見出し画像

一週遅れの映画評:『おそ松さん 魂のたこ焼きパーティーと伝説のお泊り会』テーマはいいんだけどねぇ、テーマは。

 なるべく毎週火曜日に映画を観て、一週間寝かして配信で喋る。
 その内容をテキスト化する再利用式note、「一週遅れの映画評」。

 今回は『おそ松さん 魂のたこ焼きパーティーと伝説のお泊り会』です。

※※※※※※※※※※※※※

 何というか、扱ってるテーマはめちゃくちゃ良いのに、それ以外があんま面白くないという作品でしたね。いやホント伝えたいことは良かったのよ……。

 えっとねお話としては、まぁいつも通りダラダラとした生活をしているおそ松たちクズニート6人。「僕たちって生きてる意味あるの?」「ないな」「だよねー」という会話を繰り広げながら、とにかくやることがなくて暇をもて余しているわけですよ。そこで不意に「じゃあ、たこ焼きでも作る?」って言い出す。
いや、そういう今日の予定って話じゃなくてもっと中長期的な暇つぶしを、って感じでいまいち乗り気じゃない彼らの前を通りがかったトト子ちゃんが「たこ焼き? 楽しそう、私も行っていい?」と言い出したもんだから、おそ松たちは色めき立って「たこパだ!」とはしゃぎだす。

 ここまでが導入なんだけど、ちょっと話したいことがあるから一気に結末までのストーリーを話してしまうね。
トト子ちゃんだけじゃなく招待してないイヤミやチビ太、ハタ坊、デカパン、ダヨーンまでもやってきて、まぁメインキャラクター大集合って感じになるのよ。それで散々飲み食いして「そろそろお開きに」ってところで、トト子が「私もうちょっと居ようかな(=このまま泊まっていこうかな)」と言い出す。そこから深夜まで遊び「そろそろ寝る?」ってなっても、トト子は「まだまだ飲もう!」とか言ってついに日が昇ってしまう
それでもトト子は止まらず、飲み続けて遊び続ける。数日たっても寝ることなく続く中で、みんな顔が土気色になってヘロヘロになる。その中でトト子は「お前なにがしたいんだよ、どうしてこんなことをしてるんだ?」って問われる。それに対して「んー、なんとなく」って答えるのね。
 その瞬間、おそ松たち以外は顔色がまともに戻って、再び精力的に遊びはじめる。ひいてはこれまで『おそ松さん』に登場したモブキャラを含めたほぼ全員がおそ松家に集合し、ついにおそ松たちは「もう勘弁してくれ〜!」とギブアップして、ようやく「たこパ」は終了する。

 ここでの「なんとなく」がめちゃくちゃ重要で。一応トト子が家に帰らず眠らず遊び続ける背景みたいのが一瞬だけ提示されるんだけど、そんなものには対して意味が無いような演出になっているのね。だから本当に「なんとなく」な感じなの。
でね、おそ松たちはその延々と続く「遊び」についていけないくて、最終的にギブアップを叫ぶ。本来クズニートであるおそ松たちにとって、そうやって遊び続けることって望む事態ではあるわけじゃない? 暇も潰せるし。そうやって面白おかしく遊び続けていけたら楽しいはずなんだから。でも彼らはその生活に限界を感じる。
一方でおそ松たち以外のキャラクターは、その「遊び」を平気な顔で続けているわけですよ。だからここで何が起こっているかというと、「遊び」と「日常」の同一化なの。
 つまりおそ松たちは「クズニート」だから、例えば毎日働きに行ってお金を稼いで生活するような、大半の人がこなしている「日常」を続けることができない。そういう生活に対して「勘弁してくれ〜!」ってなった結果、クズニートとしての日々を過ごしているわけ。だけどここではたこパやって酒飲んでゲームして、みたいな「遊び」が延々と続く生活に対しても「勘弁してくれ〜!」ってなる。一方で彼ら以外の人たち、つまりそういった毎日働きに行ってお金を稼いで生活する「日常」を過ごす人たちは、変わらずに「遊び」続けることができる。
だからここでは「おそ松たちが適応できないもの」として「日常」と「遊び」が同じものとして扱われているわけですよ。

 そういった前提を持った上で、遊びをやめる気配のないトト子に対する「どうしてこんなことを続ける?」という問いは(このセリフ自体はおそ松たちのものではないけれど)、遊びだけじゃなくて日常にかかってもいる。「毎日働きに行ってお金を稼いで生活する、なんでそんなことが続けられるんだ?」っていう問いかけが発生しているわけですよ。そういう「日常」もまた、おそ松たちにとっては顔が土気色になって「勘弁してくれ〜!」ってなるものだと言っている。
それで恐ろしいのが、その答えが「なんとなく」だっていうことなんですよ。別に大した理由はない、無意味に無根拠に「毎日働きに行く」ことをやれる、やってしまう
 何日も寝ずに遊んで酒を飲む生活なんて、はっきり言って異常なわけですよ。そんなのはとてもじゃないけどまともな人間のする生活じゃない。だけどそれと同じくらい「毎日働きに行く」生活ってそんなにまともか? それって本当は異常なことなんじゃない? って視線が入り込んでくる。しかもそんな日々をこなすのにこれといった理由や意志はなく「なんとなく」で過ごしている。
確かにクズニートであるおそ松たちはダメ人間だけど、何も考えずに働いて生きてる人間だって本当はロクなもんじゃないんじゃないか? そうやって「日常」を過ごしていることって、言うほど「まとも」か? っていう相対化するカウンターを当てて来ている。

 それで最終的にたこパは終わり、みんなは「日常」に帰っていく。普通に出勤し、働いてるシーンが流れた後でおそ松たちが川辺に並んで釣り糸を垂らしながら「僕たちって生きてる意味あるの?」「ないな」「だよねー」って会話を再び繰り返して作品は終わるわけだけど。ここでその会話の意味が少し変化している。クズニートである自分たちには「生きてる意味ねーな」ってだけだった冒頭の会話から、「遊び」と「日常」が同じ意味を持つことを示したあとでは「毎日働きに行く生活って、生きてる意味あるの?」って意図も含まれるようになる
これってまぁ毒のある終わりではあるんだけど、「かといって働いてないよりはマシだろ」っていうおそ松たちを最下層に置いている作劇と同時に、こうやって作品を見に来るって「遊び」を日常のなかで遂行している、そうやってバランスを取って楽しんでる視聴者をエンパワメントしていて、ちゃんと良い落とし所になっている。
こういうメインテーマ部分は非常に良いんですよ。

 ただ。
 ただ、全体としてギャグが非常に面白くない。なんかねぇすごく間延びしているし、ナンセンスギャグもいまいちフリ切れてない。天丼ネタも雑すぎて笑いに繋がっていない。
これ劇場版で60分弱あんだけど、ちょっと尺の取り扱いがうまくいってなくて……これ絶対テレビサイズの30分尺で作ったほうが狂走的になって面白かっただろ! って気配がビンビンにするのね。
だから頭で言った通り「扱ってるテーマはめちゃくちゃ良いのに、それ以外があんま面白くない」作品で、そしてギャグ作品としてそれをどう評価するかって言うと、まぁ決して人にオススメできるものではないかな……って感じでした。得るものはあったけど、別にそれを「面白くない」作品からわざわざ受け取らなくても他の代替作品はいくらでもあるしなぁ。という結論です。

※※※※※※※※※※※※※

 次回は『仮面ライダーギーツ 4人のエースと黒狐/王様戦隊キングオージャー アドベンチャー・ヘブン』評を予定しております。

 この話をした配信はこちらの16分ぐらいからです。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?