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#06 宇宙に行って萎縮してる場合ではない!

Introduction

先日youtube上で開催されていたオンラインイベント、

J-SPARC  七夕LIVE
「宇宙×暮らし・ヘルスケア~宇宙視点から考えるこれからの暮らしと新規事業の可能性~」
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000032.000043170.html

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皆さんご覧になりましたでしょうか。

Panel Disscussion-2の
「宇宙旅行×宇宙探査×ヘルスケアサービスの可能性」
の中で口腔ケア問題が取り上げられていました。

思わずそこだけ(笑)身を乗り出して聞いてしまいました。

JAXAの宇宙飛行士健康管理グループの松村智英美さんという方が技術ギャップ166項目という膨大な項目の中から口腔疾患の予防について触れてお話しておられました。

アタリマエですが僕とはやや認識が違います。

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目標や課題として、

歯科疾患への予防
むし歯になりにくい歯みがき粉の開発など

が挙げられておりましたが、それでは少し甘い気がします。

宇宙へのロングミッションや移住を考えた時、
必要なのは予防もそうですが、僕は

 微小重力下における口腔内の変化について正しく理解すること
 微小重力下での影響を理解した上で向き合い、実際に起きうるトラブルにどう対応していくか考えること
 そのためにどのような知識・器具が必要なのか把握すること
 それを宇宙飛行士へどれだけリアルに教育・シミュレートできるか

が大事であると考えています。

宇宙で何か起きないように地球上でしっかり予防して、あとは神頼み、というのでは進歩がありません。

宇宙に住んでいても問題のない歯科インフラを日本がフロントランナーとなって整備していこうではありませんか!

それが僕の目標で、現在動いているプロジェクトです。

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松村さん!
是非ご連絡お待ちしております!笑


口腔ケアっておいしいの?

そもそも口腔ケアとはなんでしょうか。

「口腔ケアは口腔に関わる生理、機能、審美の改善保持を通して、全身の健康の維持増進を計るためのトータルケアである」
(出典:藤本篤士「介護保険と口腔ケアプラン」1999年医師薬出版)

とされており、口腔疾患の予防のみならず、誤嚥性肺炎の予防や、栄養状態の維持改善など、全身の健康維持に欠かせないケアのことをさします。

要するに歯みがき(だけではありませんが)することで、むし歯のないキレイな歯や健康な歯茎を保つだけでなく、

「食べる」
「話す」

など、日常生活においてアタリマエのことができることを維持することです。
アタリマエのことができなくなってしまったら、生命の維持の前にストレスですよね。

宇宙においては「食べる」、「話す」ができないことはミッションに大きな影響を与えます。


萎縮、震える、フレイル

微小重力下では筋肉や骨格は重力に逆らう必要がなくなるため、負荷がかからなくなり、身体が全体的に衰えてしまう、廃用症候群という症状が起こります。

廃用症候群とは病気や怪我などが原因で、長い間身体を動かさない状態が続くと、筋肉が萎縮し、臓器の機能が低下する病態です。
実際には、明らかな病気はないけれど加齢にともなって徐々に身体機能が衰え、最終的に機能不全に陥ってしまう場合も含まれ、高齢者の寝たきりや認知症の原因の1つとなっています。

そのため宇宙飛行士は一日のスケジュールの中で数時間はトレーニングに費やします。

わざと身体にプレッシャーをかけることで廃用症候群を予防するわけです。

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ところで顔面にも骨や筋肉はあります。

顔面に廃用症候群は起きるのでしょうか。

2015年に発表された研究の中でおもしろいものがありました。

この研究では実験用のマウスを2つのグループで準備し、
一つは地上でそのまま飼育・観察し、もう一つはスペースシャトルに持ち込んで宇宙で観察しています。

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マウスたちには、主に固形のエサが与えられ、顔面の筋肉(咬筋)と足の筋肉(前脛骨筋)の状態が調べられました。

両方のグループのマウスにおいて前脛骨筋は明らかに廃用性萎縮(廃用症候群)を示したものの、咬筋に関してはほとんど差はありませんでした

これは固形のエサを毎日食べることで、咀嚼(ものを噛むこと)の筋肉は常に使用されていたので、微小重力下においても咬筋の継続的な負荷が廃用性萎縮を防いだのです。
微小重力下ですので足の筋肉は人同様廃用性萎縮を起こしています。

この研究ではさらにおもしろい追加実験をしていました。

マウスへのエサを流動食に切り替えたのです。

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発想がいいですよね。笑

固いエサと違い流動食ですので咬筋にほとんど負荷はかかりません。


しかし結果は、なんと、咬筋の廃用性萎縮は起きなかったのです


これは、筋肉ごとに筋肉量の調整機構があり、咬筋の調整機構が脚の筋肉よりも微小重力下でうまくバランスをとれるのではないか、と推測されていました。

しかし地上においては高齢者の方によく見られますが、

顔面の筋肉に廃用性萎縮は見られるのです。

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不思議ですね~

References
1 Ayush Goyal, Pulkit Malhotra, Parul Bansal, Vipin Arora, Pooja Arora, Ritsu Singh, Mission Mars: A Dentist’s Perspective , Journal of the British Interplanetary Society · April 2016

2 A. Philippou, F.C. Minozzo, J.M. Spinazzola, L.R. Smith, H. Lei, D.E. Rassier and E.R. Barton, “Masticatory muscles of mouse do not undergo atrophy in space”, FASEB J, 29, pp.2769-79, 2015.

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