16 温かい涙
✴︎お母さんの世界
「月子ちゃん、今、ここでなんか視えてる?」
さっきまで私を捉えていた月子ちゃんの美しい不思議な色の瞳が、
宙の一点を見据えてる。
私が話しかけても、しばらく月子ちゃんの意識は
こことは別のところに集中しているみたいに見えた。
「あ、うん、ごめんごめん。
今さ、結ちゃんのところにやってくる魂と会話してた。」
「はぁ?ちょっとちょっと、待って。想像の域を超えてるんですけど。
月子ちゃんって何者〜?
いやいや、この信じがたい状況が嘘じゃないのは
直感的にわかってるんだけど、
どんな反応していいか、正直わかんない…」
そう言った自分の声はものすごくうわずっていて、
気づいたら号泣していた。
あ〜よかった。私のところに赤ちゃんが来てくれるんだぁ。と
いう安堵の気持ちからだろうか?
それとも、月子ちゃんのどこか人と一線を引いた態度や言動は、
今のこんな状況を何回も体験した上で、
身につけざるをえなかった術だったのに、
それを知らずにクールビューティだなんて茶化していた
自分のアホさが申し訳なくて
恥ずかしかったからか、
本当はどうして泣けてくるのかわからなかった。
けれど、とめどなくとめどなく流れる涙は
体の、心の芯から、何かをふつふつと湧き起こしてくれる
ような温かい涙だった。
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