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一週遅れの映画評:『世界の終わりから』僕は騙されたい。

 なるべく毎週火曜日に映画を観て、一週間寝かしてツイキャスで喋る。
 その内容をテキスト化する再利用式note、「一週遅れの映画評」。

 今回は『世界の終わりから』です。

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 なんかねぇ、すっごい変な映画だったんですよ。こうやって後から考えたとき、面白かった? と聞かれたら「面白くはないねぇ」って答えるしかないんだけど、見てる間はちゃんと楽しんでたっていう……そういう時って「あぁ、なるほど。オチがダメだったのね」って思うじゃん。でも違うのよ、オチはかなり好きな方だったの
 だからオチは悪くないんだけど、総体としてはダメでした、それでも楽しく見れました。って……やっぱ「なんか変な映画!」としか言えない感じ。方向性としては全然違うんだけど、この奇妙さに一番似てるのって、前にnoteで書いた『君は彼方』評が一番近いかもしれない。

 まぁ順番にいこうか。えっとね主人公は両親が他界してる女子高生で、祖母と暮らしていたんだけどそのおばあちゃんも亡くなってしまう。それで天涯孤独になっちゃったから、高校卒業したら将来やりたかったことを諦めて働くしかねぇなぁ。マジつらいわ~……って状況なのね。
 それである日から、突然奇妙な夢を見るようになる。戦国時代? ぐらいの日本で、人々が戦でバンバン斬り殺されいってる世界に放り出されて。そこで自分と同じ天涯孤独な少女と出会い、一緒にある祠まで手紙を届けに行くことになる。って夢で。
 したら現実の方では日本政府か警察のエージェントがやってきて、「人類は2週間後に滅亡します。あなたの見る夢が滅亡を回避する唯一の手段です」とか言い出す。
 と、いうのも彼らは「人間の運命が書かれた本」を所有していて、そこにはその人間に起こる出来事が全て書かれている。ただ2週間後から先の記述が誰の本を見ても書かれていない。これは人類が滅亡するってことなんだろう。だけど主人公の家系は特殊で、見た夢の話をすると、なぜだか本の記述が勝手に書き換わっていく。滅亡を避けるには、その能力に頼るしかない! って感じなのね。
 そっから政府エージェント、総理失脚を企む官房長官、夢と現実の両方に登場する世界を混沌に陥れようとする男、その3勢力が入り混じりながらも、世界は滅亡へと突き進んでいく
 
 ってまぁあらすじ話したけど、なんかフワフワしてんのよ。戦国時代の夢を見たら、運命が書き換わるとか。夢と現実のどっちにもいる悪い男とか。なんかこう物語として繋がりそうで繋がらないというか、この設定で想定できるストーリーって何パターンか思いつくけど、どうなっていくかイマイチ決め手に欠けるっていうか。
 こう言ったらわかりやすいかな。それぞれの要素を連結させる方法の、自由度が高すぎるんですよね。メインで世界に影響を与えるのが「夢」で、それによって運命が書き換わるから、エピソードの繋ぎがどうとでもなるんですよ。だからなんかフワフワしてるし、関節がぐにゃぐにゃ
 
 それでね、夢の中で旅をするうちに主人公は少女と仲良くなっていく。それで祠に手紙を届けると、神さまが願いを叶えてくれることが判明する。一方で現実側でもどうやら人類滅亡を回避するには、その夢の中で「世界を恨んでいる人物」を見つけて止める必要があると判明するわけです。
 そして終盤、祠にたどり着いた少女が得た力っていうのが「念じただけで人を殺せる」というもので。というのも少女の両親は侍に殺されてしまった、だから恨みを晴らすため人を簡単に殺せる力を願った。それを使って侍を全部殺してやる! みたいになってしまう。つまり夢の中で「世界を恨んでる人物」っていうのは、その少女だった。
 
 それで現実の政府側は主人公に「その少女を殺してでも止めろ」と言う、言ってしまう。いやここが完全に分岐として描かれてると思うんですけど。要は「人類が滅亡しないためには、少女を殺すのはやむを得ない」って考えと、「この世界が許せないから、嫌いな人間は殺してもいい」って性根が同じなんですよね。欲望のために誰かを犠牲にすることを肯定するって点で。
 それに加えて主人公の将来が暗澹としてることだけじゃなく、バリクソ学校でイジメられてるし、どうしてもお金がなくて一度だけ援交したのが動画に撮られてて脅されている。
 トドメに官房長官が情報をリークして、「首相が政策を女子高生の夢占いで決めてるってよww」みたいなデマが広まって、その女子高生占い師として主人公の顔がネットで拡散されたり。もうハチャメチャな事態になってしまうわけよ。
 
 それと同時進行で世界が破滅に向かうから、大地震が起きたり、伝染病のパンデミックが発生したりで社会が不安になる。その結果、街で暴動が発生して。それで「あの女子高生占い師と、そいつに従う政府のせいだ!」みたいになって、暴徒が主人公たちに迫ってくる。主人公に優しく接していた政府エージェントが鉄パイプとかでボッコボコにリンチされて殺されてしまったりするんです。
 
 絶望の中にいる主人公だけど、幼馴染の男の子がひとりだけ味方してくれてたりで……ここからまぁオチはね、さすがに伏せておきたいので言わんですがw
 ただ、そうね今年の映画で言うと『オカルトの森へようこそ』でしたね。
 
 で、で、で。結局この映画、なにをしてるかって言うと「陰謀論と陰謀論のぶつかり合い」だと思うんですよ。夢を見れば運命が変わるも、占い師女子高生が政治を動かすってのも、どっちも「んなアホな」って話じゃあないですか。それでも作中だと前者が事実だし、後者を信じた人が暴動を起こす。
 でね、さっき話したようにこの作品「それぞれの要素を連結させる方法の、自由度が高すぎる」……言ってしまえば、事象と事象を無理やりに繋げていくことで一個の「それが成立するストーリー」を強引に作り出してる。その手法って、完全に陰謀論が生み出される過程なんですよね。どっかの重要人物が世界の命運を握ってる、なんていかにも陰謀論者が好みそうなわかりやす過ぎる世界観なわけで。夢で運命を変える女子高生も、占い師が政府を操ってるも、そのレベルで言えば同じなんです。
 だからこの作品って陰謀論同士がお互いを否定しあった結果、世の中がめちゃくちゃになる! っていう非常にわけのわからない変なお話をやっていて。それがストーリーとして面白いか? って言えばやっぱりNoなんですけど、でもまぁオチは嫌いじゃないから「なんか……なんか変! 面白くはない!」って結論にはなるんです。
 
 ただねぇ~~~~~、全シーンが映像的にめちゃくちゃキマってて。眺めていて退屈だったりつまんないところがほとんど無いんですよ! 映像としてのバリバリに素晴らしい感じが、マジでスクリーン観ててずっと襲ってくるから、見てる間は楽しいんですね。ハッキリ言って「いや、これだけ映像の力が強いんだから、これは名作なのでは?」って勘違いしてしまいそうなほどに。というか「これだけ映像に満足してるんだから、もう面白いって思い込もうよ!」ぐらいのことは考えちゃう。
 だからねぇ、変だし、面白くないんだけど、楽しい! っていうすっごい分裂した感想になってしまうのよ……いや、これはね、見て欲しい。とにかつ絵面のカッコよさだけで、妙な満足感があるから。
 いや~~~~変な映画だった。良い体験をしたとは思います、はい。

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 次回は『search2』評を予定しております。

 この話をしたツイキャスはこちらの16分ぐらいからです。


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