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どうして日本の大地は酸性化しないのか


<どうして日本の大地は酸性化しないのか>

タネ袋の後ろや家庭菜園の本には必ずといっていいほど、土を中性に戻すために苦土石灰などの使用が勧められている。日本で慣行栽培が行われている畑はたいてい酸性に偏っているからだ。野菜の多くは中性を好む

日本のように雨が多ければ酸性になり、欧米のように雨が少なければアルカリ性になるので、中性の土は世界的に珍しい。ただし例外として沖縄の一部の土はサンゴ由来のものがあり、雨が多いにも限らずアルカリ性の土である。

アルカリ性ミネラルであるマグネシウムやカルシウムといった栄養分は雨によって流亡しやすいために、酸性化しやすい。これは土壌の老化ともいう。さらに水が豊富であれば微生物の活動は活性化し、呼吸量が増え、彼らが出す炭酸ガスや有機酸によって土はどんどん酸性化する。

また、水が多く微生物が豊富なら植物もまた豊富となる。その植物の根からは有機酸が排出されるために、土壌はさらに酸性に偏っていく。そのためたとえ自然農とはいえ、土は酸性に偏っていくことになる。土が酸性に偏るとアルミニウムが土壌水分内に溶け出してしまい、多くの植物の根にとって毒性を発揮してしまうので、生育不良が起きる。

がしかし、自然農の畑に苦土石灰や有機石灰など土を中性に戻すための資材は必要ない。これからその理由について解説するが、これを知れば日本が自然農ができる数少ない国であることが、地球の循環の仕組みから成り立っていることがよく分かるだろう。

まずはじめに春のダークヒーローである黄砂は偏西風に乗って日本列島の上空を覆う尽くしてしまうが、そのおかげでアルカリ性の砂が全国の田畑に供給される。もともとは中国大陸やアフリカに広がる砂漠からやってくるこの黄砂はエネルギーも使わずに、国境を気にすることなく、日本列島まで勝手にやってきてくれる。

それでも雨が多く、野菜を栽培していればどうしても土は酸性に傾いてしまうが、そんなときこそ大地にはスーパーヒーローがどこからともなくと現れる。いや姿を地上に表す。その代表的な草が農家が忌み嫌う雑草であり、根絶が不可能だと言われているスギナである。

スギナは酸性土壌に生えてくる雑草として有名だが、面白いことにツクシが映えるほど群生になっているところの土のp.hを調べてみると中性を示すのだ。

スギナは健康食材としても有名になっているので、知っている人も多いのではないだろうか。スギナの茎葉はアルカリ性だということを。このスギナは酸性土壌中のアルミニウムに対して無毒化する才能を持ち合わせていて、問題なく生育するばかりか、土壌内のアルカリ性ミネラルを積極的に体内に溜め込む。

そして、それを有機物として亡骸として大地に還元することで他の植物が利用できるようになる。といっても、酸性が強くなっているところではすぐに他の植物が成長できないので、どうしてもスギナの群生となる。そのおかげで土壌内にはどんどんアルカリ性ミネラルを含む有機物が還元されていき、ついにツクシが登場し、胞子を飛ばすのである。その頃には十分他の植物が成長できる土壌となっている。

これだけを見ていると、私にはスギナは酸性に偏ってしまった土壌を中性に戻すためにやってきて、仕事を終えるとまたどこかへと旅に出ているヒーローに見える。ビニールマルチは黄砂はもちろんのこと、このスギナも排除してしまうから土壌がどんどん酸性化してしまうのである。

雑草好きの人なら知っていると思うがスギナはシダ植物である。シダ植物は酸性に強い種が多い。これにももちろん理由がある。シダ植物は地衣類、コケ植物に次いで陸上に進出した生物だが、地衣類とコケ植物は身体から出す有機酸で岩石を溶かして栄養分を体内に貯めることで生きている。

彼らが枯れることで大地にはついに初めて土が誕生したが、その土は強い酸性だった。そんな土の上に進出したのがシダ植物であるため、多くのシダ植物は酸性に耐えうることができる。そして、シダ植物が大繁栄した時代が恐竜時代であり、そのときスギナの祖先は約30Mほどの高さを誇っていたという。私たちが現在地下深くから採掘して利用しているエネルギー源の石油や石炭の一部はこのシダ植物の化石が由来だと考えられている。

恐竜時代はシダ植物の大繁栄時代でもある。シダ植物が繁栄し、大地には彼らの亡骸がどんどん積み重なっていった。そしてついに土壌は中性へと傾き、今現在繁栄している植物、つまり果樹や野菜などの祖先である種子植物が誕生した。

日本の里山や人工林などを歩いてみると、いろんなところにシダ植物が見られることが分かる。現代のシダ植物は小さくなったが、沖縄など暖かい地域に行けば大きなものもまだまだたくさん見られる。シダ植物の歴史も長いため様々な環境に適応した種が存在している。

コゴミやワラビ、ゼンマイなど山菜として食されるものもあるし、トクサのように研磨剤として利用できるものもある。半日陰でも生育可能な種が多いためシェードガーデンに人気のものもある。日本は雨が多いおかげでシダ植物もまた育ちやすい環境であるからこそ、土壌の酸性化を防ぐ役割として、ガーデニングの多様さを楽しむためにもいろんなところに植えていきたい。

地球の循環の仕組みや生命の才能を理解し、尊重し、信じることができれば農家の仕事は減るばかりだ。私たちがすることといえば種を蒔き、草を刈る。それだけでいい。

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