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一週遅れの映画評:『ハケンアニメ!』いや、その眼鏡はねぇよ!

 なるべく毎週火曜日に映画を観て、一週間寝かしてツイキャスで喋る。
 その内容をテキスト化する再利用式note、「一週遅れの映画評」。

 今回は『ハケンアニメ!』です。

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 その眼鏡はねぇよ!という部分から切り込んでいきたいと思うんですけど。元眼鏡屋だしね。
 
 この主人公ってまぁオシャレへの優先度が低いキャラクターとして描かれてるじゃないですか、で、そういう人は玉型(レンズの形とか大きさのことね)がこんなに大きいメタルフレームの眼鏡なんて買わない……というか「買えない」んですよ
 なんでかって言うと、そうねオシャレにあんまり興味ない人が眼鏡を買わなきゃなーと思って行く場所って、まぁ大抵はイオンですよ、イオン。ジャスコ!って感じで。で、そこに入ってるJINSかzoffに行く。これが事実です。だってまず眼鏡屋なんてほとんど知らない、なんかあの通りに眼鏡市場があった気はするけど自信が無い、イオンの中に安い眼鏡屋があるのは何となく知っていて行けば店内MAPで辿り着ける。じゃあ買い物もついでにできるしイオンでいっか~ってなる。100%なる
 
 で店に入ってずらーと並んでる中から、まず黒のセルフレーム(金属じゃなくてプラスチックみたいな素材の、ってことね)を手に取る、絶対。それで試しにかけてみて、鏡を見て、そして軽く首をひねる。「あれ?これはなんぁ違うぞ?」みたいな感じで
 まぁそれもそのはずで、オシャレに興味ない人が欲しいのは「あんまり目立たない眼鏡」なんですよ、特徴のないといか自然に見えるというか、ともかくそういったデザインを求めてる。だから基本的には目立たない色とされる黒とかを手に取っちゃうんだけど、かけるとすげぇ目立つ。なんでかって言うと眼鏡の色と比較されるのは皮膚の色だから、それに対して「黒」ってめちゃくちゃインパクトが強い色だから、そこで「あ、これじゃないな」ってリアクションになる。
 で、それを並んでるフレームを拭き拭き目の端で見ている店員は「あぁそういう感じね」というのが一発でわかる、できるだけナチュラルに見えるのが欲しいのね、と。
 
 それで結局買っていくのは大抵「茶色でオーバル型のセルフレーム」になる、えっとね、こういうの。

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 肌色に合わせるなら明るめの茶色~赤系統がわりと馴染む、玉型も決して大きくないぐらい。まぁ実際こういうのは誰がかけてもそれなりにおさまりが良いから売る方としても適当に勧めてりゃいいから楽なんですよ、まぁ「ああ、またこんなんね」とは思ってるけど。
 
 だから主人公がかけてるような玉型の大きいメタルフレームなんて、売り場に並んでる中だと1%ぐらいしかないし、店員もわざわざ勧めない。かなり強めに「こういうのが欲しい」って意志がないと、このタイプを買うことはできない。つまりオシャレの優先度が低い人には「買えない」眼鏡なんですよね。
 
 ただわかるんです。このデザインの眼鏡が「オシャレに無頓着な人」っていうキャラ付けのために選ばれているのは。そして若い女性がそういうキャラ付けをされるのは「他に何か全身全霊で打ち込んでいるから」ということのエクスキューズになっているのも。だからこの現実だったらまずありえない眼鏡の選択は正しいんですよね、”キャラクター像”として
 あ、いま”キャラクター像”の部分は洋画でよく見る両手で指2本立ててクイクイッってやる”括弧つき”みたいなジェスチャーやってます。
 だからこの主人公である監督はそういった「イメージだけ」で形成されているキャラクターで、主人公がそういう感じだからこの『ハケンアニメ!』は要素の全部がそういった「イメージだけ」で作られているんですよ。
 
 少年少女が出る暗い設定を持ったロボットアニメと、魔法少女が過酷な運命に立ち向かう戦闘美少女アニメっていう劇中劇。こんなん多少アニメを見てる人なら何作か具体例を挙げれるし、それがどのくらい人気だったか、あるいはパッとしなかったか知ってるわけですよね。いま私の頭ん中ではその両方を兼ね備えた作品が「まるっ!」とか言ってますけどw

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 だからそういった作品が同じタイミングで競り合うように人気作品になるっていうのもイメージだけだから成立する設定だし、その人気度合を視聴率で測っているけど、作中ではスマホを覗き込んで作品鑑賞する人たちばかりが出てくる(オンタイムでテレビの前にいることが描かれているのは制作会社の人間だけ!)。それだけ配信で見られる環境と視聴率が参考になる時代ってかなりズレていて、現実と対照させてしまうとマジでよくわかんない。けれど「人気を表す数字」というイメージとしての視聴率と、「目に見える人気」というイメージとしてのスマホでアニメを見る人たち、って図式なら表現したいことはよくわかる、というかシンプルすぎるくらい
 
 加えて電車の吊り革広告でアニメの人気記事があったり、街中で聞こえてくる会話にバンバン作品タイトルがでてきたり、最終的には自分が感じている期待からのプレッシャーが文字になって窓の外に浮かんでくる。
 もう本当に「ここで描かれていることはそういうイメージだけの話で、現実の何かではありませんよ」ってことがずっと繰り広げられてる
 
 つまりこの作品て別にアニメ制作の現場を取り扱わなくてもいいわけですよ。あらゆるお仕事ものとしてちょっと弄るだけで成立する、そういった「みなさんの想像する〇〇ってこういう感じですよね」ってものだけで構成されている。だから平均的に面白くはあるけど、どう頑張っても一定ライン以上の良さは見込めない……なんというか「安牌でしたね」という感想になっちゃうかなぁ。
 ただそういうもので「アニメ制作」ってモチーフが選ばれる、そして2022年になって映像化されることが、「アニメ」というメディアの立ち位置がすごくメジャー、というか自然に受け入れられるものになって来たんだなぁ、とは思う。
 そういった意味では作中でライバル役の監督が「一億総オタク化とかバカバカしい。俺は暗い部屋で美少女キャラを見てシコってる奴らに届けたい」とか言い放つシーンが、いかにもそれが作中においては正しいように扱われつつ、実際この『ハケンアニメ!』という作品がやってることからすれば、ちょっとどうしようもないくらい空転してる
 
 それをどこまで自覚的にやってんの?って言うと……たぶん気にしてなさそうですね。という印象な辺りに「いやぁそれなりに良かったですよ」とはちょっと私には言えないかな。
 あと「覇権」という言葉に良い印象の無い、どちらかというと批評をやってる立場としては苦しめられた人間としては「その評価軸を漂白させねぇぞオイコラ」という苛立ちはありますね、はい。

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 次回は『犬王』評を予定しております。そりゃそうでしょうよ!

 この話をしたツイキャスはこちらの16分ぐらいからです。


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