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作る、食う、生きる――雑で楽な自炊への道。その② 「料理」を覚える、三工程

 さて、前回作る、食う、生きる――雑で楽な自炊への道。①「自炊」のハードルを下げよう!)は極限近くまで「自炊」のハードルを下げたわけですが、これは自炊という営みを「継続していく」ためのものです。料理というのは上達するために、反復練習とそれに伴う試行錯誤が必要です……というと面倒な話っぽいですが、要は「ボールをドリブルする」とか「格ゲーのコンボを覚える」といった行いに近いということです。
 
 ただ問題なのはドリブルもコンボも短い時間で何度もトライ&エラー繰り返せるのに対し(「今日はしゃがみ中K→立ち中P→昇竜拳の練習をするぞ!」と思って5回とか10回とかのトライで終わらせる人はいないでしょう)、料理というのは大抵「多くて一日に3回しか練習のチャンスが無い」ということです。
 料理人が上手いのは(目的意識や教師、あるいは環境の差は当然ありますが)反復練習の回数が段違いだからです。雑に考えても一日に10人のお客さんがくる潰れかけの定食屋だとして、それでも毎日私たちの3倍以上「練習」をしているわけですから、そりゃあ上手くなって当然というものです(ほら「居酒屋チェーン店のキッチンでバイトしてました」程度の経歴でも、調理にやたら自信持ちニキっているでしょ?そしてやらせてみると、まぁ確かに居酒屋チェーンで食べるくらいのものならそれなりの完成度で作ったりする、あの感じ。つまりそのぐらいの薄い経歴でも練習の回数が天と地だし、それがわかりやくす反映されるのが「料理」なのだ)。

 なので料理ができるようになるには、一日の練習回数を増やすわけにもいかないので(いやまぁ体重と散財を省みない、というのなら止めはしませんが)、「継続していく」ことで3回×日数の数を増やしていくしか無い。
 
 前に掲げた「できること/つづくこと/やすいこと」というのは、それを念頭に置いています。できること=出来ないことはやれない、つづくこと=続けないと上手くならない、やすいこと=お金がかかっては継続できません、という条件のなかで「できること」を増やしていくというのが料理の上達であり、「自炊」という行為の目指すものであるわけです。
 
 ではでは、ここから料理のレパートリーを増やし、流れるような所作で包丁を扱い、『中華一番』や『鉄鍋のジャン』のように燃え盛る火柱を自在に操り、ほっぺが爆散する素晴らしい味わいを求めるわけでが……はていったいどこから手をつけたものか?
 ル・コルドン・ブルー印のテキストを読みまくる?スイカの飾り切りとか大根のカツラ剥きとか?大火力コンロと中華鍋を買いにホームセンターへ?それとも至高と究極の味バトルで使われたヨーロッパの岩塩を求めて飛行機に飛び乗る?
 
 ……と、指針がないと人は暴走しがちです。「できること/つづくこと/やすいこと」という枠から出ない、つまり想像がつく料理を、近所のスーパーで(なんならコンビニでもいい、ちょっと高いけど)買えるもので、家にあるコンロ包丁まな板フライパンあたりを使って、「まぁこれなら食えるかな」って味にする。あたりを第一到達目標としましょう。
 
 で、ここで料理の過程を3つに分割します。基本的に全ての料理はこの三工程で行われます、それはどんな複雑怪奇で奇妙奇天烈摩訶不思議出前迅速落書無用のモノでもです。コトゥレット・ド・ムトン・ポンパドゥールでも玉子焼きでも、その制作過程を小分けにしていけば同じ三工程の集合体でしかないのです(ちなみにコトゥレット・ド・ムトン・ポンパドゥールは「骨付き羊肉のソテーお妃さま風、マデラソース添え」と翻訳すればボンヤリとした形は見えてくる気がしますw)。
 
 さてその三工程とは


・切断
・加熱
・調味

 です。
 
【切断】
 食材をどのような形にしてから調理するか。切ったり切らなかったり、薄くしたり刻んだり一口大にしたり、千切ったり伸ばしたり丸めたり。時には叩いたり投げたり踏んだり、ボールに入れて回転させたりすることもあります。なんにせよ「調理しやすい、食べやすい」状態に素材を形成する作業です。(EX:卵を割って適当な器やボールにいれ、お箸で溶く)
 
【加熱】
 火の通し方(あるいは生のまま)によって、そして「何で」火を通すかによって料理は千差万別に変化します。焼く、焼き付ける、焙る、炒める、炒め煮、煮る、煮詰める、煮こぼす、蒸す、揚げる、揚げ焼き、油通し、ソテー、ロースト、ポワレ、グリル、フリット、ポシュ、ラグー、炒、爆、炸、煎、燴、燒、煨、烤、燻、醤、扒、臨兵闘者皆陣列在前。あぁこんな単語なんて覚える必要はないですよ?言ってしまえば同じ豚肉でも、フライパンにサラダ油を引いて焼く、鍋に水を沸かせて煮る、たっぷりの油を熱して揚げるで3種類の料理になる、という話です。(EX:フライパンに少し多めの油をしいて溶いた卵を焼く)
 
【調味】
 味をつける、以上。以上とはいえ料理において一番面白いのがココ(個人の感想)。ということでたぶん次回はこの「調味」の話をしていくつもり。(EX:溶いた卵に顆粒だしと砂糖と塩としょう油とお酒を入れて混ぜる、焼く前にw)
 
 料理、というのはこの三工程のそれぞれを学びつつ、その組み合わせによって作られるものである。
例えば牛肉とにんじんを≪ひと口大、薄切り、丸のまま≫≪焼く、煮る、揚げる≫≪和風、洋風、中華風≫で調理すれば
 その組み合わせただけで3×3×3=9種類の料理を作れることになる。
 
 だから本当は「料理を覚える」とき、その三工程ごとに知識と技術を取得していくのが一番の近道なんだ。
 
 だけど世にある「レシピ」というのは「切断加熱調味」が1セットになっている。それだとその「レシピ」は覚えられても「料理」を身につけることにはならない(もちろん、その「レシピ」から各々の切断/加熱/調味の手法は吸収できるけどね、でもすこし遠回りになってしまう)。
 
 とはいえ、切ることだけを練習したり、ひたすら肉を炒め続けても永遠にごはんが食べられないので、結局はその三工程を全部やるしかない(先に挙げた調理師学校なんかでは「ひたすら切る」とか「ひたすら煮る」とかで一気にその経験値を稼げるのも、料理人が上手くなりやすい理由でもある。あれだよ「新人はジャガイモの皮でも剥いてろッ!」ってヤツ?)
 
 じゃあこれから自炊していく上で「料理」を覚えるにはどうしよう?と考えたとき「切断」と「加熱」は固定する。つまり同じ切り方で、同じ焼き方をして、ただし「味だけ変える」って方法で学んでいくのが一番良い……と思う。
 いや別に焼き方も味付けも一緒で「切り方」だけ変えてもいいけど、だぶん3日で飽きるのでは……?
 
 ということで次回は【調味】を覚える編になります!

 って思ったけど、こうなった
作る、食う、生きる――雑で楽な自炊への道。その③ 「料理」を覚えるとは何か?……俺たちは雰囲気で料理をやっている!

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