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昭和と令和の「夜に駆ける」を聴き比べ

♪冬がはじまるよ~ホラ また 僕の側で~すごくうれしそうにビールを飲む横顔がいいね~寒くなると歌いたくなる冬ソングでビールをグイっと。マッキーからのオーキです!

ビールといえば、ライブハウスで汗だくになった後に飲むビールのおいしさを知って20年あまり…終始エンドレス・ビールをアラフォーまで飲み過ごしやってまいりました。それなのに、四十路を過ぎたら鼻が敏感になってしまったのかビールをジョッキ3杯も飲んだらもう、くしゃみと鼻水が止まらない。ものすごく残念な鼻を持つアラフォーになってしまいました。非っ常にキビシー!財津和夫のギャグが鼻の奥で轟いでます。

今思うのは、ビールの他にハイボールも飲んだらよかった…なんて後悔ではありません!お祝いの席のスピーチに出てくる有名な人生の3つの坂の話です。上り坂、下り坂、まさか!なんですよ奥様ー。アラフォーの坂は、まさか!の連続なのだと思い知る年末です。

そんなわけで今月も「歌謡曲に魅せられて」2021年もあと少しとなりましたが、風の吹くまま気の向くまま、おもに歌謡曲のことについて雑談していきたいと思います。

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■「冬がはじまるよ」の想い出

♪冬がはじまるよ(1992/ 槇原敬之)

毎年寒くなると必ず、この曲を歌いたくなります。記憶のフィルムを逆回転させて中学1年生まで戻ると、黒板の前に立った船津君と教室のどよめきが浮かび上がってきます。

私が通っていた中学は当時髪型にも校則があって男子は野球部じゃなくても全員坊主の1択。女子は前髪がオンザ・眉毛(前髪がまゆげにかかってはいけないというもの)な上に制服の襟に後ろ髪がついてはいけないという条件で、ほぼショートボブかモンチッチしか選べなくなっており、髪型もほぼ同じで制服を着たらさほど違いもわからないそんな姿をさせられていました。

外側からのアイデンティティーを抑圧されていた田舎の学校生活は、人と違う個性は「恥ずかしいもの」だったり、出過ぎてしまうと「腫れもの」になってしまう空気をはらんでいました。周りの目が気になり始めてくる思春期の相乗効果もあり、運動や勉強以外で目立つことはかなり勇気のいる行為だと、その当時は敏感すぎるぐらい感じてました。

そんな中、学級会の延長でクリスマス会のようなものを教室でやることになったのですが、出し物タイムがあったんです。

クラスの大半が、数人でグループを組んで発表する中で、ひとりで出し物をやってのけ爪痕をクリスマス会に残した同級生がいました。それが槇原敬之さんの「冬が始まるよ」を聴くと思い出してしまう、同級生の船津君です。

クラスの中でもいかにも前に出て何かやりそうな雰囲気も見せず、外見も目を引くようなタイプでもない。40人近くいるクラスメイトの一人だった船津君が「自分の好きな歌を歌います」と黒板の前に立ち、その姿に色めく同級生たちの中で槇原敬之さんの「冬がはじまるよ」をアカペラで歌い始めたんです。

まずアカペラというとこで思春期の中学生たちは度肝を抜かれましたね。教室のざわつきも気になる中で坊主姿で耳まで赤くなって、自分がイイと思う歌を堂々と歌いきる姿にまっすぐすぎる歌声は、ブルーハーツを初めて聴いた時のようなカッコよさがありました。窮屈だった教室の空気を一変したその歌声に勇気をもらったのは、未だに忘れられません。

パンクバンドでもなくプロの歌手でもない、ただの中学生の船津君の初期衝動の歌声とマッキーのメロディーセンスによって今も寒くなると必ず思いだす思い出のスイッチが入る曲です。

♪~
冬がはじまるよ ホラまた僕の側で
すごくうれしそうに ビールを飲む横顔がいいね
たくさんの君を 知ってるつもりだけど
これからも僕を 油断させないで!

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■歌詞の余白が想像させる「帰れない二人」

もし好きな歌謡曲をいくつかあげるとしたら、まずこの曲をあげるかもしれないほど、ずっと聴けてしまう井上陽水さんと、当時はまだ無名に近かった忌野清志郎さんによる美しい曲です。深夜のラジオから流れてきたとき、メロディーと多くを語らない余白のある歌詞の美しさに、その場から離れがたく聴き入ってしまったのを覚えてます。

♪帰れない二人(井上陽水(&忌野清志郎)/1973)

夜空から降ってくるような、♪Ah~Ah~Ah~Ah~Ah~~~陽水さんの歌声のシャワーを浴びる美しいメロディーから、緩急のあるドラマティックなサビに入っていくところがたまりません。間奏のギターからピアノの音色が立つところなんて、幸せホルモンのセロトニンが脳内に放出されること間違いありません。


陽水さんのインタビューを読むと、初めて他のアーティストと共作した曲になるのだそうです。当時住んでいたアパートに清志郎さんがやって来て、陽水さんの話だと1行ずつ(1番ずつ)歌詞を書き、陽水さんがつくったカレーを食べつつ、2時間ほどで曲が完成したそうです。

2人で書き上げた歌詞のせいか、「情景の描写」がメインになって曲の世界観をつくり、1曲を通して人物の心情を多く語らない、余白がある歌詞じゃないかと思います。

その余白があることで、リスナーも歌詞から得た情景を頭に浮かべやすくなり、物語の続きを自由に妄想しやすい…。(さらに妄想の中で)二次創作を楽しめる曲だということに気づきましたー!

恐れ多いですが陽水さんと清志郎さんの共作に、さらにリスナーが妄想で乗っかって歌の続きに参加出来てしまう。歌詞をクローズアップして見ると…リスナーの思い出(妄想)スイッチが入るフレーズがちゃんとありましたよー。初めて聴いたときに、素敵すぎて悶絶したキラーフレーズはここです!


「僕は君を」と言いかけた時 街の灯りが消えました
 もう星は帰ろうとしてる 帰れない二人を残して

(帰れない二人/井上陽水&忌野清志郎)

「もう星は帰ろうとしてる」この短いワンフレーズだけで、夜通しずいぶん話したはずなのにまだ話し足りないような気がする。二人でいる時間がなごり惜しくて、どちらからとも言えずに帰れない二人の姿が、リスナーに情景を浮かび上がらせ、記憶の思い出スイッチを発動させます。

歌詞には出てこない、タイムリミットのように空が白みはじめていく様子まで、歌詞の余白が想像をさせてくれます。歌詞の情景が目に浮かんでくるような曲の世界観の秘密に、1行ずつ(1番ずつ)書いた共作の効果が隠れていたのを知ってさらにこの曲が好きになりました。

YouTubeでは陽水さんと清志郎さん二人が歌う最高な「帰れない二人」を聴けます。
ぜひそちらも気になる方は探して聴いてみてください。

■物語を歌う「夜に駆ける」

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最後は、令和版の「帰れない二人」として、YOASOBIのストリーミング累計7億回数突破という記録的なヒットソングとなった曲を紹介したいと思います。

ちなみに「帰れない二人」が入った井上陽水さんのアルバム「氷の世界」も、まだCDがなかった時代に日本人初のミリオンセラー・アルバムとなりヒットの記録を打ち立てています。

しかもどちらもCDではないヒットという、音楽メディアの変遷も感じるところも興味深いです。

令和と昭和のヒットソングとなった2曲の共通点といえば「夜」に「君」と2人で過ごすシュチュエーションが同じなところも興味深いのですが、YOASOBIの「夜に駆ける」の方は主人公の「心もよう」がメインになっています。

「帰れない二人」の余白ある歌詞に対して、こちらはその余白をすべて言葉で埋め尽くす、リズミカルに言葉を連打してくるような歌詞です。あえて太鼓の達人でいうなら歌詞の畳みかけぐあいは「フルコンボだドン」状態といっていいでしょう。

曲を聴いていると次から次にハマっていく言葉と、疾走感あるメロディーのアップダウンを聴いているうちに物語の中へ放り込まれてしまう感覚になっていきます。

♪「夜に駆ける」(YOASOBI/2020)

YOASOBIは「小説」を音楽にするというコンセプトで結成されたユニットなんだそうで、物語を曲に再構築してつくるというありそうでなかった新しいアプローチで曲がつくられています。原作小説がある曲は、一度耳にしたら中毒性のあるポップな曲調で、死の影を思わせるダークな歌詞世界もテンポの良い言葉を並べていくことによって、打ち消されていくように感じます。目まぐるしく展開していく曲と歌詞に耳がクラクラしそうです。

とくに「チックタック」と入ってくるフレーズは、メロディーそのままの響きに近く、そのあとに続く畳みかけるような歌詞も文字でみると、テトリスのようなハマり具合で驚かされます。


いつだってチックタックと鳴る世界で何度だってさ
触れる心ない言葉うるさい声に
涙零れそうでも
ありきたりな喜びきっと二人なら見つけられる…

(~省略~)

信じてたいけど信じれないこと
そんなのどうしたってきっと
これからだっていくつもあって
そのたんび怒って泣いていくの…

(夜に駆ける/ YOASOBI)

後半部分の畳みかけ方は、メロディーに対して隙を与えないほどの
流れるような言葉の言い回しに、カラオケだったらテロップの速さに動体視力が試されるはずです。

YOASOBIの曲は音を聴くだけでなく、口に出して言ってみたい歌詞もまた魅力だと改めて思いました。

今回は夜を舞台にした、世代が違う2曲に注目してみました。
多くを語らない余白だらけの「帰れない二人」と、物語があって言葉をリズムに変えて読むような「夜に駆ける」。並べて聴き比べてみると、思ってもみなかった発見もあって、他にも新旧の聴き比べを探してみたくなりました。

また来年もおすすめの歌謡曲を更新していきたいと思います。では良いお年を!

by オーキ

12/1に2nd EP「THE BOOK 2」をリリースするYOASOBI。スペースシャワーTVでは新作のリリースを記念し、12月のイチオシアーティストV.I.P.としてYOASOBIを大特集。マキシマム ザ ホルモンのダイスケはん、ナヲがVJを務めるスペースシャワーTVのレギュラー番組『モンスターロック』をジャックします。




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