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育苗手法とタイミング


<育苗手法とタイミング>
育苗を始めてしまうと、家を長い期間出ることはできなくなるが、畑の魅力がうんと詰まった春を過ごすことができる。
自然農の先駆者たちはあまり苗作りをしない人が多いが、初心者の人には苗作りから始めてもらいたい。
というのも、まだ土や畑ができていない状態では直播きの難易度は高くなるし、育苗の面白さは農の基本であり、家庭菜園の醍醐味だからだ。

また、多種多様な作物を栽培する上で、直播と育苗どちらもできるようになると作物の幅が広がる上に畑を効率的に利用でき、生産量も向上する。温床や冷床をうまく使いこなせば、さらに効率性も生産性もあがる。

とはいえ、育苗にはいくつか細心の注意を要するものがある。その一つ目が「タイミング」である。適期適作を心がける自然農では育苗のタイミングは定植のタイミングから逆算して行う必要がある。直播と違って、苗の根が伸びる時期と範囲に制限があり、定植のタイミングを間違えると根を傷つけてしまい、苗全体を弱らせてしまうからだ。

植物は人間が利用しているカレンダーではなく、太陽光と地温に応じて生育する。夏野菜の場合、最低気温に注意を払って定植しなくてはいけない。寒すぎると低温障害になってしまうからだ。十分に暖かくなるのを待ってしまうと、育苗ポット内で根の伸びる場所がなくなり苗が老化してしまう。

住んでいる地域の4月5月の最低気温が予測できない人は気象庁の過去データを参考にするか、周りの農家さんに定植のタイミングを訪ねてみると良い。また、種まき自体何度か分けておくのも良いし、多めに蒔いて移植や胚軸挿しで苗を増やすのも良いだろう。

苗の育て方も人と同じで、どちらも若いうちに我慢させてゆったり仕込むことで丈夫に育つ。三つ子の魂百までの言葉のように。農業の世界では苗半作というが、自然農では苗八分作だと言える。それほど大切な仕事である。

とくに播種してから双葉が出るくらいまでの苗づくりがその作物の一生を左右する。迷人は見かけで判断しがちで、徒長した苗をよく成長していると勘違いする。大きいことはいいことだという幻想に取り憑かれるからだ。小さく節間が詰まっているものを残して育てる。双葉の時点で他よりも大きく徒長してしまったものは早めに間引いて、スプラウトとして食べてしまうと良い。(ナス科やモロヘイヤは毒があるので注意)

徒長とは茎が必要以上に伸びてしまうことで、よく育っている証ではない。節間や太さがバラバラだったり、ほそくひょろひょろしたり、曲がったり背が高すぎる状態だ。目安としてトマトの第1花の高さは25~30cm、ナスやピーマンは20~25cm程度である。

徒長が起きる原因は水分過多、栄養過多、日照不足、急な温度変化、間引き不足、土が硬いのどれかであり、複合的でもある。適湿をキープし、肥料分を控え、太陽にしっかり当て、間引きを適宜行うこと。たとえ、徒長してしまっても定植時に一工夫すれば活かせることもあるので最後まで諦めずに育てたい。

「しめ作り」と言って、ゆったりと我慢させながら少肥で育てれば、苗は頑張って根をたくさん伸ばそうとする。根性がつく。苗自身が持つ生きていく力を引き出して、感受性を高めてやることが大切。
自然界では徒長した苗は虫に食べられることで、小さい残ったものが生き残る。虫が入らないように工夫する苗床ではその役目を人間がしてあげなければ、すべての苗が徒長してしまいかねない。

苗床や種苗場のことを英語では保育園という意味がある「nursury」と呼ぶ。根性をつけるためといって厳しくしすぎれば、弱ってしまう。踏み込み温床にしても、簡易的なビニール温床にしても、室内栽培にしても大切なことはまずは温度を15~25℃内に管理する。40℃を超えるとほとんどの植物は死ぬし、5℃を下回れば低温障害が起き、最悪の場合死んでしまう。太陽光がしっかり当たることは生育の糧になるが、温度が上がりすぎることもあるので、1日に何度も温度をチャックしよう。温度は季節が進むにつれて、少しずつ高めていくのがプロの技だ。そのためプロは機械で自動的に温度管理をしている。

水分量もまた多すぎても少なすぎてもダメだ。発芽までの間はもちろんのこと、双葉が展開し後もポット内に十分な水分量を確保する。その日の天気や気温によって、生育時期によって必要な水分量は変わるので苗の生育を観察し、ポット内の土を触って確認しよう。

水はできれば水道水を避け、雨水や井戸水、川の水が理想だ。もし用意できない場合は水道水に米のとぎ汁を薄めて与えると良い。水やりのタイミングは基本的に日の出から2時間までの間に一度だが、暑い日にはさらに夕方の日の入り2時間前以降にも与えよう。じょうろの先を上に向けて、小雨を再現して葉に強く身を当てないように気をつけること。芽が土からくいっと顔を出す直前は水やりは控える。

発芽・育苗の三大条件である温度、水分、太陽光への配慮を怠らないように気を配ろう。
「慈しむ」はもともと「うつくしむ」であり、美しい可愛らしい我が子に愛情を注ぐ様子を表現したもの。昔は「斎く」とも書いた。「斎」は神に従える意味があり、本来は神を敬い仕える意味を持った「斎く」が「慈しむ」に受け継がれている。我が子のように、そこに神様が宿っているかのように慈しみながら育苗を勤しんでもらいたい。

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