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#03 宇宙で鼻がかゆくなった時の絶望を想像したら眠れなくなりました。

Introduction

今年の夏は宇宙どころかハワイにも行けない夏となりそうです。

海外旅行を予定していた人が流れてくるので、今年の沖縄の夏は大盛況なのではないでしょうか。

ほぼ毎年夏には沖縄の離島にバカンスしに行っている僕は、コロナうんぬんの前に混雑が嫌いなので今年はあきらめることになりそうです(泣)


リゾート地といえばやはり何といってもきれいな海ではないでしょうか。

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入ってもよし、眺めてもよし、砂浜を散歩するだけでも幸せな気分になりますよね。


僕の家では、父親が子供たちに課している禁止事項が3項目あります。

 喫煙
 バイク
 ダイビング

です。


なんとなくわかります。
喫煙は健康に良くない、バイク・ダイビングは危ない、ということなのでしょう。

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ただ何事もリスクやデメリットというのはつきものです。
もしこれらの項目にリスクやデメリットを超えるメリットがあるのなら僕はやってもいいのではないかと考えました。

なので、すべて親に内緒でやってみたのです。

タバコも吸ったことがありますし、バイクにも乗ってみました。

タバコは合いませんでした。
あまりおいしいとも思えなかったし、ニオイがダメだし、なにより歯周病になりやすい!

無事禁止継続です。

なぜ喫煙で歯周病になりやすくなるのか?
はまたいつかの機会にでも書きましょうかね。


バイクも10年ほど前に乗ってみたことがあります
バイクにあこがれがあったというよりは、移動の足として便利だと思ったのです。

しかし乗った時期が悪かった。
真冬に乗ったんですね。
寒すぎて、もう車でいいじゃん!と鼻水垂らしながら思って以来もう10年乗っていません。
車にはエアコンがありますから、温度問題もクリア、安全性も高いのでバイクは引退しました。
これも禁止継続でいいでしょう。


ダイビング。

これは難しい。
父親に言わせれば、スカイダイビングにしろシーダイビングにしろ、遊びであそこまで命をかける必要はないからやめなさいとのことでした。
僕はやや高所恐怖症なのでスカイダイビングは自主的に辞退しましたが、シーダイビングには昔から興味がありました。
小さいころから水泳は得意でしたし、水族館や水の生物を眺めるのがとても好きだったのでシーダイビングだけはやってみようという思いが密かにありました。

昨年、ついに石垣島でシーダイビングデビューしたのです。

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ダイビングにおいて必須スキルのひとつに「耳抜き」があります。

深い位置まで潜った時にこれをやらないと、耳の中が痛くなり、場合によっては耳の中を損傷してしまいます。

これを気圧外傷(barotrauma)といいます。

原因は体の外の圧力と耳の中の圧力が不均一な状態であることが原因で、これを防ぐためには圧力変化の時に耳管を開放し耳管を換気してあげることが必要です。

つまり「耳抜き」です。

鼻をつまんで力むのが一番メジャーな方法ですが、力みすぎると中耳腔や内耳を傷めることにもなりかねないので、じっくりゆっくり空気を送り込むイメージで、耳管を開けるのがコツなんだそうです。

インストラクターの方に所作を一通り教わって、耳抜きもマスターし、いざ海底へ!(初心者向けのエリアです)

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感動しました。
とてもきれいで楽しかった!
こんな素敵な世界があるのかと思いました。
水面に浮上することなく泳ぎ続けられることに感動!

呼吸もしっかり練習していればほぼ問題ありませんでした。

是非次回はライセンスを取って、もう少し深いところに長い時間潜ってみようと心に誓ったのです。

こうして我が家の禁止事項の項目は、僕の代からひとつ項目が減ったのでした。


トラウマ

微小重力の口腔内を含む頭頚部(首から上の部分)への影響を考えてみるときに欠かせないのが気圧変化の影響です。

地球から宇宙へ飛び立つと、宇宙では急激な気圧変化にさらされます。
ヒトの身体の中で、空気を含んでいる(含気腔)器官や臓器は気圧の変化の影響を特に強く受けてしまいます。

大気圧の変化により外界圧と体内の空間との圧力のバランスが崩れ、そのために体内の空気を含む空間の容積変化に伴い組織へのダメージが生じてしまうのです。

これは「気圧外傷(barotrauma)」などと呼ばれています。

そうです。
さきほどでてきたあれです。

空洞を形成する臓器って具体的にはどんなものがあるでしょうか。

耳、副鼻腔、歯、肺などが挙げられます。

歯?

歯の中には歯髄という歯の神経が通っていて、その歯髄の部屋は歯髄腔と呼ばれ、まさに空間です。

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(APAGARD HPより)


気圧外傷の具体例としては、

 気圧性中耳炎
 気圧性副鼻腔炎
 外耳性気圧外傷
 気圧性外傷関連頭痛
 気圧性歯痛

などが挙げられます。

急激な気圧の変化により空洞をもつ臓器内には一時的な真空が発生します。

気圧の違いによって生じた真空は、粘膜にストレスを与え、例えば副鼻腔ならば副鼻腔炎という鼻の炎症状態を引き起こします。

顔に分布する三叉神経という神経に圧力がかかり、顔面に痛みやしびれが発生することもあります。



バルサルバ・デバイス

海底でも宇宙でも耳抜きは必須スキルです。

とはいえ宇宙服を着ていては直接鼻をつまんだりすることはできませんので、宇宙服の内部には

「バルサルバ・デバイス」

という小さなクッションのようなものが取り付けられており、それを使って耳抜きをするのだそうです。

ちなみに宇宙服を着ているときに顔がかゆい時もこれをこすりつけてうまく掻くんだとか。(笑)

僕らも全身麻酔の手術中顔がかゆくなることがあります。

手は入念に洗浄し、滅菌手袋をつけていますから顔を触ることは許されません。

とにかく耐えるしかないのです。

手術着にバルサルバ・デバイスはついていませんから。

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きっと我慢しているときはこんな顔をしています。


次回は気圧外傷による口の中へのダメージをもう少し深く見ていきます。

宇宙へ旅立つ人はきっと口の中が気になってきてしまうような内容です。


宇宙へ行く予定がある人への最適な歯の治療法とは?

そして宇宙へ行く人を治療するときに歯科医師が気を付けることとは??

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References
1 柳田 則之, 中島 務, 植田 広海, 福田 成司, 小塚 誠「耳気圧外傷の臨床」耳鼻臨床 88: 10; 1243~1252, 1995
2 Achint Garg, Annu Saini ,Effect of Microgravity on Oral Cavity IOSR Journal of Dental and Medical Sciences (IOSR-JDMS) e-ISSN: 2279-0853, p-ISSN: 2279-0861.Volume 15, Issue 1 Ver. III (Jan. 2016)
3 B. Rai, J. Kaur, Evaluation by an Aeronautic Dentist on the Adverse Effects of a Six-Week Period of Microgravity on the Oral Cavity, International Journal of Dentistry Volume 2011 (2011)
4 B.Rai, Bone mineral density, bone mineral content, gingival crevicular fluid (matrix metalloproteinases, cathepsin K, osteocalcin), and salivary and serum osteocalcin levels in human mandible and alveolar bone under conditions of simulated microgravity, J Oral Sci. 2010 Sep;52(3):385-90

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