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マーケターは「いい○○」を提案すべき。音部大輔氏に聞くこれからのマーケティング

2020年2月5日(水)~7日(金)に開催されるリード エグジビジョン ジャパン主催の「Japan マーケティング Week 春」。その目玉のひとつである基調講演に登壇される株式会社クー・マーケティング・カンパニーの音部大輔さんに、マーケティングの役割と4Pの変化について聞きました。

株式会社クー・マーケティング・カンパニー
代表取締役 音部 大輔様

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P&G に17年間在籍し、ブランドマネージャー、マーケティングディレクターとしてアリエール、ファブリーズ、アテント、パンパースなどのブランドを担当。市場創造やシェアの回復を実現したのち、US本社チームでイノベーションの知識開発をマーケティングとして主導。
帰国後、ダノンジャパン、ユニリーバ・ジャパン、日産自動車、資生堂など多様な文化背景・製品文化の諸企業で、マーケティング担当副社長やCMOなどとしてビジネスの回復やマーケティング組織構築・強化を指揮。
2018年1月より現職。博士(経営学 神戸大学)。
著書に『なぜ「戦略」で差がつくのか。ー戦略思考でマーケティングは強くなるー』((株)宣伝会議)『マーケティングプロフェッショナルの視点ー明日から仕事がうまくいく24のヒントー』(日経BP社)などがある。


マーケティングは市場創造

マーケティングの役割を「売れる仕組みづくり」と表現されることがあります。これは活動の一側面ではありますが、必ずしも定義というわけではありません。売れる仕組みをつくるのであれば、半額にすれば売れるはずですし、売れ続けるでしょう。しかし、これが素晴らしいマーケティング活動だと心底思える人は少ないはずです。

私は「マーケティングとは市場創造であり、最も重要な役割は属性の順位を転換して「いい○○」を定義すること」と答えています。

車を例にとると、1980年代はハイパワーでスタイリッシュなラグジュアリークーペが流行りました。その後、1990年代は快適でラグジュアリーなプレミアムセダン、2000年代は子供も楽しめるミニバン・ワンボックス、2010年代は家計や環境にやさしいエコカー、というふうに属性が転換し「いい車」の定義が変化しています。

定義が変わるたびに市場が再創造されて、ブランドのシェアや順位が変化していきます。そして意図的に「いい〇〇」の定義を変えられるのが、マーケターでありマーケティング部門です。

2020年1月に開催された「CES 2020」TOYOTAさんのプロジェクト「Woven City」が注目を集めました。いい車の定義を主体的に提案し続けているTOYOTAさんの「街づくり」です。

街というのは静的ではなく動的なもので、人が移動して直接ひとに会ったり会話したりします。ネットワークや通信上の交流とは身体性が異なることが多そうです。TOYOTAさんは、街そのものをつくることで物理的な場をつくり、その中で「いい交流」とそのための「いいモビリティ」の定義を変えていかれるのだろうと思います。

市場で属性の順位が転換していったときに「消費者の嗜好が変化した」と説明するのは簡単です。ですが、「新しい属性、新しい価値を提案して変化を促す」のと「消費者の最新の嗜好を追いかける」のでは、当然のことながら決定的な差が出ます。新しい属性を提案する側がゲームのルールを決めていきやすいからです。最新の嗜好であっても、新商品を導入する頃にはその嗜好は変わっていることも少なくありません。

ですから、マーケターは「いい○○」を提案すべきです。 消費者は自分が欲しそうなものを提案してもらいたいと感じていますし、今日より来年、来年より再来年の世の中が良くなってほしいと思っているでしょう。その人たちに「いい○○」を提案するのはマーケターの仕事ですし、マーケティングの部門・機能として最も重要な役割だと考えています。


マーケティング4Pの変化


マーケティングの現状を考えると、「Product・Price・Place・Promotion」の4Pがそれぞれ変化していると思います。

Productに関しては、資源という側面でみた場合、オープンイノベーションが新商品開発や新技術開発などのプラットフォームとして浸透しつつあると思います。それにより、すべて社内で完結するのではなく、繋がりを持つ外部との協働がますます進んでいくのではないでしょうか。

目的の側面からは、モノやサービスがもつ機能の重要性が下がることはありませんが、ブランドや組織が掲げるパーパス(大義)や、消費者が得られるベネフィットがより重要になってくると思います。

Priceについては、支払い方法のバリエーションが増えてより複雑化するのではないでしょうか。2019年から本格的にキャッシュレス化についての取り組みがはじまりました。キャッシュレスは、現金より多少便利になるという利点がありますが、それ以外にも、現金の流通量を減らすことで国家経済のコストセービングに繋がる、という利点もあります。

現金を運用するためにはATMを用意したり、現金を移動させるために警備をつけたり、古くなったら回収・処分するためのオペレーションが必要になったり、さまざまなコストがかかります。デジタル化することでコストが不要、もしくは削減されるわけです。

キャッシュレス化をきちんと進めていくためには、国家など大きな組織が主体となって旗振りをして、消費者が順応できるようにしなければなりません。順応の段階では様々な企業が、場所を選ばず簡単に支払える仕組みを作っていく必要があります。今後はこうした動きがさらに進んでいくでしょう。

一方、デジタル化によって失われるものもあるかもしれません。

例えば、謝礼として誰かに1万円を渡す場合、現金とキャッシュレスでは相手に伝わるものが微妙に異なると思います。何かに現金を払ったときに感じるそこはかとない喜びやお金を受け取ったときのありがたみが、物体性を失ったお金でも感じられるようにする配慮も重要な気がします。所有の概念も変化している最中だと考えると、これから注目の分野です。

イベントが今まで以上に大切なPlaceへ

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Placeは、現在オフラインで買うかオンラインで買うかといった議論が中心です。そこにオフラインを「経験・体験してもらう場所」として考える企業も出てきました。今後はオンラインであっても消費者が「どの場所からアクセスしているか」も重視する企業が出てくるかもしれません。

Uber Eatsを例に取ると、2019年辺りから「花見をしている場所に呼ぶ」といった利用が発生しています。Uber Eatsは「どこで」というのと、「どのモーメント」で、「どんなコミュニケーションが発生して」頼もうと思ったかを重視していると思うんです。これは他の企業でも重要になってくると思っています。これはブランド体験に大きな影響を与えることなので、他の企業でも重要になってくると思っています。

Promotionは、今後も情報氾濫は持続的に進んでいくので、今よりもコミュニケーションが成立しやすくなることはおそらく無いと思います。

ただし、自分が好きなブランドや興味がある人物についての情報には好意的ではあるので、ブランドは自分たちのファンやユーザーを対象としたメディアとしても成長していくでしょう。

例えば洗剤選び一つをとっても、自分のライフスタイルにフィットするかどうかが大きな影響をもたらしています。自分が使っていて心地良い商品を提供するブランドは、同じような生活信条や価値観を提供しているので、話を聞こうと思うんです。

強力なブランドに一定数ついているロイヤルユーザーは、ブランドそのものが好きというだけでなく、ブランドの価値観との一致が多いからこそブランドの話に耳を傾けます。その流れから、ブランド自体がメディアのようになっていくのではないでしょうか。

もう一点、特定の場所に人を集めて経験を提供する「イベント」が、今まで以上に重要なマーケティングツールになるだろうと思います。イベントは、消費者からすると、日にちや時間を指定されるある意味消費者ファーストではないものかもしれません。

しかしそれゆえに、メッセージのタイミングや受容性のコントロールがしやすいともいえます。最適なペースやタイミング、文脈や状況でメッセージや体験を設計しやすい。その結果、濃密な体験を提供できることになります。

店頭も、「常に存在するイベント的な場所」として捉えると見方が変わってくるかもしれません。

これからは設計図が重要

これからのマーケティングは、4PのProductでも話をした協働がより重要になってくると思います。そのためには、複数のプレイヤーを取りまとめてオペレーションを行う設計図が必要です。

少し前のマーケティングは例えるならピアノソロ。楽譜なしでも一人で弾いて歌ってアドリブを効かせれば十分でした。しかしデジタルが進化し、複数のデータプラットフォームやインタラクションが増えるとそうもいきません。今日初めて出会った人とオーケストラで演奏するようなもので、阿吽の呼吸などない中でオペレーションを進める必要が出てきます。

阿吽の呼吸が使えない複数の人たちと力を合わせて何かをやるなら、設計図がなければ効率が悪くなりますし、目的のものはつくれません。

設計図の一つとして「パーセプションフロー・モデル」が機能します。

パーセプションフロー 定義 R03Y-5

パーセプションフロー・モデルは、消費者の認識変化を示したマーケティング活動の設計図です。コミュニケーションやプロモーション施策はもちろん、製品やチャネルといったブランドマネジメントに関わる4Pすべてを統括するマーケティング活動の全般に使えます。

設計図としてはほかにも、「カスタマー・ジャーニー・マップ」という手法もあります。消費者視点でマーケティング活動の全容を可視化し俯瞰する設計図、という点では似ていますが、カスタマー・ジャーニー・マップは「現状の記述」であるのに対して、パーセプションフロー・モデルは「これからのすべてのマーケティング活動の設計図」という違いがあるんです。

先ほど、「マーケティングとは市場創造であり、最も重要な役割は属性の順位を転換して「いい○○」を定義すること」という話をしましたが、「いい○○」を再定義する市場創造にもパーセプションフロー・モデルが適しています。

クライアント側の視点に立てば、多種多様なパートナーやテクノロジーを適材適所に動員するためには、明確な戦略にもとづいたマーケティング全体像を設計図として示せることが大切です。また、パートナー側の視点に立てば、クライアントが描くマーケティング計画の全体像を知って、自分たちの役割を理解することが重要になります。どちらの立場でもパーセプションフロー・モデルは役に立つでしょう。



【お知らせ】
2021年1月27日(水)~29日(金)、幕張メッセにて
日本最大級のマーケティング商談展、Japan マーケティング Week [春] を開催します。

あなたの日々のマーケティング課題を解決するサービスを扱う 320社*が
日本中から集結する3日間です。まずは、どんな展示会かチェック!
★詳細はこちら ≫ 
https://www.sp-world-spring.jp/rlp_jmw_4_1217/


*最終見込み数

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