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天体少女(短編小説)

超短編小説。




プロローグ

この少女は、小学校に入る前から、好きなことがはっきりしていた。

それは、宇宙についてだった。

家族にも、天文に興味のある人がいた事が、影響したのかもしれない。

しょっちゅう、木星にも環があることや、遠い銀河について、話していた。

とても、楽しんでいた。

しかし、自由に自分の好きなことを語れるのは、このときだけだった…。

彼女が、幼稚園へ初めて行ったのは、五歳のころ。

一人っ子で、さらにそれまで家族以外とは、中のいい人はいなかったので、他の人と過ごす日々は、とても新鮮だった。

でも、好きなことをは、誰にも受け入れてもらえなかった…。




小学校入学

小学校に入学した日は、到底いい日とは言えなかった。

なんと入学初日から、年上の人々にいじめられたのだ。

鈍感な少女は、いじめが何なのかは、よくわからなかった。

だが、いじめの陰湿さを、その後何年も味わうことになってしまった…。


入学式からしばらくたったある日。

また、あの人々が少女をいじめた。

「お前なんかいないほうがいい」

「速く退学して?」

何度も言われた。

でも、幼稚園も途中からだった彼女には、頼れるような友達はいなかった。

ちょうど泣いてるところを先生に見られ、相談に乗ってくれた。

小学校一年生から、こんな日々だった。




初めての友達

友達といえるものが出来たのは、それからだいぶあとだった。

いつも通り、少女は独りで廊下をぷらぷら歩いていた。昼休みなのに、やることが一つもないようだ。

体育館前を通ったとき、自分と同じように、独りで廊下をぷらぷら歩いている人を見つけた。

思いきって、話しかけた。

案外話が合い、やがて友達となった。

少女にとっては、初めての友達だった。




でも、本当に好きなことについては、話せなかった…。




天文との別れ

いじめられてばかりだった頃から何年かたち、少女は四年生になった。

もうほとんどいじめられなくなり、友達もやっと増えてきた頃だった。

ある日、なんでもいいから調べモノをしてこいという、いい加減な課題が出された。

少女は少しためらったが、大好きな天文について、調べモノをすることにした。

本当は、ためらったまま、やめた方がよかったのに…。

何度もつまづきながら、やっと調べモノを完成させた。

だが、ダメ出しを食らわれた。


もっと真面目なモノを調べなさい。

宇宙なんか調べても、役に立たないでしょう?


傷ついた。

酷いと思った。

でも、仕方のないことだった。


「役に立たない」


そうなのか…。

もう、天文なんか大嫌い!

関わらない!


少女は、勝手にそう決めた。

天文から、一気に離れた。




崩壊

一年たち、五年生になった。

何人かの友達に囲まれて、幸せな日々になる…はずだった。

その友達と、何度も喧嘩してしまった。

最初の喧嘩の原因は、少女の大きなミスだった。

友達は少女を厳しく叱った。

それぐらいなら、まだよかった。

だが、それが何度も繰り返された。

確かに、少女はドジだった。

でも、ほとんど話さない事から、ドジキャラとは思われてなかったのだろう。

何度も失敗を繰り返す度に、周りの不満は高まってしまった。

ついには、友達全員から無視され、変なあだ名をつけられ、陰口をたくさん言われた。

いちばんの仲良しだった友達も、少女の事を「大嫌い」と言った。

少女は、そういうネチネチしたことが、凄く嫌いだった。

でも、なすこともなく、ネチネチに巻き込まれた。

明るく振る舞っていれば、こんなことにはならなかったのに…。




情緒不安定

そんな日々が繰り返された。

やがて、少女は情緒が不安定になった。

少しイライラしただけで、ものすごく怒った。

少し悲しい気持ちになっただけで、涙を流した。

周りは、それを受け入れる訳がない。

少女は、またもや独りになった。

自身の馬鹿げた行動のせいで…。




望遠鏡

七夕が近づいて来た。

星が見たかったが、避けたくもあった。

でも、いいニュースが入ってきた。

なんと、近くで天体観察会をやるそうだ。

少しは心の拠り所になるかもしれない。

そう思って、参加することにした。

参加して、正解だった。


この天体観察会は、月と木星を見る事が、目的だった。

だが、あいにく曇りになってしまった。

しかし、雲の切れ目から、時折星が見えるので、一応やることになった。

少女は諦めていた。どうせ見れないだろう、と。

他の参加者と共に、一台しかない天体望遠鏡を使って、星を見ようとした。

何度も交代して、ひたすら空に祈った。



なんと、見れた。

雲がちょうど月の部分だけ切れ、月が現れた。

参加者全員が、一気に望遠鏡へ押し寄せた。

月が、見える。

クレーターまで、はっきり見える‼

いい思い出だった。

でも少女は、また心を閉ざしてしまった…。




白黒の世界

六年生になった。

もともと仲良しの友達は、少しだけだが、話せるようになった。

でも、その友達は新しい友達と仲良くなり、お古の少女から離れていった。

そして、本当に独りになった。

世界が、白黒に見えるほどだった。

少女はひたすら自分を攻め、窓から飛び降りようとしたことも何度もあった。

情緒不安定な頃と比べ、逆に無感覚になっていった。

何も、いらなかった。




中学校入学

ついに中学校へ入学する日がやって来た。

やって来てほしくない、一日だった。

クラス替えのお陰で、少しはネチネチから離れられた。でも、少女と同じクラスだった人は、彼女を避けていた。

でも、新しい友達が出来た。

小学校のときは、ほとんど別のクラスだったので、少女の黒歴史をほとんど知らない子だった。

でも、話すことは勉強についてだけ。

正直、つまらなかった。

でも、話題以外はよく似ていた。

それは、楽しかった。




天文との再会

天文との再会は、ほんのささない事がきっかけだった。

ゲームに使う、ハンドルネームが思いつかなかったので、ネットのジェネレータを使うことにした。

検索してみると、バグで関係ない記事が出てきた。

その中に、宇宙関係の記事があった。

最初は、あのときみたいにためらった。

でも、少しだけなら…と、おそるおそる開いてみた。

少女は心から、楽しめた。


こんなに楽しい事を何年も避けつづけていたのか…。


少女は、反省した。

そして、これからは心に正直になろうと決心した。

でも、それを表に出そうとは、しなかった。




エピローグ

その後、少女はほとんど毎晩、天体観測をした。

十二月中旬、いいニュースが入ってきた。

三大流星群の一つ、ふたご座流星群が見れるそうだ。

少女は何度も流星群を観測しようとしたことがあった。でも、まだ人生で一度も、流れ星を見たことがない。

あいにく、流星群の日は雨予報だった。



でも、天気予報がはずれて、夜は晴れた。

何年か前の、天体観測会よりも、晴れていた。

空一面が、星々で埋め尽くされた、美しい夜だった。


どうせ見れないだろう。


少女は、とっくに諦めていた。

だが、せっかくの夜を無駄にすることはもったいないので、双眼鏡で月を見た。

あのときと同じ月が、そこにあった。

ふと、双眼鏡をおろした、その時。


シューーーッ


流れ星が見えた。

人生で初めて見た、流れ星だった。

数分後、また流れ星が見えた。

一回目よりも明るく、火球のようだ。

少女は、そっとそれを見届けた。

久しぶりに楽しめた、最高の夜だった。




この小説はフィクションです。

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