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【私のアウトドア履歴書♯3】冨田 憲二さん(株式会社ラントリップ 取締役)

スペースキーの小野です。今回の「私のアウトドア履歴書」は、ランナー向けSNSアプリなどランニングに関するサービスを提供する株式会社ラントリップの冨田 憲二さんにお話を聞きました。スペースキーとしてはランニングはおそらく、最もハードルが低いアウトドアレジャーのひとつだと考えています。事業としてのランニング、冨田さんにとってのランニングとは。


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冨田 憲二 氏  株式会社ラントリップ 取締役

USEN、VOYAGE GROUPを経てジェネシックスを創業。スマートフォンアプリのプロデュース・開発に携わる。モバイル、スマートフォン領域のマーケティング/グロース経験を活かして、創業期のスマートニュースに8人目の正社員として入社。グロースハック、TVCMやデジタルマーケティング、広告事業立ち上げとセールスマネージャーを経て最後は人事責任者も担当。現在はラントリップにて、「もっと自由に、楽しく走れる世界」を創るべく奮闘中。


走った後のビールの美味しさがあるから、走る


-本日はお時間いただき、ありがとうございます!

よろしくお願いいたします。御社もラン領域を始められましたよね。興味深く拝見しています。

-(汗!)気にかけていただいて恐縮です。まだスタートしたばかりで、『Runtrip』を参考にさせてもらっています。

早速ですが、冨田さんはランニングのイメージしかないのですが、子どもの頃から走ることが好きだったのですか?

いえいえ、そんなことはなくて。子どもの頃は、周りにいる子たちと同じように、外で遊びまわっているような子どもでした。木登りをしたり、基地を作ったり。その基地に友達と行くのが日課で、それが一番楽しかったなぁ。

-では、いつ頃からランニングと出会っていったのでしょうか?

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元々、球技などは不得意で、運動神経もそんなに良くなかったと思います。走ることも嫌いではないものの、他にもっと速く走る子もいたので、徐々に好きではなくなっていっていました。ただ、プロレスが好きだったので、高校時代は柔道部に所属(こんなに細いのに)。ひょろひょろだからバンバン投げられて、少しでも足腰を鍛えなくてはと思い始めたのがランニングでした。それが最初の出会いですね。

-(……スペースキーのマラソン部部長も、球技は苦手だったような。)足腰を鍛えるための手段だったんですね!ではそこからずっと?

決定的にハマったのは社会人になってからです。当時の上司が運動好きで、その方にいろいろなアクティビティに連れ出されましたね。その一環で皇居ランもやりました。当時はランナーズステーション(通称ランステ)もなかったので、走った後は銭湯で汗を流して居酒屋へ。その一連の体験がすごく楽しかった!走ることで、食事もビールも劇的に美味しくなる。そのおかげで、ランニングの習慣が定着しましたね。

-その楽しさは登山とも似ていますね。登山も、山頂で食べるご飯のために登るという楽しみがあります。

わかります、それ。居酒屋で乾杯するにも、走った後のほうがずっと美味しいし楽しい。山頂で食べるカップラーメンがやたら美味しいのも同じですよね。
ランニングのハッシュタグで「#走ったらゼロカロリー」というのがあるんですが、まさにあの概念。実際のカロリーがどうかは関係なく、走ることで食べることが楽しくなる。あの概念はいいなと思います。

-走ることとその前後の体験の楽しさが、ランニングの一番の魅力ということでしょうか。

そうですね、そこが一番かなと思います。とはいえ、僕もランニングを始めた当初は、タイムを追っていた時期がありました。始めた当時の2007年頃はまだSNSもそれほど普及しておらず、タイムをSNSに上げたりする人は少なかったように思います。僕はInstagramがリリースされてからずっと、タイムをインスタにアップしているのですが、ランとSNSって相性がいいと思います。

ハッシュタグ1つで世界中のランナーとつながれるし、タイムを見せあったり応援し合ったりできる。当時は4分台/kmで走って「すごい!」「速い!」と言われることが嬉しかった。そんな時期もありましたね(笑)。

-そこから、タイムではなくて走るというコトにシフトしていった。

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ランニングの目標で「サブ3」とか「サブ3.5」などがあります(サブ3はフルマラソンで3時間以内でのゴールを目指すこと)。タイムを目標にしているとどうしてもここを目指すことになるのですが、「サブ3」を達成するには仕事や家族に支障をきたすレベルと言われています。僕はそこまでして走るのは止めようと思って、サブ3.5を達成した時点で満足してしまいました。

そこからは、トレイルランニング(以後、トレラン)をするようになりました。山を走ることがこんなに楽しいなんて、驚きでしたね!タイム中心だったランニングから、自然を楽しみながら走る。山を走るようになってから、世界が変わりましたね。

-具体的にどのような変化があったのですか?

トレランって、走ることよりも山の中にいることのほうが、意識の割合としては大きいのかなと思います。山を走っていると当然、道は不安定だし、虫が飛んできたりする。普段の生活では虫は異物ですが、トレランでは僕たちのほうが異物なんですよね。そう考えたら、自然と山を楽しみながら、自然を大事にしながら走るようになりました。

劇的に楽しみ方が変わりましたね。走る頻度は減りましたが、今のほうがランニングを楽しめているように感じます。

-走る楽しみが成熟していますね。

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ラントリップの話になってしまうのですが、代表の大森が言う“ランニングはもっと自由でいい”という考えに通じるんです。ランニングこそ、様々なアクティビティがある中で最も自由な存在だと。毎月200km走る人もいれば、週に1kmしか走らない人もいる。フリースタイルの、それぞれの楽しさがある。だからこそ、ライフスタイルやその時の気分に合わせて、成熟した楽しみ方ができるのではないかなと。

-うんうん。

事前の準備も最低限で、シューズと「走ろう」という気持ちさえあれば始められる。そのハードルの低さは、ランニングにしかないのではないでしょうか。

もったいないと思うのは、日本の文化では「ランニング=つらいもの」という認識があること。持久走などでつらいイメージがついてしまっているので、なかなか始められない人もいます。そういった意味で、新しいランニング文化をつくっていけたらと思っています。

-始めるためのハードルが低いのは強いですよね!冨田さんも知り合いに勧めたりするのですか?

いえ、僕は自分からはランニングをおすすめしないですね。無理に始めるものでもないし、人それぞれの楽しみ方ができるのがランニングの魅力なので、その人が「走りたい」と思うタイミングや環境でスタートするのがいいのだと思います。

-私たちが取り組んでいる「キャンプ」はある程度の道具を揃える必要があるので、ハードルが上がりがちなんですよね……。

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そこも気持ち次第ではないですか?ランニングもキャンプも、自由に楽しくやればいいのではと思います。僕の家の前にある河川敷では、たまに段ボールを敷いてカセットコンロでBBQしたりしている人がいます。それを見ると、すごくカジュアルでいいなと!外に出て、心も身体も健やかになったら、意識的なものももっと自由になるではないでしょうか。

-たしかに。その人が幸せならそれでいいですからね。

僕は、すべての物事において「専門家になりたくない」という意識があるんです。専門家になってしまうと、その考えを周りに押し付けてしまう。もっと自由にという概念ではなくなってしまうので、それはしたくないですね。「こうすべき」という固定概念で接するのではなく、自由を認めていきたい。どストイックも初心者も、全部ひっくるめて「それいいじゃん!」となる世界がいいですね。


ギア選びの基準も自由 専門性がなくていい


-お気に入りのギアについて聞かせてください。

ランニングのギアって難しいなぁ。気に入っているというよりも、普段から常に走れるように、服やシューズは選んでいます。今日履いているパンツも、すごく動きやすいんですよ。

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(lululemonのIntent Pant。動きやすくてランニングにもおすすめ。)

子どもが産まれてから、走る時間がなかなか取れないので、スキマ時間でも走れるように工夫しています。家から駅までとか、駅から会社までとか。1kmくらいの距離ですが、そのくらいでも走ると心が満たされるんです。

ランニングからは逸れますが、ギアでいえばiPhoneも好きですね。

-iPhoneはどのような使い方をするんですか?

カメラですね。写真が好きなので、直感でいろいろ撮ります。インスタにアップする写真とか、子どもの写真とか、気軽にキレイに撮れるのが気に入っています。

-今のiPhoneのカメラ、性能いいですよね!

そう、すごいですよね!本当、これで十分。写真もそうなんですが、いろいろなことを少しずつかじるのが楽しいんです。専門性があるわけではないですが。

-先ほどの「専門家」の概念ともつながりますか?

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そう。専門家になる手前で飽きちゃうんですが(笑)。

それで思うのが、専門家って経験が豊富だから周りに意見をしたがりますが、実はその経験って全く同じじゃないということ。似たような経験でも、前提条件が違えば導き出される答えも変わってくるはず。専門家になりたくないのは、そのような考えがあるからです。過去の成功体験を引っ張り出してくるのではなくて、目の前の状況に常に向き合って対応していけばいいのではないかな。

-たしかに。30を過ぎると、結論を先に言いがちになります……。

ランニングの経験はたくさんありますが、先日、子どもと走って遊んだときに足をくじいたんです。ランニングは直線的で一定な動きですが、子どもって横移動もあれば動きも不規則。だから、同じ「走る」でも全然違う。

-成功体験を過信しすぎず、地道にコトと向き合うことが大事なんですね。

ランニングを始める人って、運動で成功体験がない人が始めることが多いように思います。実際に僕もそうでしたし。ランニングの良い点は、やればやっただけ結果が出ること。運動で結果を出せなかった人が頑張って結果を出せたら好きになるのはすごく共感できます。

また、ランニングは自分と向き合うことができるアクティビティ。苦しくなればなるほど、弱い自分と向き合わなくてはいけない。そこに打ち勝って進んでいけたとき、もっとランニングが好きになるのではないかなと思います。


ランニングは”気”をポジティブにしてくれる


-次は、冨田さんとランニングの関係性について。ランニングを仕事にしている冨田さんにとって、ランニングはどのような影響を与えていますか?

ポジティブな影響しかないですね。周りのランナーもポジティブでいい人たちばかりだし、走るとそういうモチベーションになるのではないでしょうか。

僕も過去に仕事できつかったとき、ランニングがあったことで乗り切れました。「やばい、しんどい」と思っても、走ったら気持ちがポジティブになって、ダークサイドに落ちるのを助けてくれた。やっぱり、前に進んでいるという結果がそうさせるんですかね。

-私生活での影響はどうでしょうか。

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「飯がうまい!」に尽きますね(笑)。一日三食のご飯がとにかく美味しい。今が人生で一番食べているかもしれないですね。走っていると、罪悪感なく食べられるんです。ご飯が美味しいって、ほんと健康的ですよね。

-それが一番ですね!

あと、自分の中の”気”をより大事にするようになりました。元気の出るものを食べるようにしたり、気分が上がるような行動をするように心がけたり。そのために少し遠回りして歩いたりすると、走った時のような満足感があるんですよね。

-冨田さんの気分が上がる場所 ってどこですか?

僕の家の近所の鶴見川沿いとかですね。あと、渋谷も好きですよ。いろいろなアップデートがあるので、歩くだけで五感から情報が得られるのがいいですね。

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(鶴見川沿いの風景です。)

-ランニングってマインドセット的な要素も大きいと思うのですが、”気”を大事にするのもランニングが寄与していますか?

それはあると思います。ランニングをすることで、自分の思考や気分をリセットし、心を研ぎ澄ますことができる。特に感じるのが本屋での本選びで、心を研ぎ澄ますと今必要な本が目に留まるんです。そういった本選びができるようになったのは、ランニングが大きく寄与していると思います。


心と身体と向き合えるような社会をつくりたい


-アウトドア業界に期待することはありますか?

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ここは所属しているラントリップの理念と重なってしまいますが……。ラントリップ代表の大森は箱根駅伝出場経験を持つランナーなのですが、走ることが大嫌いになり、一時走ることから遠ざかります。久しぶりに市民ランナーと触れ合った時にタイムや順位に縛られない楽しみ方に衝撃を受け、その自由なランニングを広めたいとラントリップを設立しました。

僕も大森と一緒で、ランニングにはあらゆる可能性を秘めていると思っています。ダイエットや美容、健康など、あらゆる課題に対する解決策としてランニングが寄与する。ところが、残念なことにランニングを辞めてしまう人がものすごく多いのも事実。ランニングをはじめてから半年で7割は辞めてしまっているというデータもあります。

ランニングのリテンションは、もっと改善できると思っています。狭義だけでなく、広義でランニングを楽しむ。それに取り組む会社はまだまだ少ないのではないでしょうか。マーケットの素晴らしさを維持しながら、10年、20年後、ランニングがもっと広まれば、世界はもっとハッピーになれる。そんな世界を業界の一人として支えていきたいですね。

-素敵な思想だと思います。

僕自身はランニングに固執したくないんですけどね。人それぞれが、自由な考えを持って広義な意味で楽しめればいいのだと。そういう意味で、スペースキーさんの“もっと自由なアウトドアを、すべての人へ。”というスローガンもいいなと思います。

-ありがとうございます!その上でスペースキーに期待することなどはありますか?

僕はアウトドアもランニングも同じカテゴリーだと思っていますよ。特に、業界に対しては破壊やマウンティングではなく、自由を認めて広げるという動きという点では仲間だと。

デジタルが深まるにつれ、より重要になってくるのは人間性。ランニングも登山も、アウトドアの楽しみ方は自由である。そのハードルを下げる動きが、一緒にできると良いなと考えています。やはり、業界や文化を変えるような動きは、自分1人や一社ではできないですから。同じ思想をもった仲間と一緒に、そのような動きができたらいいなと。

-そうですね。1社ではできないことも、集まれば力は大きくなります。ぜひ一緒にやりましょう!

では最後に、アウトドアでやってみたいことはありますか?

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すごい個人的にですが、家族でキャンプがしたい!毎週末家族でキャンプをして、自然を楽しむ機会を作りたいです。TVやデジタルから離れて、家族の時間をつくりたいですね。

-アウトドア×ビジネスで挑戦してみたいことはありますか?

繰り返しになってしまいますが、僕はランニングだけに固執したくはないので、手段はこの限りではないと常に考えています。

ただ、ランニングは大きな可能性を秘めています。業務で人事をやっていた際によく見たのが、仕事でメンタルがやられてしまう人たち。見ていてこちらもつらいし、とても不毛だと感じました。それを解決するひとつの手法として、ランニングは一番インパクトがあるのではと考えています。

心と身体、双方に向き合える社会をつくっていきたいですね。自分と向き合う時間とか、家族に向き合う時間とか、そういう当たり前に大事にするべきことをちゃんと大事にできる世の中にしていきたい。インターネットが普及した現代で、転勤とか単身赴任とか、よく考えればおかしいですよね。具体的にどうすればいいかは今はまだわかりませんが、心と身体を豊かにするようなことを、アウトドアを通じて実現できたらいいなと思います。

-ありがとうございました!


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■ 編集後記 ■

アイキャッチの「愛」という一文字がすごくしっくりきました。冨田さんの情報発信(https://note.com/symsonic)なども拝見させていただいていることが要因かもしれませんが、人への愛、事業への愛、ランへの愛とすべてがつながるインタビューでした。

弊社もランメディア運営においては、ライバル(一方的ですw)ではあるのですが、こういった想いや愛を伝えながら、もっと多くの人ランやアウトドアを楽しんでもらえる世界を作っていきたいなと。うれしくなりました!

■ お気に入りのギア ■

常に走れるアイテムをチョイス

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取材日はTHE NORTH FACEのパーカ、lululemonのIntent Pant、ASICSのGEL-Kayano25。いつでも走れるようなアイテムを愛用しています。

iPhone

撮りたいときに写真がすぐに撮れるのが便利。先日も、スタバの壁面デザインが「いいな!」と思って撮ってしまいました 。無駄なものばかり取っているが、それも位置情報として使えるので、とにかく重宝しています。

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(iPhoneで撮った渋谷の風景。気分も上がります!)

■ お気に入りアプリ ■

Calm

歩いてるときなどに使います。深いところまでやろうとすると集中が必要なんですが、程よいところまでの瞑想にはちょうどいいです。音声ガイダンスを聞いてそれだけに集中する手軽さ。自分の体をスキャンしていくな感覚がおもしろいです。