(初出:2022/03/22)
東証1部上場会社の株主総会決議取消が認められた事例として、アドバネクス事件(東京高裁令和元年10月17日判決(金融商事判例1582号30頁)、原審:東京地裁平成31年3月8日判決(資料版商事法務421号33頁))が注目されています。本事件では、多くの争点に関して注目すべき判示がなされていますが、以下では、法人の議決権行使における瑕疵の問題、法人の職務代行者の取扱い、決議の成立時期等の主要な争点について、判示の内容をご紹介します。
1.事案の概要
A社は、平成30年6月21日、定時株主総会(本件総会)を開催した。同総会では「取締役7名選任の件」が議題とされ、A社は候補者7名を取締役に選任する旨の議案を提案した。
本件総会の審議中、A社の取引先を会員とするA持株会(本件持株会)の理事長として出席していたJが、別の候補者らを取締役に選任する旨の修正動議(本件修正動議)を提出した(なお、Jは、その他4社の法人株主の代表取締役でもあった)。ただし、本件持株会は、本件総会に先立ち、電子投票により、本件会社提案に賛成する議決権行使を行っていた。
本件会社提案と本件修正動議について、議場を閉鎖した上、Jが用意した投票用紙で議決権を行使することとなった。
本件総会では、A社の株主であるN生命の担当者及びO銀行の担当者が出席していた。担当者は、それぞれ本件総会の受付で発言票を受け取り、本件総会会場に入場した。両社は、本件総会に先立ち、本件会社提案に賛成する旨の議決権行使書面を被告に提出していた。N生命の担当者は投票用紙を提出せず、O銀行の担当者は被告担当者に対して傍聴に来ているだけである旨説明し、何も記載せずに投票用紙を渡した。
本件総会会場の使用時間である午後2時までに投票の集計が完了しなかったことから、午後6時から被告本社において本件総会が継続されることとなった。株主M社(代表取締役はJ)の職務代行者であるIは、被告本社において、午後6時になり、議長がまだ再開を宣言していない時点で、議長不信任、議長交代等の動議を提出する旨の発言をした。これに続き、Jは、Iを新たな議長に指名する旨の発言をした。議長は、上記発言を動議として取り扱い、自身が議長を続けることの賛否を諮ったところ、J及びIから異議がある旨の発言があり、動議が可決されたものとした。Iは、議長として、本件修正動議が可決された旨発言した。
A社は、平成30年6月29日、関東財務局に対し、本件総会における本件会社提案及び本件修正動議に係る決議について、N生命及びO銀行の議決権2,100個が一部賛成とされていたものを棄権に変更すべきであるとして、訂正臨時報告書を提出した。
2.持株会理事長の議決権行使の有効性
第1審判決
第1審判決は、法人の代表者等が修正議案について議決権を行使する際、原案に関する特別の指示があれば、そこから合理的に導き出せる内容により議決権行使をする権限が与えられていると解するのが相当であるとした。その上で、本件会社提案に対する特別の指示がなかったことが認められ、本件持株会の会員は本件持株会に連絡をしないことで本件会社提案に賛成する旨の意思又は賛成の議決権行使に反対しない意思を黙示に表示したものと判示した。そして、本件持株会の理事長であるJが、本件持株会の議決権を本件修正動議に賛成として行使したのは権限を逸脱したものと判示した。
更に、被告(会社)は、本件総会の再開前にJの投票が本件持株会の特別の指示に反していることを前提とする決議結果発表原稿を用意していたこと等に照らすと、Jの権限逸脱について悪意であったと認定した。その結果、Jによる本件修正動議に賛成する旨の本件持株会の議決権の行使は無効であり、本件決議には取消事由があるとした。
(判示内容)
控訴審判決
(判示内容)
3.法人の職務代行者の取扱いについて
第1審判決
第1審判決は、N生命の担当者及びO銀行の担当者が本件総会に職務代行者として出席したと認定した上で、職務代行者として出席した以上、その時点で事前の書面による議決権行使は撤回されたと解するのが相当であるとした。そして、本件会社提案及び本件修正動議に対する投票に際し、N生命の担当者は投票せず、O銀行の担当者は白紙の投票用紙を交付したに過ぎないから、N生命及びO銀行の議決権については棄権として扱うべきであるとした。
また、議場閉鎖の際にO銀行の担当者が議場に居続けたことについては、議長が投票前に議場閉鎖を宣言している以上、株主は同宣言の際に退場することで欠席することができるに過ぎず、退場しなかった株主を恣意的に欠席扱いすることはできないとした。
(判示内容)
控訴審判決
(判示内容)
4.決議の成立時期について
(判示内容)
アドバネクス事件における争点は多岐にわたっており、その他にも判断が色々とありますが、以上では、株主総会実務との関係で特に注目すべき点について紹介しました。