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【Disc Review #1】新しさと懐かしさの同居。いつも隣りにいてくれる温かな1枚。-"New Neighbors"/Homecomings

今年の春はいつもと違う感覚に襲われていた。極寒の日々から瞬く間に葉桜になった季節の変化の速さなのか、流行病がもたらした3年間の停滞から動き出した社会の歯車の勢いなのか。
いつもであれば1年間の積み残しでできた錨を切り離して身軽になって新たな1年が始まるリセットの時期のはずが、今年は心のノイズが大きくてざわめきが収まらず、どこか置いていかれているような気分になっていた。

そんな中でリリースされた、Homecomingsの2年ぶりのアルバム"New Neighbors"。1枚聴き終えたとき、タイトルの通り「隣人」のようにそっと温かい曲たちが、失っていた自分のリズムを取り戻してくれたのだ。

80'sの「懐かしさ」とホムカミの「新しい」テイスト

M.1「ラプス」のリフが鳴り始めたとき、The Policeのようなメロウなサウンドに心が躍る。これはめちゃくちゃいいアルバムだと確信する。そしてイントロが終わってAメロに入ってリズム隊の打ち込みが浮き彫りになったとき、「これは新しいホムカミかもしれない」とも思った。
彼ら・彼女らも自身のラジオで、今作の制作には80'sやダンスミュージックの影響を大きく受けたと語っていたが、M.1「ラプス」M.2「US/アス」M.3「ヘルツ」と、ダンスミュージックらしい打ち込みを中心としたアプローチの曲が序盤は続く。ホムカミの新境地を感じるものだが、80'sテイストが懐かしさ・安心感を感じるサウンドになっていると同時に、リズム隊がシンプルになっていることで温かい歌詞とボーカルがよりストレートに響いてくる。

M.4「光の庭と魚の夢」からM.7「Shadow Boxer」までしばらく既出曲が続くのだが・・・そのまま同じではないのが、ホムカミなのだ。M.5「アルペジオ」はシングルverよりさらに傍でそっと囁いてくれているかのようなボーカルになっていたり、M.6「 i care」はサビのコーラスが追加され、より美しさが増しているものになっているサプライズ。あまりの美しさに感動が止まらなかった。

再び打ち込みのバラード調のM.8「Drowse」でダンスミュージックゾーンの幕開けかと思ったが、M.9「ribbons」ではスピッツさながらのギターロックが鳴り響く。ドストライクなサウンドに心拍が上がったところ、M.10「まばたき」はピアノが美しく響く落ち着いたナンバーに心と耳が研ぎ澄まされる。M.11「euphoria/ユーフォリア」で壮大なロックバラードにエモーショナルな気分に持ち上げられる。M.12「Elepant」では再び80'sを感じるリズムとリズムギターが特徴的なミドルテンポナンバーに、再度新たなホムカミを刻み込まれて1枚が終わる。
この最後の2曲の展開、NICOのQUIZMASTERのラスト2曲の流れに似ている気がする。このアゲて落ち着かさせていく感じ、とても好きな流れだ。

ホムカミの魅力の1つでもある温かく優しい歌詞。今作では、Neighbor"s"故の「ふたり」や「わたしたち」のワード・テーマが各所にあり、今まで以上に手を差し伸べて寄り添ってくれるような、温かいものばかりだ。

これはわたしたちのうた
ひとりでもふたりでもないよ

US/アス

町じゅうの明かり 盗んでおいたから
またたくふたつの窓が
電波のようにつながる夜を越え

ヘルツ

なにを選んでも、それでいいからね
あなたのこといつもどこかで気にかけているよ
名前のない気持ち ここにいるからね

i care

優しい神様が全部みてるから
遠回りしながら手紙は届くだろう
抱きしめた温度がずっと残るから
新しい窓にもずっと守られているんだよ

ribbons

いま、ささやかな祈りと手
その光だけを目印にして
まだ飛べなくても
まだ飛べなくても、いいよ

Elephant

これまで以上に優しく歌い上げるボーカルに乗って、これらの歌詞が耳から染み込んでくると、自分の心の中に積もっていた負の感情たちがゆっくり溶かされていく。負の感情で塞がれていた視界が開けると、前を向けている自分と隣でそっと手を差し伸べてくれるホムカミの曲たちがいた。

10周年を迎えてメジャー2枚目の作品となり、タイアップなども着実に増えてきたホムカミだが、フレーズのキャッチーさや、目まぐるしい展開やテンポ感が目立つ最近のトレンド(が悪いというわけではないが)に安住しない、今の・今までもホムカミ大事にしている、流されない大切なメッセージを今回も届けてくれた。5年後、10年後、いや、自分の子供にも、いつもそばで支えてくれる力強い「お隣さん」と出会えた気がする。


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