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宇宙農業から考える"僕たちにできること" Think Space Habitat vol.6「はじめての宇宙建築 in TOKYO」 レポート

皆さんは新海誠監督の最新作『天気の子』を、ご覧になりましたか?

この映画でも登場し、根源的なテーマの1つとされる言葉に
「アントロポセン(人新世)」というものがあります。
アントロポセンとは人類の時代という意味であり、その名の通り人間の活動が地球の地質に大きく影響を与える年代という、地質学的な年代の区分です。
オゾンホールの拡大、森林の伐採、工業化による二酸化炭素の排出...といった、いま環境問題として大きく取り上げられているものは、人新世という時代を象徴する変化としてあげられます。
この先そうした変化が加速していくと人間が環境を破壊しつくしてしまい、地球に住むことが出来なくなってしまう恐れがあります。ただ一方で、時代区分として捉えて考えると、環境が変化し人間がいなくなっても、惑星として地球は続くであろうということも意識させられます。

「そんな人新世の始まりはいつからか」ということについて多くの議論があります。その中で約12000年前、農業が始まった時からという説が存在します。
人々が農業のために野山を切り開き、元来その地には生息していなかった植物を植えるという作業が、のちに人間が地球の環境を変化させるきっかけになったという考えです。

そう考えると、今年の宇宙建築賞のテーマである「宇宙農業」というものは、もしかすると地球以外の惑星における人新世の始まりになるのかもしれません。月や火星の環境を植物のチカラで変化させることになれば、その善し悪しはわかりませんが、人間がより住みやすい環境となった月や火星へと移住する時代が訪れるかもと想像してしまいます。


8月11日、TNLはそんな人新生ならではと思われるような猛暑の中、宇宙農業について考えるワークショップ「Think Space Habitat vol.6 はじめての宇宙建築 in TOKYO」を開催しました。足を運んでくださった皆様、ありがとうございました。

今回のワークショップでは、参加いただいた様々な分野の学生・社会人の皆さんに3チームに分かれてもらい、各チームで宇宙農業施設を設計していただきました。

ワークショップの前に、皆さんには
https://note.mu/spacearchi/n/n3d5b34373a32の記事で紹介したJAXAの構想する宇宙農業や、宇宙建築の設計手法について20分ほどの説明を聞いていただきました。その後に与えられた課題文をもとに、宇宙農業施設の設計を行いました。


課題文の内容は

①宇宙という環境において、中国料理や和食、フランス料理のように、宇宙での食が一つの食文化として成立していくことをより促進できるような農業施設の提案を行ってください。

②宇宙農業では、制限された資源と環境によって、個人の嗜好が制限されたり、配分の不平等、強制的な労働等が起こりえます。そうした不平等な事態をできる限り減らすための農業施設の提案を行ってください。

③経済活動は1人1人の働きによって成り立っています。宇宙農業の生産性が高まるように生産者の士気向上を促進するための農業施設の提案を行ってください。

④宇宙は極限環境であり、その中での食糧生産は大変難しいと考えられます。子供から大人まで宇宙農業の重要さを教育できる農業施設の提案を行ってください。

⑤宇宙という環境において、宇宙農場を作るにはあらゆるものを循環させる必要があります。これらの技術は後世に継承していく必要があるため、継承を目的とした農業施設の提案を行ってください。

⑥地球の都市では農業の生産と消費は分離しています。一方、宇宙では限られたスペースの中で、宇宙都市における農業が身近になるとしたら、一般人は消費以外の形でどのように農業にかかわれますか。

の6つで、各班のファシリテーター(TNLメンバー)から解説を受けつつ、自身の専門や興味と結び付け、課題文をふまえて様々なアイデアを出し合ったり、話し合ったりして頂きました。
そうして、話し合いの後に約40分ほどの製作時間を経て、各班に作品の発表をして頂きました。
ここからは、各チームの作品を紹介していきたいと思います。

<1班>

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1班は⑤と④の課題をもとに、月面の縦孔に農業施設を設計しました。
本案は月面出身の人々のための教育機能を持った農場です。構造的な安定性や拡張性から、六角形の農場ユニットが連結され、広がっていく案であり、その中では排泄物の循環が行われます。拡張されることで次世代に農業技術が受け継がれていく案であり、また六角形にはより多くのユニットへ移動できる、という利点があるとのことです。


<2班>

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2班は火星を舞台に、⑤を課題とした農場を設計しました。
本案は現地で生まれた子供から地球で生まれた老人まで、様々な世代が訪れる施設で、社会科見学に訪れた子供たちが土に触れることができる提案です。
模型のように気が生い茂り、川が流れ、生態系も再現されています。これらはドーム内に収まっており、田植えや畑などで農作物を育てられるほか、老人はここの風景を見ることで、地球を思い出すことができる、そんなストーリーを持った提案でした。


<3班>

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3班は⑤と①を課題に、月面観光客向けの農場兼レストランを提案しました。
本案では月面のクレーターや1/6の低い重力、真空な環境など、一見して人間にとってマイナスな事柄をあえて利用した施設です。本案ではクレーターに設置されたドーム内壁に寒天培地を敷き詰め、低重力で様々な方向に植物が生えることを利用しました。内部では観光客が料理で使う作物を自分で収穫、1/6の重力の中を飛び回りながらレストランに持っていき、料理したものを食べるというアクティビティ性を持った農場でした。

どれも我々の予想もしていなかった案であり、また各班課題文にも真摯に向き合っており、大変レベルの高い作品でした。

特に興味深いのは、3班中2班が⑤を課題に選んだという事です。

⑤ 宇宙という環境において、宇宙農場を作るには、あらゆるものを循環させる必要があります。これらの技術は後世に継承していく必要があるため、継承を目的とした農業施設の提案を行ってください。

これは多くの人々が、人新世によって大きく環境が変わっていくいま、地球でもこうした施設が必要であると考えているからこそではないのかなと感じました。

『天気の子』の主題歌である、RADWIMPSの「愛にできることはまだあるかい」には以下のような歌詞が登場します。

"僕にできることはまだあるかい?"

人間が地球にもたらした変化の中で、今の環境を維持し後継すること
"僕にできることはまだあるよ"
そう次の世代が答えるヒントとして、
今回のワークショップでの提案がこの先さらに発展していき、
宇宙と地球の両方で活かされるものとなればなと想いました。


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文責・編集:水口、ほづみ

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