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一週遅れの映画評:『ジェントルメン』悪党に優しい雨は降らない。

 なるべく毎週火曜日に映画を観て、一週間寝かしてツイキャスで喋る。
 その内容をテキスト化する再利用式note、「一週遅れの映画評」。

 今回は『ジェントルメン』です。

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 これだけ長いことやってると(※テキスト化は始めて2年ぐらいだが、映画語りは8年くらいになる)語り難い映画と語り易い映画ってのが何となく見る前からわかるのだけど……実は一番話しやすいのがラブコメ系の邦画だったりするのは……慣れによるものな気がする。別に好きではない。
 で今回の『ジェントルメン』は割と話しにくいタイプかな~?と思って見てみたら、想像以上に「話すのが難しい」作品だった。ただ語り易さが作品の良し悪しとは別ってのはさっき言った通りで、『ジェントルメン』、めちゃくちゃ面白かった。
 
 イギリスでマリファナ栽培のトップにいる人が「もう引退したーい」って、そのマリファナ栽培から流通ルートの権利を大金で譲るわーという決定からの、それを手に入れたい支配したいおこぼれに預かりたい人たちが取引交渉陰謀策略、そしてなんと言っても暴力を駆使して覇権争いをする。
 ただこれはその過程をただ追うだけの構成になっていなくて、えっとね、映画の主役としてはそのマリファナ組織のNo2でボスの右腕みたいな男と悪徳ジャーナリストなのよ。
 
 そのジャーナリストがマリファナ利権譲渡で起きたトラブルの真相を掴む。それを出版社は15万ポンド、日本円でえーーーっと2,000万円強ぐらいか、で買うって言われる。だけどそれはそのマリファナ利権を崩壊させかねない大スキャンダルで、ジャーナリストは組織のNo2に接触しその情報と証拠一式を2000万ポンド(30億円)で買えって交渉するのね。まぁこのマリファナ利権が総額で500億円ぐらいの市場規模があって、それが台無しになりかねない情報だからそのぐらいの価値はあるだろ?って感じで。
 
 ここから組織のNo2と悪徳ジャーナリストの騙し合いというか「どこまで知ってるのか/どの程度致命的な情報か」っていう腹の探り合いがはじまるのね。No2にしてみれば価値のない=公開されてもダメージが少ないスキャンダルに金を出す必要はないし、ジャーナリストにとって相手は超危険なマフィアだから慎重にならざる得ないから、それは当然。
 だからお互いに「これはもちろん知ってると思うんだが?」って感じで情報を小出しにしていくのね、それが今回のマリファナ利権譲渡騒動を時系列順に解説していくような形になって、映像としてはその「過去に起こった出来事」を描いていく。
 簡単に言えば「推理パートの謎解きを綿密にやっていく」ような構成になっていて、だからこの作品いちおう看板は「アクション」ってことになってるのだけど、実際はクライムサスペンスとミステリーを合わせた作りになってて……だからその、この映画評って基本的にネタバレ上等でやってんだけど、ミステリーはさ特にネタバレに躊躇しちゃうのと、この作品アクション部分やマフィアや大富豪や中国マフィアやギャングスタラッパーとかが互いに自分の欲望に従って策略を練った結果が複雑に絡み合ってるとこが面白さの肝だから、変にネタバレしても「つまんなそう」みたいな印象になっちゃうから、だから喋りにくいんだよねぇw
 
 ただいま言ったように、それぞれの組織や個人が持つ思惑が絡み合って、それをジャーナリストとNo2の「探り合い」で解きほぐされていく過程が事態は複雑なのにちゃんと整理させていてわかりやすいのと、わかりやすいだけに「うわーそうなるかー」と「あらららーそうなっちゃうかー」っていうのがずっとストーリーのテンションを高い位置に安定させてる。それがね、めっちゃ面白いんですよ。
 
 それにミステリーなんだけど、登場人物が全員アウトローだから基本なんでもあり、というか「一番簡単な解決方法が暴力」で深謀遠慮は2の手3の手ってあたりが「ここまで積み重ねたものが銃弾一発でひっくり返るかも」という緊張感を生み出していて、それに加えて過去の出来事を話してるのがNo2とジャーナリストだから「現時点で誰が生きてて、誰が死んでる」のか不明なまま話が進行していくのが構造としてうめぇなぁ。と思いました。
 
 それでね、今回はなるべくネタバレは避けるつもりで話したんだけど、まぁ結末まで見た後に思ったのが「悪人に希望はない」ってことで。これ最終的には誰の願いも叶ってないのよ、全員が大なり小なり不幸になって……まぁ大なりの方が「殺される」だから不幸ってレベルじゃねーんだけどさw
 登場人物がみんな賢くて野心があってカッコイイんですよ。それでもそういう奴らだが倫理を持たずにぶつかると、痛み分けにしかなんない。悪徳に生きる者には最終的に幸福なんて訪れないんだ、っていうのはハッキリと描かれていて……そういった意味では『ジェントルメン』ってタイトルがさ、知恵と力を兼ね備えて自信があり社会に強く影響を持つ、こう「紳士」としての条件をほとんど持っているのだけど、じゃあ足りないものは?ってなると最後に一番大事なものとして「倫理/正義」が立ち上がってくる。結局それを持たない本作のキャラクターたちは、表面上どれだけ紳士っぽく振る舞ってもやはり『ジェントルメン』ではない
 だから幸福を手にすることはできない……そういうアイロニーさも見ていてすごく良かったですね。

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 次回は『ファーザー』評を予定しております。

 この話をしたツイキャスはこちらの19分ぐらいからです。


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