一週遅れの映画評:『それいけ!アンパンマン ロボリィとぽかぽかプレゼント』献愛の意味を。
なるべく毎週火曜日に映画を観て、一週間寝かして配信で喋る。
その内容をテキスト化する再利用式note、「一週遅れの映画評」。
今回は『それいけ!アンパンマン ロボリィとぽかぽかプレゼント』です。
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この映画評では度々あることなんですが「めちゃくちゃ面白かったけど、話すのがムズい」作品というのがありまして、前は『おしりたんてい シリアーティ』がそうだったけな? でも感触としてはそれより難しい気がする、この『アンパンマン ロボリィとぽかぽかプレゼント』は!
なんかね、ロボリィっていうロボットが「ロボ彗星」から地球に来るわけですよ。あ、「すいせい」つっても魔女がいる方じゃなくてバーッて動く方の「彗星」ね……ってこれどっちも『ガンダム』の話じゃないか!? 怖っ。
まぁそれは置いといて、この「ロボ彗星」のロボットたちは体内に物質製造機が組み込まれており、なんでも作ることができるんですよ。たぶん『アンパンマン』対象年齢の子どもたちにとっては、3Dプリンターっておおむねそうゆう認識なんだろうなぁ。
この作品で設定考証とか科学考証しても野暮ってもんですよ、後半に無人島で木材を採取するとアンパンマン号に宇宙へ行くためのブースター(どう見てもシルバーな輝きを放つ金属製)が組み込まれんだから。うるせぇジャムおじさんがパネェで納得しとけ。
そう、でロボリィはまだ子どもなんだけどめちゃくちゃ優秀なロボットなので、その物質製造機の性能も同年代と比べて段違いなのよ。それで「私はなんでも作れるロ!」って調子乗ってるんだけど、ロボ彗星の偉い人であるロボじいさんから「我々ロボットにも作れないものはある」って言われる。
それで「そんもの本当にあるのかロ? それなら探しにいくロ!」つってロボ彗星を飛び出して地球にやってくる。
もうさ、この時点で「AIに人格はあるのか?」とか、そういう話が全部ブッ飛ばしてるのがめちゃくちゃ良いんですよ。だって「ここには人格が生まれてるのか?」「人格とはなんなのか?」ってことを真面目に議論する、そうやって考える必要が生まれるぐらいなら「もうそれはいったん”ある”ってことで」にできる『アンパンマン』って世界の懐深さと、子どもたちに向けて「とりあえずそこに誰かがいるのなら、その存在をまず肯定してください」みたいなことを当たり前のように提示することは、やっぱねぇ猛烈に正しいんですよ。
それでロボリィはまずバイキンマンと出会って、性能比べをするって遊びに興じるわけ。超高速で飛び回って競争したり、巨大な岩をブン投げてぶつけようとしたり。ここで無垢ゆえの危なっかしさが描かれることで、ロボリィの持つ問題がわかりやすく示される。
で、そうやって暴れてる(本人の認識としては”遊んでる”)ところにアンパンマンが来て、軽めの説教をされるんですが。そこでロボリィはエネルギー切れで倒れそうになってしまう、でアンパンマンの顔をもらって(ここで自分の顔をちぎって渡すアンパンマンにロボリィは軽く引く、っていう新鮮なリアクションが楽しいのよ)食べる。
そうすると「なんだか胸があったかいロ」「ただのアンパンなのに、不思議だロ」という現象にロボリィは首をひねるんですが……要は「ロボットに作れないもの」っていうのが、そういった愛、その中でも献愛にあたるものだよ。という展開へと導線が引かれるわけですよ。
それをどうやって確認していくかっていうと、バイキンマンの赤ちゃんになっちゃうガスで撃たれたアンパンマン、しょくぱんまん、カレーパンマンは赤ちゃんになってしまい、ついでにロボリィも一緒に無人島へと飛ばされてしまう。
ここがね、赤ちゃんになっちゃうガスが唐突に出てくるんですが、そこに「バイキンマンが適当にしまってて忘れてたけど、UFOが殴られた衝撃で荷物入れから見つかった」という説明がされるのね。これ普通の作品だったら、ちょっとダメな展開だと思うんです。
だけど『アンパンマン』っていう土台が、「バイキンマンの発明能力はめちゃくちゃ高くて、でも呆れるほどだらしないからそれを紛失してても仕方ない」って納得させてくるんですよ。あー、バイキンマンならそういうことあっても違和感が無い。その上、ガスを発見できた原因がアンパンマンたちにあるから、ちょっと自業自得感もあって。
ここがねぇ『アンパンマン』という舞台/設定をすごく上手く使って、物語をギュっと圧縮したスピーディーな展開を実現していて凄いな! と思うんです。こういう作品が持ってるストロングポイントを上手く扱ってるのをみると、感動してしまうんですよね。
それで無人島に飛ばされたロボリィは赤ちゃんになったアンパンマンたちのお世話をすることになる。食べ物を探したり、遊んだり、体を温めたり。そうやってエネルギーを消費してしまうと、また倒れてしまう可能性が高いのに、それに構わずアンパンマンたちを助けようとするんですよね。
つまりここでロボリィは与えられていた献愛を、今度は与える側になる。ロボットだけでは作れないものを、誰かとの関係の中で身につけていく。
私が死ぬほど好きな作品に『覚悟のススメ』っていう漫画があるんですけど、これがまぁアンパンマンと関連付けるのを躊躇するぐらい激しい作品なんですけど……でも「正義とは、それを守るとは何か?」という問題を考えたとき、ちゃんと類似性があるの。でね、その『覚悟のススメ』主人公・葉隠覚悟はある敵の行為にこう言うシーンがあるんですよ。
「献愛は時に苦痛を伴うもの!!」
もうね、ロボリィの「自分が倒れてもアンパンマンたちを助けたい」って、完全にこの「献愛は時に苦痛を伴う」の実践なわけですよ! 『アンパンマン』という世界の中で、子どもたちに「人を助ける、優しくする」ことの難しさを教えながら、でも「それはとっても大事なことなんだよ」って伝える。それも過度に悲壮感とかを見せずに!
私はねぇ、こういうストレートで力強い、でも優しさのあるメッセージを伝えてくれる作品が大好きなんですよ。そしてあくまでも子どもたちに向けて、悲惨さや苦しみを必要以上に表現しない。これを『アンパンマン』でやることの意味がしっかりあって、ほんとにめちゃくちゃ良い作品だと思いました。
残念ながら私は演技とか作画とかがよくわからないので、「ロボリィの声、すごく合っていて良いな!」「戦闘シーン、かっけー!」ぐらいことしか言えないのが残念なのですが、そういった部分も含めて作品全体が非常に高いレベルにあるな、と感じました。
いや、本当に面白かった! あんまり良くないときもあるけど、やっぱ『アンパンマン』の映画はちゃんと見ていきたいですね。
あと全然関係ないけどドキンちゃんが街にいるとき「ドキ子ちゃん」っていうダサ眼鏡をかけた野暮ったい姿に変装するんだけど、地味眼鏡女子が実は悪いことも平気でやっちゃうメスガキというのは、なんというか、その、ドキドキさせるよドキンちゃん!
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次回は『交換ウソ日記』評を予定しております。
この話をした配信はこちらの16分ぐらいからです。