国主義に騙された可哀そうな人たち、という見方をもつ人もいます。それについてどう思われますか」。
 正直賭けだった。お前に何がわかる! とドヤされるのも覚悟の上だった。しかし、Yさんは違った。僕の目を見て柔らかな笑顔で一言、「私たちは可哀そうな人たちではありませんから」。背中にゾクゾクしたものがこみ上げてきた。ある意味ドヤされるよりショックな体験だ。あれほどに、静かで誇りに満ちた人間の笑顔を僕は知らない。すべての答えがそこにあった。
「人を殺せという命令は受けていない」。元雷撃部隊員は櫻井氏の質問にこう答えていた。櫻井氏の満足のいく回答ではなかっただろうし、新たな疑問も残っただろう。しかし、その溝を埋める真の答えを探すことこそ、櫻井氏の仕事である。
 後世の人間に「日教組教育に騙された可哀そうな人」と言われないためにも。

初出・八重山日報

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