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変電所と小さな生き物

現場力に関係する、電力の技術系・事務系の現場業務に関する経験等について記載します。



鳥の散歩


「50万ボルトの超高圧変電所が完成しました。営業運転開始から数カ月、日中毎日巡視をしていました。

50万ボルトの機器は充電部がかなり高いため、徒歩で巡視する際に肉眼ではよく見えません。双眼鏡を持参していますが、全部を双眼鏡で見ることは不可能です。

営業運転が始まってからどのくらい日数が経ったころだったのでしょうか、新しい設備なので注意深く見ていますが、細かい部分は見えません。

ある日、営業運転中の1点切りのラインスイッチ(断路器)の接触子があるブレードの上に、スズメが何羽か歩いているのに気が付きました。このような状態は、電線に留まっているスズメのようですが、すべての断路器にスズメがいるわけではなく、1台だけに集中していました。

何日か後も同じ機器にいるスズメが観察されました。私からは距離があるため、スズメたちは危害が及ぶと思っていないようで無視しています。そこで、その様子をじっと見ていると、接触子の中に入っていくスズメを複数見つけたため、何か異常があるのではないかと感じました。

上司に報告したところ、上司も双眼鏡を持って現場に行きました。
メーカーに来てもらい、調べてみると、内部に鳥の巣があることが判明しました。この問題を解決するために、同型のラインスイッチは、メーカーが改造をすることになりました。


タヌキが電線を食べた


ある日、点検作業で超高圧変電所に出かけていると、昼休憩時に所内電源*が停電しました。
*変電所の機能は正常ですが、監視室や事務室などの照明が停電したということです。
そこで変電所勤務の人と一緒に、変電所構内を巡視してみると、ある場所で非常にくさい臭いがしました。

何が原因か分からず、停電と関係があるのかどうかも分かりませんが、何かあるに違いありません。
ピットの蓋を開けていくと、そこにはタヌキの死骸がありました。

何かの作業でケーブルを切断し、テーピングした状態で、それをタヌキがかじったようです。

タヌキも気の毒ですが、低圧とは言え、充電したままの電力ケーブルがこんな中途半端な状態のまま放置されているのは、技術者が集まる変電所にふさわしくないことでした。

誰が、いつこんな状態を作り出したのかは不明ですが、そうした考えの技術者が、超高圧の変電所内で仕事をしているというところは非常に気に入りません。

教訓

ビジネス書であれば(特に海外の)、「この2つの事例から学べることは何だろうか」などと、教訓を得て、次に生かすためにはどうすべきかという問いかけから、著者の考えが展開されるところです。
ここでは、事例から感じるところは、お読みの方にお任せします。

私から少し補足をすると、最初の話は、50万ボルトという大型の機器での設計不備でしたので、メーカーはもちろんですが、全社内でも、同型機器はもちろん、同様の問題は無いかをしらべることになりました。
事故が起きてからでは、大変だからです。

一方のタヌキの話は、故障は生じたものの、あくまで変電所内部の故障ですので、供給する電力設備や、他の変電所に影響があったわけではありません。従って、その場にいた者だけに印象に残っていて、特に大きな問題として取り扱われたわけではありませんでした。

こうしてせっかくの事例が再発防止が必要として、周知徹底されることもなく、消えてしまったのだと思います。
このように現場の経験や出来事が継承されないことの積み重ねが、「現場力」の欠如につながると感じます。


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