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企画のウラガワ① / 宏美インタビュー〈画家・キュレーターの両立〉

こんにちは! space caiman キュレーション担当のいとうです。

今回は展示イベントのウラガワに迫るインタビュー記事となります。
テーマは「キュレーター」についてです。

現在、都内の画廊〈新宿眼科画廊〉にて絶賛開催中のドローイング展「はつはる」を手掛ける画家であり、キュレーターの宏美さんにインタビューをさせていただきました。
宏美さんは主にキャラクターアート(スーパーフラットアート)作品を基盤とした作品を個展等で発表の傍ら、都内にて参加者30名にも及ぶクリエイターの合同展の企画を定期開催しています。

キュレーターとは展覧会の企画を行う総監督的な役割の人のことを指します。
そんなキュレーターと画家の両立の立場から見えてくるキュレーターの視点とは一体どのようなものなのでしょう。


〈宏美プロフィール〉
1989年生まれ。岡山県出身。実在する風景にキャラクターの顔や植物が浮いたような絵を描く。背景に描かれる風景は殆どが地元である岡山の災害地であり、キャラクターは人間が持つ理想の姿として描かれる。
主な企画展として2021年に新宿眼科画廊で「故郷」を開催。地方で活動してるアーティストに着目し、集めた展示を行う。同年から若手の作家を集めたドローイング展を年に1、2回のペースで開催している。

〈企画した展示〉
2021 「故郷」(新宿眼科画廊 / 東京)
2021 ドローイング展「みちくさ」(River coffee&Gallary / 東京)
2022 ドローイング展「ゆきどけ」(新宿眼科画廊 / 東京)
2022 「犬展」(プライベイト / 東京)
2022ドローイング展「ゆうだち」(新宿眼科画廊/東京)
2023ドローイング展「はつはる」(新宿眼科画廊/東京)

美術業界の問題解決。
自身のマネジメントと作家を孤立させないために。


ーー宏美さんが画家の傍ら、キュレーションに取り組み始めた経緯を教えてください。

現在私は画家を生業にしていて、キュレーターは試行錯誤中している段階です。
私がキュレーターのような展示を企画する立場になったのは、ギャラリーに所属してない作家は自分で企画を立ててギャラリーに持ち込むしか展示をする方法が基本的になくて、私みたいにフリーの作家は自分で自分の作品をマネジメントするしかなく、結果として展示を企画する、という事になります。
なので過去の展示を取ってみても、作家が企画してるグループ展ってとても多いです。その方達を見ていて、自分も展示を企画することが当然だと思っていました。

ーーでは、定期的に開催されているドローイング展の目的やコンセプトも同じような自己マネジメントがベースでしょうか?

ドローイング展の目的は『作家の交流、展示機会を作る』事ですね。
展示そのものに強いコンセプト性があまりないです。
私の企画はあまりテーマや縛りがなく、作家同士の交流になればいいな、という気持ちがあって、なので展示を機に作家さん同士が仲良くなっていくのはとても嬉しいです。

ーーそのような目的に至ったのは何故でしょう?

私は過去に美術作家の藤城嘘さんが企画していたカオスラウンジという展示に参加していたのですが、私はずっと岡山に住んでいて作家友達もいなくて孤立していたんです。
でもカオスラウンジの展示に参加するようになって作家をしてる人に「この人、作家さんなんだ。こういう作品作ってるんだ」と徐々に認知されるようになって、そのおかげで作家の活動がしやすくなったというか、孤立しなくなったんです。

またここ数年でアート界のパワハラ、セクハラ、ギャラリーとアーティスト間でのトラブルが明るみになってきました。 前時代的な考えと、若い人たちの考えが衝突してる結果かと思うのですが、告発や裁判など、激しい対立になる前に、誰かに相談できればもっと違う結果になるのではないかと思うのです。
例えばギャラリーと契約する前に相談できる作家や他のギャラリーの方がいたら心強いですよね。でもそういった関係を作るのって一人で活動していたら結構難しいと思うんです。なのでドローイング展では作家同士が仲良くなって、業界で孤立しないようになって欲しいという想いがあります
なので、私が展示を企画できなくなっても、交流が続いて誰かと誰かが一緒に展示をして、みたいな流れが最終的に出来ると良いな、と思っています。

ーーキュレーションに取り組むことにより、自身の作品に何か良い効果は得れましたか?

私自身はわりと他人からの影響を受けないタイプなので結果としてはそんなに変わらないのですが、でも、作品を見てガーンって稲妻に打たれたような気持ちになる人はいますね。伊丹小夜さんとか大量にドローイングのストックがあって、持ってきてくれるのですが、それがもう、大量なのに全部すごく良いので、なんでこんなに良い絵がこんなにたくさん描けるんだ!って衝撃を受けます。
なので制作意欲とか刺激になってることはたくさんあります。他の作家さんの制作の内側が観れるのはすごく面白いです。パネルの裏側の処理だったり、サインのやり方だったり、それって普通の人は作品を買ってみて見ないと分からない部分なのでラッキーだなって思ってます(笑)
他にも画材の情報交換をしたり、額装のやり方を話し合ったり、DMや名刺、グッズの作り方とか自分より詳しい人に教えて貰えるので助かります。

上手な企画の進め方。

ーーご自身の個展を開催しつつ、美術業界の課題解決に結びつく展示も行うのは画家とキュレーターの両立をする事ならではのご活動ですね。
画家とクリエイターを両立するにあたって気をつけていることを教えてください。

展示を企画する時に気を付けているのは、なるべく早く連絡を返すことです。
メールは数日かかってしまいますが、LINEだとほぼ即返だと思います。
理由は、誰も知ってる人がいない展示に、いきなり知らない人に声をかけられて参加すると不安だと思うので、なるべく即返して安心させたいという気持ちがあります。
しかし作家としては結構返信が遅めです…(笑)
作家としては、なるべく自分が皆んなの広告塔になれるよう、個人の活動も頑張っています。けれど自分が企画したグループ展では自分自身は主張しすぎないようにしています。なるべく新しい人や経験が少ない人が前に前に出てほしいですし、お客さんに見てほしいという気持ちがあります。

ーーその他、キュレーターに必要なスキルはなんだと思いますか?

スキルより、展示で誘ってみたい方に思い切って連絡してみる勇気が重要かもしれません。展示に誘ってもらえるって嬉しい事なので邪険に扱われることはないと思います。
ただ誘ったからにはきちんと責任を持って展示をやり遂げる必要があります。

まだキュレーションは試行錯誤の段階ではありますが、展示の企画って、緊急で連絡しないといけない事が出てきたり、突然作業が発生したりするので、その分の時間は制作時間から削られますね。なので思ったより作品の枚数が用意できなかった…みたいなことも普通にあります。私はアルバイトのような副業をしてないので時間としては制作と展示の企画に集中できるのですが、金銭面はしんどい時もあります。
なので、DMのデザインなどはデザイナーの知り合いに発注したり、展示に関しての経費が足りなければ運営として売り上げから一部もらったりなど、企画の際は無理に仕事を抱え込まず他人にお願いするなどの工夫をしています。
完璧主義になりすぎず、自分ができる範囲で頑張るのが良いと思います。

ーー逆に向上したスキルはなんでしょうか?

作品の配置を決める事が早くなります(笑)
展示の企画自体は回数を重ねればどんどん要領が良くなっている自覚があります。その展示が良かったかどうかは客観的に判断する事が難しいのですが、私が2022年の9月にLIGHT HOUSE GALLERYで個展をしたのですが、この展示も展示のテーマや配置を全て自分で決めました。
良い評判を頂いたので個人の活動にも役立つと思います。

ーーお話を聞いていると、岡山で作品制作をしつつ、定期的に岡山⇆東京の行き気での取り組みは体力的にも金銭的にもかなりハードなものだなといった印象です。やりがいや、嬉しいことはなんでしょうか?

嬉しいことは自分の好きな作家さんが自分の展示の為に作品を作ってくれるという事です。これはこの上ない喜びで、いつも参加してくださる作家の皆さんが素晴らしい作品を作ってくれるので本当に嬉しいです。

展示の企画としては、展示空間が出来上がった時もすごく充実感がありますし、ドローイング展を企画しなかったら関わりがなかっただろうなって作家さんと、私自身も一緒に展示できてすごく楽しいですね。
知り合いじゃなかった作家さんたちが仲良くなっているのは見ていて嬉しいですし、あとお客さんに「すごく良かった」とか「いつも楽しみにしています」とか言われるのも嬉しいです。
作品の点数が毎回100点くらいあるので、その設営が疲れる(笑)事以外はやりがいだらけだと思います。

作家としては、作家として展示機会が増えると色んな人が自分のことを自分が知らないうちに知ってくれてる事ですかね。だから今まで関わりのない作家さんに声をかけても、向こうが私のことを知ってくれたり、そういうのってすごく嬉しいというか、活動をしている成果が出てる気がします。

ーーやりがいだらけという感想が聞けて嬉しい限りです。
ご自身の今後の展望や目標を教えてください。

せっかくマーケットでキャラクターアートと言われるジャンルが出来て、キャラクターが流行っているので、これを機に皆んながもっとキャラクターの事を考えるようになって欲しいと思います。
今のマーケットではポップなキャラクターアートが流行っていますが、日本にはもっとニッチな、もっとすごいキャラクターアートがたくさんあるぞ、と思っているのでその人たちに焦点が当たって欲しいです。
今年は韓国と台湾でドローイング展を開催する予定があるので、きっかけの一つになってくれれば良いと思ってます。

ーー韓国、台湾でのドローイング展の開催おめでとうございます!
最後にキュレーション、キャラクターアートに関心がある方へのメッセージをお願します。

キュレーションに関しては、是非、足踏みせず、思い切って展示を企画してみてほしいです。
展示を企画するという事は、作品を作らない人も出来る表現方法ですし、作品を作る人にとっても自分の制作と違う表現になるので幅が広がるかと思います。
色んな方が色んな展示を企画してくれたら業界がもっと面白くなるのではないかと思います。

キャラクターアートに関しては、ここ数年でキャラクターを全面に押し出した、よりポップな作風が市場でも好まれるようになりました。村上隆さんの活躍のおかげかと思います。
ただキャラクターを描く事に外部からの抵抗がなくなってきて、単純にキャラクターを描けばウケる、という流れが出来てしまっているので、若い子は「なぜ自分がキャラクターを描いているのか?」「なぜキャラクターではないといけないのか?」という事はずっと考えていてほしいですね。


宏美さんありがとうございました。

いかがだったでしょうか?
今回のインタビューでキュレーションや展示に少しでも興味をもつ人が増えると嬉しく思います。
筆者も、宏美さんの業界全体のことを見据えながら、作品制作とキュレーションを行う姿勢を見習わせていただきます。

ドローイング展「はつはる」の展示は新宿眼科画廊にて1月25日(水)までです。
是非、ご鑑賞ください!
そして、宏美さんの手がけるドローイング展が1月28日(土)から開催される『関西国際芸術祭〈二次元派ブース〉』でも展示されることが決定しました!
詳細は追って、大阪関西国際芸術祭のwebサイトにて告知されるとのことです。
関西近辺の皆様はお見逃しなく!

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