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ビジョン・ミッションが必要になるとき(1/2) Challenger’s IDEA

本連載 “Challenger’s IDEA” は、各業界でチャレンジされている方をゲストとしてお迎えし、今後のブランドの在り方をディスカッションしながら、「チャレンジを続ける人たちの思想をシェアするスペース」です。

今回は相手の本当の言葉を引き出すプロ、加来幸樹さん(株式会社サインコサイン代表)と、「ビジョン・ミッション」についてディスカッションをしていきました。

加来 幸樹:サインコサイン 代表取締役CEO (以下:加来📘)
重松 大輔:スペースマーケット 代表取締役CEO (以下:重松🏉)
長谷部 祐樹:スペースマーケット ビジネス開発担当 (以下:長谷部🎾)

■ビジョン・ミッションの前にやるべきこと

長谷部🎾:加来さん、まず自己紹介をお願いできますか?

加来📘:「自分の言葉で語るとき人はいい声で話す」という理念を掲げて、サインコサインという会社を経営しています。

「覚悟の象徴となる言葉」と呼んでいたりしますが、ネーミングや企業・個人の理念・タグラインなど、ビジネスを行っていく上で、またはその人生を経営していく上で必要になる言葉や、そこに関連したビジュアルなども含めて、一方的につくるんじゃなくてご本人を巻き込みながら、一緒に覚悟をつくるお手伝いをすることで、対価いただきながら面白おかしく生きております。

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長谷部🎾:ありがとうございます。共創しながら面白おかしく生きてるんですね(笑)。

では、まず重松さんにお聞きしたいのは、サービスや事業を始めるにあたって、いろんなビジネスモデルを考えたと思います。

事業を始めるにあたってビジョンやミッションといったものをどう考えたのか、意識していたことはありますか?

重松🏉:まず、そもそもゼロイチで立ち上げるときって、実はビジョン、ミッションってあまり大事じゃないんですよ。

これはよく言われることなんですけど、何も成し遂げてないスタートアップが、まずビジョン・ミッションからすごく考えてる会社もあるんですけど、僕はそこじゃないと思ってて。

まずは、ビジネスモデル。最初のビジネスモデルをちゃんと考えて、それがちゃんとワークしないことには、ビジョン・ミッションも順番が違うという話ですね。

長谷部🎾:なるほど、順番が大切。

重松🏉:そう。しっかりリサーチをして、フィジビリして、世に出してみて反応が良ければ「これはいけるかも!」という話になる。

そのタイミングで初めてビジョン、ミッションというのが必要になってくると思ってます。

ちなみにスペースマーケットもビジョン・ミッションをつくったのは、2014年の4月にサービスを開始してから4か月後の8月です。全社員の合宿で、当時のメンバー6~7人みんなで考えました。

僕はそういったタイミングでいいと思ってます。
もちろん何となく描く想いはあっていいと思いますが。

ただ、僕の場合、いろんなビジネスを100個ぐらい考えて、このビジネスでいこうと思ったキッカケは、このビジネスは遊休スペースの活用っていう社会課題解決と、あとは地方を元気にできるとか、あとは個人が何かチャレンジするときに、すごく有益なプラットフォームになるなっていう、その直感みたいなのがありました。

ある程度、イメージはあったけど、ビジョン・ミッションみたいな形にきれいに言語化はしてはなかったですね。

長谷部🎾:そうだったんですね。それは僕も知らなかったです。

重松🏉:ちなみに成功している会社は、そういう会社のほうがむしろ多いと思います。

長谷部🎾:加来さんはセプテーニグループでクリエイティブのお仕事をされながら、個人活動でタイムチケットで「一般の人の個人理念を考える」というのを始めて、それがすごく人気が出て「もしかしたらいけるのかもしれない」といった気付きがあったという話を伺ったことがあるんですが、その辺とも近かったりしますか。

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重松🏉:そうそう。まずは動いてみて、フィジビリして。本当にニーズがないことに壮大な理念を掲げてやってもうまくはいかないはずで。

だから加来さんは、素晴らしい立ち上げ方をされましたよね。

これが特にシェアリングエコノミーの時代は、タイムチケットもそうだし、ココナラも、ビザスクも、スペースマーケットもそうだし、まずあるもので少しずつチャレンジが簡単にできる。

簡単に場数を踏めるというのは、すごくいい時代だなと思ってます。会社やサービスというのは、ある程度テストマーケティングやフィジビリをした上でつくるものだと思うので。

長谷部🎾:先にビジョンの言語化じゃなくて、まずはいろいろと試しながら、その後にビジョン・ミッションが付いてくるという話について、日頃いろんな企業のビジョンの共創をされてる中で、加来さんどう思いますか?

加来📘:すごい、分かるなと思います。

関連する話でいうと、これは人の理念の場合も企業の理念の場合も、「ちゃんとつくれるな」っていう場合と、そうじゃない場合で何が違うかでいうと「行動したことがない人とか会社」の場合は、本人の中で覚悟が全然決まらないんです。

「こっちに行くんですよね?」というところに対して、「いや。でも、まだやったことないんで分かんないですけど…」みたいなことになって。

悪い意味で、抽象的でふわっとした理念にしか着地できないっていうことがあります。

そういう意味でも僕が最近思うのは、理念を掲げる絶対必要条件というのは、まさにそこは自分の直感だったり、理由もない衝動だったり、何かピンときた確信とか、そういうものだったりすると思うんです。

それによって行動して、まさに反応として「これいけるなって思う」みたいな話がありましたけど、自分で選んだ行動に対してのフィードバックを、ポジティブでもネガティブでも良いんですが、一つでも多く得ているほうが、強いビジョン・ミッションをつくれるというのは、お手伝いをしている側からしても思うので、とても共感する話ですね。

だからこそ、ずっと続けてく中で、その行動やフィードバックが積み重なっていくと、「より具体的につくり直したい」とか「違う方向に変えたい」というタイミングが出てきたりはするんだと。

■ビジョン・ミッションがもたらすこと

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長谷部🎾:ビジョン・ミッションのアップデートということですね。重松さんも2014年の8月にビジョン、ミッションをつくった後、1度アップデートしたタイミングってありましたよね。

重松🏉:そうですね。ビジョンやミッションは定期的に見直していくものだと思うし、事業のステージとか人が増えてくることでも変わると思います。

例えば、創業者が離れてしまったり、事業が成長してメンバーが増えていく上で、もう一度見直さなきゃいけないタイミングが来るとかね。

長谷部🎾:加来さんはアップデートのタイミングのお手伝いもされてますよね?それはどういうタイミングでの相談が多いですか?

加来📘:分かりやすく一番多いのは、ざっくり15人ぐらいに社員がなってきましたっていうタイミングですね。

今まで立ち上げメンバーの間では、言語化するまでもなく共有できていた信念みたいなものが、何となく僕の統計だと15人前後くらいなってくると、言葉として掲げないといろんな意思決定が難しくなってくる。

重松🏉:うんうん、わかる。

加来📘:あとは採用をさらに進めていくときに「どういう人を採っていけばいいんだっけ?」といったところが、少し難しくなってくるので、その2つのパターンが一番多いなと思いますね。

長谷部🎾:人数や会社の規模が進むタイミングで、そこに合わせてフィットするものを作ったり、それをより浸透させるために言語化していくみたいなところなんですかね。

加来📘:そうですね。

長谷部🎾:重松さんの中で「ビジョン・ミッションがあったことによって良かったな」と実際に思う時はどんな時ですか。

重松🏉:やっぱり、採用のところは誰もが同じ言葉を話すわけじゃないので、あると軸ができますよね。

それがあることで候補者にも信頼感じゃないですけど、「この会社はこういう想いでやっているんだな」という部分に共感してもらうことができる。

企業、会社、従業員の束ね方っていろんな束ね方があるんですよ。

例えば、給与で束ねる会社もあるし、めちゃくちゃ豪華なオフィスとか、福利厚生とか「こんなカッコいいオフィスで働けます」とか。それはそれで一つのやり方だと思います。

ある意味で、一番難易度が高くて、ただブレないというか、離れにくいのはビジョン・ミッションで束ねるということ。

あとは事業の魅力もひも付いてないといけないですね。どんなにきれいなことを言っててもよく分からない、人を不幸にするようなビジネスをやっている会社とかもあるから、そこはセットだと思うんです。

そこはやっぱり、「ビジョン・ミッション+事業の魅力」で束ねるのが、結果的にいい人が集まってくれるし、定着もしてくれるので、採用コストも抑えられる。

なので、採用のところはすごく助けられたし、迷っても戻るところがあるから、社員とかミドルマネジメントが迷っても、結果的にビジョン・ミッション・バリューでこう言っているからそっちに立ち返ろうとなる。宗教でいう経典にも近いですね。

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加来📘:そう思います。もちろん離脱を防ぐのもそうですし、極端に言うと辞めるべき人に辞めてもらって、入るべき人に入ってもらう。

長谷部🎾:カルチャーフィットしないミスマッチを防ぐことにもなりますね。

加来📘:そうですね。お互いにとって「採らないほうがよかった人を採らないため」だと思う。

それは結果的に、離職率にもはね返ってくるとは思います。重松さんにおっしゃっていただいたことは全面的に同意だなと思いました。

さらに最近感じる効果なんですけれど、経典としてみんなが同じ方向を向く役割とか、近しい目的に向かっている人同士が集まるためのものであるとともに、一方でどこまでいっても、人も会社も全員全く同一ではないし、価値観は違うっていうのも根本にはあります。

割と僕の思想としては、「どこまでいっても人は違う」っていうのがあるんです。

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そのことをどこかで意識し続けないと「何でこの人、自分と考えが違うんだろう」とか「自分はこっちが正しいと思うのに、この人は反対のことを言っている」といったことで変に反発し合うみたいなことは、今は国単位で見ても起こると思うんです。

ビジョン・ミッションは同じ方向を向くための経典であるとともに、みんながお互いに向き合う問い掛けみたいなものでもあると思うんですよね。

「このミッションの解釈って私はこうだと思うんだよね」、「僕はこうだと思う」といったように、それぞれの解釈を持つことによって、人それぞれに考え方があるんだっていうのを再認識するためのものでもあると思ってますね。

長谷部🎾:なるほど。全員が全員、同じ解釈ではないことが逆に大事ってことですね。

加来📘:そうですね。僕が思う「良いビジョン・ミッションとは?」って結構難しい定義で。

■良いビジョン・ミッションとは?

当然、ちゃんと深い覚悟が言語化されているというのがありつつ、いい意味で考える余地のある問いになっている方がいいっていうのは、いえるんじゃないかなって思う。

長谷部🎾:考える余地があるビジョン、ミッションがあることでお互いを理解することに繋がる。

加来📘:そうですね。

重松🏉:確かにそういう要素は大切ですね。

長谷部🎾:スペースマーケットにもビジョンとミッションがあるんですけど、加来さんがこれを見て気になることとか、聞いてみたいこととかありますか?

加来📘:ここで挙げるとすごくプロモーショナルに寄せすぎるのかなと思ったんですけど、スペースマーケットさんのビジョン・ミッションは、すごくいい意味でいろんな解釈のしがいがある問いになっているなというのは本当に思ってました。

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重松🏉:ありがとうございます(笑)。

長谷部🎾:あ、この展開だと、うちのビジョン・ミッションを褒めてくれ!ってバイアスが掛かった質問になっちゃいましたね(笑)。

加来📘:いえいえ、本当に思ってて。

ビジョンのチャレンジという部分は「どういう人のどれぐらいの大きさのチャレンジなの?」みたいなところで、その人ごとの想いがすごく入ってきて、様々な捉え方があると思うので、そこをいい意味で決めすぎないっていうのは、すごくいいなと思います。

何と捉えるかっていうのは、違うんだろうなっていう。多分、ここの3人の間だけでも被るところ、かぶらないところがある言葉なんだろうなと思いました。

ミッションにある「スペース」っていう言葉も、とても象徴的だと思いました。

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長谷部🎾:働いている身からすると、ミッションの中に「世界中の」という言葉があることで、「世の中に新しいあたりまえをつくるんだ」って解釈をしている人が多い気がします。

それってすごい遠いところに目標あるんだけど、それがやりがいだったりするんですよね。

まだまだできることがあるって。「まだまだ、まだまだ」って重松さんよく言うじゃないですか。そこに魅力があると感じてる社員は多いと思う。

重松🏉:すぐに達成できたら、あれ終わっちゃったみたいになっちゃうんで、やっぱり壮大なほうがいいよね。

■自分の言葉で語るとき、人はいい声で話す。

長谷部🎾:加来さんが、いろんな会社のビジョン・ミッションのお手伝いをする際に大切にしていることはありますか。

加来📘:当然、その人の自分の言葉にするとか、本当に思っていることまでちゃんと探るっていうのは当たり前にあります。

意識しているのは、すごく感覚的な話になるので、うまく伝わるか不安なところはありますけど、それって当たり前すぎるよね?っていうことで止めないようにしています。

その人らしさとか、「本当にそう思ってるの?」みたいなのを感じる状態っていうのがあって、すごくスピリチュアルな話ですけど、ここまで沢山やってくると、本当にその人がいい声でしゃべっているかどうか分かるといえば分かります。

長谷部🎾:すごいですね。

重松🏉:すごい、いい声がわかるんですね。

加来📘:分かるときがあります。いい声じゃないなっていう場合は、何かすごく普遍的なことを言っているなとか、格好付けている建前な感じがします。

あとは、解釈がブレ過ぎてしまうような言葉にならないようにも気をつけてます。

あえて思考の余地を残すという意味で、「豊かに」とか「美しく」といった言葉を使うのも当然ありだなと思いつつも、「あなたにとっての美しさってなんですか?」と聞いた時に、100人いたら100人違うことを考えちゃうような言葉に着地させても・・・というところがあるので。

「じゃあ、それをあなたにとってはどういうものか言い換えられないですか」っていうのは、よく使う質問だったりします。

「美しく」とか「豊かに」という言葉を使うと、文章としては魅力的に出来上がってるねって見えてしまうことがよくあるんですけど、そこではなくて、いい声になるまで具体的に聞いていくというのは大切にしてますね。

重松🏉:へぇ〜、おもしろい!いい声になるまでね。

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サインコサインHPより

長谷部🎾:解釈の余白があることは良さでもあるけど、それがぼんやりしすぎてしまうと、伝わらなかったり、何のことなんだっけ?みたいなところが出てきてしまうということですね。

加来📘:そう。これは確信してあえてその言葉を使っているのか、あるいは思考したり決断することから逃げて、その言葉に落ち着けようとしているのかを、ちゃんと聞き分けるのが大切で。

長谷部🎾:そういった意味では、加来さんみたいな存在がいたほうが、壁打ちができるのでいいかもしれないですね。「それ本気で言ってますか?」みたいなことを問い正してくれるということですよね。

重松🏉:いいですね、壁打ち相手がいるとすごいありがたい。意外とそういう存在って、なかなか社内には見つけにくいので。

せっかくつくっても伝わりにくい言葉だったり、あら削りすぎる言葉だともったいないので、コミュニケーションのプロにアドバイスしてもらうっていうのはすごくありだなと思ってますし、結構やってもらっている会社はあると思います。

後編:ビジョン・ミッションが必要になるとき(2/2)に続く