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スペースふうとはくばく 3

 約20年前から、リユース食器のレンタル事業を手掛けるNPO法人スペースふう。株式会社はくばくは、開業時より、スペースふうに対して、資金面での支援にとどまらず、経営や経理の面での問題を解決するべく、きめ細やかなサポートも提供してきた。

スペースふうとはくばく 1

スペースふうとはくばく 2

 さらに、共に手がけた新しいプロジェクトは、15年以上続いており、その間、さまざまな人びとを巻き込み、環境に関する賞を授与されるほど高い評価を得ている。

リユースカップ実証実験

 2003年3月、スペースふうの本格的な事業開始に向けての準備を進めていた頃、理事長の永井寛子は、小さな新聞記事の見出しに目を留めた。

『環境省がリユースカップの実証実験!』

 それは、環境省が、サッカーチーム『大分トリニータ』のホームゲームで、リユースカップ導入の実証実験を開始する、という内容だった。

 永井はすぐさま、環境省へ電話をかけ、

「大分トリニータでの実証実験の記事を読みました。自分たちはすでに町の祭りでリユース食器を導入しています。話を聞いてくれませんか」

と訴えた。

 電話の向こうの担当者も、

「すぐにでも会って、お話を伺いたい」

と返す。

 そこで、数日後、永井とメンバー数名が環境省へ出向き、リユース食器について闊達に意見交換が行われた。


大分カップ(画像提供:一般財団法人地球人間環境フォーラム)

小瀬エコスタジアムプロジェクト

 環境省から戻った永井は、すぐに、はくばくの長澤利久社長を訪ねる。その手には、環境省で「お土産に」と渡された大分トリニータのリユースカップが握りしめられていた。

 山梨県のサッカーチーム『ヴァンフォーレ甲府』のユニフォームの胸には『はくばく』の4文字が大きく輝いている。はくばくが、ヴァンフォーレの最大の支援者であることは、県内ではサッカーファンに限らずともよく知られていることである。

 永井の報告を聞いた社長は、

「ヴァンフォーレでもやろう!」

と身を乗り出し、その場でヴァンフォーレ甲府の当時の社長、海野一幸氏に電話をかけ、リユースカップの導入を持ちかけた。

 これが、2004年から現在まで19年にわたって続いている『小瀬エコスタジアムプロジェクト』(注:現在は『ヴァンフォーレ甲府エコスタジアムプロジェクト』と名称変更)のスタートである。

 2003年の最終戦でリユースカップの導入実験を行うと、早速、2004年シーズンから、ヴァンフォーレのホームゲームで観客に提供されるドリンクは、すべてリユースカップになった。

 そのカップも、「持って帰りたくなるくらい美しいリユースカップを作ろう!」と、デザイナーに依頼して作り上げたもので、見事、その年の「やまなしグッドデザイン賞」を受賞している。

 リユースカップの導入方法はデポジット方式を採用。観客が売店でドリンクを買うと、リユースカップで提供され、代金は100円のデポジット(預り金)を上乗せして支払う。飲み終わったカップをスタジアム内に設置されたエコステーションへ返却すると、引き換えに100円が返ってくる。これによってカップの紛失や廃棄などを防いでいる。

 それまで、小瀬スタジアムでは年間6~7万個の使い捨て容器が使われ、ごみとして廃棄されていた。だが、2004年のリユースカップ導入以降、ドリンクだけでなくフードの皿やどんぶりなども少しずつリユース食器に切り替えられていった。

 そして、2020年、このプロジェクトは、日本財団と環境省が海洋ごみ対策の優れた取り組みを表彰する『海ごみゼロアワード』の最優秀賞に輝いている。

 この受賞は、『ごみの出ないスタジアム』という目標に向けて、チーム主催者とスペースふうが連携し、さらに、ドリンクやフードを販売する売店やリユース食器を使うサポーターたちの理解と協力の結果であった。

SDGsが描く未来へ向けて

 スペースふうが事業を着々と進め、様々な分野へ拡大することができた陰には、立ち上げから現在に至るまで途切れることなく支援してきたはくばくの存在がある。

 スペースふうの軌跡を振り返るとき、

「はくばくの支援を抜きには語れない」

と、永井たちは言う。

 リユース食器のレンタル事業は社会にとって必要なことだと背中を押してくれたことにはじまり、資金援助、経営面でのサポート、『甲州ますほまつり』や『エコスタジアムプロジェクト』といった地域での実践への協力、国の省庁や経団連などの公的機関に向けたアピールなど枚挙に暇がない。

「これは社会にとって大切なことだから応援するよ!」という長澤社長の姿勢は、スペースふうの熱意と合わさって、大きな機動力を生み出し、地元から社会を変えていく、という着実な実践と同時に、行政とつながり、全国規模での啓蒙的な発信も行ってくることができた。

 

 このさき、世界中がSDGs達成を目指していく中で、持続可能な社会を実現するためには、従来のように行政やNPO、企業、市民などがそれぞれ単独の主体として活動していては対応しきれないと指摘されている。問題意識を共有し、それぞれが主体的に、かつ協働していく必要がある。

 その視点から、はくばくとスペースふうのこれまでの関係を見返してみると、はくばくの、単なる資金援助に留まらずに先を見据えた支援は、持続可能性を高めていたといえる。

 また、『甲州ますほまつり』や『小瀬エコスタジアムプロジェクト』など一緒に携わってきた活動は、より本格的な協働へつながるきっかけとなり得よう。


 もちろん、あくまでも、スペースふうの活動をはくばくがサポートする、という関係で、課題解決への主体的な関わり、とまではいえない形ではある。

 しかし、ここまでみてきたように、はくばくとスペースふうの二者の関係には、それぞれが今後さらに他の企業やNPO、行政、市民と関わっていく際にも存分に生かされていくであろう萌芽が、確かに見受けられる。

 約20年も前から、社会に先んじて、力を合わせて進んできた二者の関係は、社会課題を解決するために大いに参考すべき事例のひとつであることは間違いない。

(ライティング・島田環)


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