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一週遅れの映画評:『月の満ち欠け』ではSANチェック、お願いします。

 なるべく毎週火曜日に映画を観て、一週間寝かしてツイキャスで喋る。
 その内容をテキスト化する再利用式note、「一週遅れの映画評」。

 今回は『月の満ち欠け』です。

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 まず第一に、これは私の嫌いなタイプのお話です。そしてめちゃくちゃホラーです、このシナリオでTRPGやるならルールは間違いなくCoC(『クトゥルフの呼び声』)を採用するでしょう。そのぐらい怖い。
 
 主人公の子供が7歳のとき原因不明の高熱を出して入院してしまう。1週間くらいで体調は良くなるんだけど、それ以来すこし子供の様子がおかしい。教えてもいない英語の歌を口ずさんだり、異常に写実的な花の絵を描いたり、さらには一人で仙台市から東京の高田馬場まで電車で行ってしまう。7歳ですよ、7歳。
 でその娘は18歳になったとき、母親と一緒に交通事故で死んでしまうのね。
 
 事故から数年後、主人公の元に謎の青年が訪ねてきて「あなたの娘は、僕の死んだ恋人の生まれ変わりなのかも知れない」とか言い出す。まぁ主人公は怒るよね、そんなの。だって愛する妻子を失って、まだ傷も癒えていないのにいきなりそんなワケのわからんこと言うヤツが来たら。
 だけど話を聞いてみると、娘が事故にあったのはこの青年に会いに来ようとしていた時で、なのに二人には面識はない。突然、娘の方から連絡が来たのだと。最初は戸惑っていた青年なんだけど、娘が7歳のとき高田馬場でこの青年を探していた、ってことと名前が同じ「瑠璃」という2点で青年は「僕の恋人の生まれ変わりだ」と判断しました。とか言うわけ。
 完全に狂人ですわね……結局、バチギレした主人公に「出てけコノ野郎!」と言われ、まぁ青年も「わけのわからないこと言ってすいませんでした」って帰って行くのさ。よかったまだマトモだった。
 
 ところがその後、娘の親友だった子から連絡が入るんですよ。「瑠璃の描いてた絵を探して、それを持って来て」って。主人公としては娘の遺品なんて簡単に処分できないから、ほぼ全部とってある。で、そこを調べると≪目星≫に成功したのかな? 親友の言っていた絵を見つけるんですよ。
 その絵は男性の肖像画なんだけど、描かれているのはさっきの「恋人の生まれ変わり」だって主張する青年、しかもかなり若い姿のものなんですよぉ! 怖っわ!
 
 で、その親友に絵を届けると、彼女は「瑠璃から聞いた話なんですけど」と前置きして語りだすんです。瑠璃には生まれ変わる前の記憶があると。
 ざっくりまとめると、元々人妻だった「瑠璃」は家庭が上手くいっていない中で、さっきの青年と出会い恋に落ちる。だけど不幸な事故があって死んでしまった。そして今度は主人公の娘である「瑠璃」として生まれてきた。7歳のとき高熱がきっかけで、前世の記憶を思い出した、と。そして死に別れた恋人に会いたくて……ということらしいの。
 
 なんかさー、そこで「人はみんな誰かの生まれ変わりとして誕生する」「前世の記憶は普通ないけど、稀に強い未練があった場合、思い出すこともある」って言い出すわけ。私これ超嫌いで
 ていうか完全に『ワールドトリガー』のあのセリフ、なんだっけ「気持ちの強さで勝負が決まるって言っちまったら、じゃあ負けたほうの気持ちはショボかったのかって話になるだろ」ってアレですよ。そういうことなんですよ。
 なんか知らんけど、そこらの男と惚れたハレた”程度”の未練で前世の記憶が消えないんなら、どー考えてもハンパじゃない割合で記憶の引継ぎ起こるでしょ? なんだよ、生まれ変わりシステムはバカのバイトレベルの引継ぎしか普段はしてないの? 早番の人が困るでしょうが! 「てんちょー、あいつまたフライヤー洗ってねぇーんですけど!」って言われるよ!
 
 それにこれは呪いじゃないですか。何世代経ってもひとりの未練、というかここまできたら「怨念」だと思うんだけど。それをいきなり全然関係ない子供に「よろしく!」みたいにブン投げてんじゃねーですよ! そんなね、無関係の相手に何てめぇーがやった不倫のあとしまつを押し付けてるわけ?? 大怪獣のほうがまだ倫理観あるわ。
 私がもしいま死んだら、めちゃくちゃ未練ありますよ。8tトラック3台分ぐらいある。だけどねぇ、それを誰かに継続して欲しいとも思わんですよ。なんで愛してる人間を殴った後悔みてぇーなクソ感情を押し付けれる?
 それにこの想いは私だけのものなの! 他の人間には絶対触れて欲しくない、クソだけど大切なやつなんです! お前になんかやるもんか、死ねッ!
 
 だけどね。この作品もそこは把握してるみたいで、主人公はずっと抵抗するんですよ。「瑠璃は他の誰でもない、自分たちの大切な娘だ」って。そこに見知らぬ誰かの記憶なんてあってたまるかと、もう死んでるけど、だけどここにいるのは「唯一の、私の、娘だ」って主張し続ける。ここはね、良いところです。良い。
 
 ……と言ってる主人公に親友がね、「私の娘の話を聞いてくれませんか?」って言うんですよ。もう悪い予感しかしねぇじゃん!
 親友の娘である「瑠璃」は、主人公と「瑠璃」の間だけで交わされた、他の誰も知りようがない会話を、一言一句違えずに反芻するんですよぉ!!
 私がKP(キーパー)だったら「瑠璃と名乗ったその少女は、今となっては君しか知らないはずの、娘との思い出を語り始める。その内容は、君の記憶にある思い出と寸分違わないものだった……ではSANチェックです。≪正気度ロール≫、成功1d6/失敗1d20となります」ってマスタリングするよ!
 そこできっと5点以上ごりっと正気度減少して、≪アイデア≫ロール成功しちゃったんだろうねぇw 主人公はその「瑠璃」を抱きしめてしまうんです。
 
 とはいえ、なんとか生き残ったわけで。一時的狂気になろうとも、『クトゥルフ』ならキャラクターが生還してれば概ね成功と言えるわけで、良かった良かったと思いました……いや、思うじゃん?
 主人公が家に帰ったところで、そこに知り合いの子供がいるんですよね。
 主人公は娘と妻と同時に事故で失くしているんですよ。
 
「玄関を開けると、近所に住んでいる女の子があなたを待っています。彼女はにっこりと、見覚えのある優しい笑顔を浮かべ、こう言います……「お帰りなさい、あなた」。それでは本セッション最後のSANチェック、お願いします

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 次回は『映画かいけつゾロリ ラララ♪スターたんじょう』評を予定しております。

 この話をしたツイキャスの録音は、今回ございません。

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