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一週遅れの映画評:『THE BATMAN』反転するための、灯火を。

 なるべく毎週火曜日に映画を観て、一週間寝かしてツイキャスで喋る。
 その内容をテキスト化する再利用式note、「一週遅れの映画評」。

 今回は『THE BATMAN』です。

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 ハッキリ言ってしまいますが、この作品の9割くらいを「なんそれ?」って気分でみてました。ただ残った1割がすごくよくて、それがクライマックスにあたる部分だからそこまでの「なんそれ?」を全部ひっくり返してくれるんですよ。だから最終的には面白かったし、良い作品だと思う。ただまぁ170分は長ぇよ……とは思うんだけど、でも長いからラストが輝くところもあるしなぁ……。
 
 60年代にテレビドラマになった『バットマン』て知ってます?すごく変な、かなりコメディ寄りの作品で。えっとね有名な(有名か?)「サメ撃退スプレー」が出てくるシリーズ、あとで「サメ撃退スプレー バットマン」あたりでググってもらうと、うんまぁ違法アップロードは良くないよね、としか言えないんだけどw
 9割部分はね、この60年代の変なバットマン(これ『レゴバットマン』で公式に言われてるからdisじゃないよ!)みたいなんですよ。なんかこう、おまぬけ蝙蝠コスプレ男のドタバタ珍道中な感じがすごくて。
 
 それは作中でもバットマン自身が「このままではリドラーのゲームに付き合うことになってしまう」みたいなことを言ってるんですが、まさにその通りで、ずっとリドラーの後追いというか彼が設定した舞台の上で右往左往してるだけなんですよね、バットマン。基本的に翻弄されいいように操られる者でしかなくなっている。
 実際のところバットマンは法にのっとって言うなら犯罪者なわけですよ。ビジランテ、自警団であって法的な正当性は無いまま勝手に悪人をブン殴って懲らしめてるだけのヤベー奴なわけです。それで今回のヴィランであるリドラーも実はその側面が強い
 
 ゴッサムシティでは当たり前のようにドラッグが流通してるんですが、数年前にそのドラッグ市場を牛耳っていたマフィアのボスが逮捕されているらしい。なのにまだ薬物は流通している、というのもどうやらそのマフィアの逮捕劇は茶番……とまではいかないまでも更に上の存在は無事。しかもその背景には犯罪組織と警察、さらには司法さえもグルになっている様子。そこではゴッサムシティにおける再開発計画のために用意された金が動いているようだ、と。
 リドラーはその真相を知っていて、それらを白日の下に晒してやろうと思ってはいるんですね。ただその方法が平気で人を殺して、その捜査をバットマンにさせることで、裏側にある司法と犯罪組織の癒着をゴッサム市民に伝えてもらうとしている。
 
 だからリドラーもバットマンも「手段は犯罪だけど、導こうとしている結果は”悪”と言い切れない」という立場で(そういった面で日本版のポスター、私は結構よいと思っていて)。そこで起こった犯罪に対処するバットマンと、自ら大きな事件を起こすことで物事を進めようとするリドラーでは、リドラーの方がスケールがデカいんですよ。だからバットマンはリドラーのゲームに、作った舞台に付き合うことしかできない。
 で、この両者の近さとか似てるということにリドラーは自覚的で。そこでバットマンに対して「俺とお前でゴッサムに巣食う悪を一掃しようじゃなか」と言うわけです
 
 そこにあるのは彼らの傲慢さなんですよ。リドラーは「真相を知っている俺がお前らにそれを教えてやる。そのためにはどんな手段だって許される」と思っている。一方でバットマンも「闇に潜んでいるのではない、俺が闇なのだ」とかイキったセリフを吐きながら「ゴッサムも秩序は俺が守る、そのためには法に縛られない(闇である)ことが必要だ」みたいな立場だから、確かにリドラーからは十分協力関係が結べるように見えるわけですよね。
 
 さらにはバットマンは自分のことを「復讐者だ」という。両親がゴッサムシティに根付く”悪”に殺されたから、その復讐なのだと。リドラーも幼少期の悲惨な境遇に犯罪組織が関わっていて、それに対する復讐の面もある。
 さらにはラストのほうでリドラーが集めた人がテロを起こすんですけど……そいつらは傭兵とか軍人とかじゃなくて、ネットで寄せ集めた素人なんですよ。だからバットマンと戦ってるときも、やたらアワアワしてたりしてかなり情けない。そいつらも自分たちを「復讐者だ」というんですね
 しかもそんな素人同然の相手にバットマンは結構やられてしまう。潤沢な資金を背景にスペシャルな装備を整えて、体を鍛えて技を磨いているはずのバットマンと、銃の扱いも怪しいようなネットでルサンチマンを燃やしてるような素人が、いい勝負をしてしまう。
 ここで描かれてるのはバットマンとリドラーが同じ穴の狢であるように、情けない復讐者としてしょぼいテロリストとバットマンがどんぐりの背比べレベルだ、ということ。
 
 だからテロリストが「俺は復讐者だ」と、自分と同じこと言ってるのを聞いてバットマンは「ハッ」とした顔をするんです。俺はこんなしょうもないヤツらと同じだったのか!?みたいな感じで。それでも何とかテロリストたちを撃退して、だけどテロの影響で建物が崩壊して多くの人がその下にいる。
 
 そこでバットマンは地面に降り立ち、発炎筒をかざすんですよ。そうやって被害にあった人々を救おうとする。
 もうね、そこがむちゃくちゃに良くて!
 
 これまで「闇だぜ」とか言って姿をあらわさずにやってきたバットマンて、さっきも言ったように傲慢なんですよ。自分が裏から手を回してやれば全部うまくいくと思ってる、市井の人たちを一段高いところから見てる感じで。そこがリドラーとまったく一緒なわけ。
 それが地面に降り立って、自ら光をかざす。高いところから同じ目線に降りて、闇の中ではなく光の中にいる。そうやって人々を避難させるため、先頭に立って歩き出すわけです。このシーン絶対あの絵、なんだっけ、「民衆を導く自由の女神」だっけ?あのフランスの旗を持ったねーちゃんが人々を先導してるアレ。完全にそういう意図があるわけですよ。
 
 正義とはなにか?悪とはなにか?という問題に対して「同じ場所に立って、光で照らす」「高いところから、闇に紛れる」という答えを出した。しかもそれが『ダークナイト』であるバットマンだ、というのは正直かなり感動的でもありました。
 バットマンの情けなさからの反転を描くのには、たしかに前フリが長いほうが響くっちゃあ響くんですよね……でもやっぱなげぇよ。
 
 あと私はバットマンのヴィランだと「ペンギン」が一番好きなので、今回はあまり良い役どころでなかった彼が次回作で大活躍してくれることを願ってます。

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 次回は『おしりたんてい シリアーティ』評を予定しております。

 この話をしたツイキャスはこちらの15分ぐらいからです。


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