おやつカンパニーが実践する「大手と戦わずして勝つマーケティング」とは
誰もが一度は食べたことがある「ベビースターラーメン」。発売60周年を迎えたベビースターラーメンですが、単価が安くサイズが小さい、子どもが買う駄菓子、などの理由により売り場で目立つ場所に置いてもらえない、スナック市場の成長が見込めない、など厳しい状態だと言います。そんな状況下で生き残っていくために大事にしているのが「戦わずして勝つこと」。その全容をおやつカンパニーの髙口さんに伺いました。
株式会社おやつカンパニー
取締役 専務執行役員 マーケティング本部長 髙口 裕之様
大学卒業後、(株)中埜酢店(現Mizkan HD)に入社。営業からマーケティングへ。みりんグループ、たれグループのブランドマネジャーを歴任し、レトルト鍋つゆシリーズ、金のごまだれ等、多くの商品企画開発後、食酢グループマーケティング統括。MBA取得後、規格外農産物流通会社の起業や、食品マーケティングコンサルタントを経て、日系PEファンド投資先食品メーカー代表取締役に就任。バイアウト後、米系PEファンド投資先である(株)おやつカンパニーにて現職。
ベビースターラーメンを取り巻く状況
スーパーで夕食の食材などを買うときと、お菓子を買うときを想像してもらいたいのですが、買い方が異なると思います。例えば、お母さんが夕食をつくるために買うときは「子どもは何を食べたいだろう? 昨日はハンバーグだったから今日はお魚かな」みたいなことを想像をしたり、栄養バランスを考えたり、真面目かつ真剣に選びます。
対して、お菓子を買うときにここまで考えて選ぶことはないですよね。お菓子は、商品名やパッケージの大きさなどが決まっていて指名買いされる「計画購買」より、売り場で目にしたもの、そのとき安かったものなどを購入される「非計画購買」が高いジャンルです。
そうなると、普通に棚に置いてもらうだけではなく、特売品などが置いてある目立つ棚である通称「エンド」と呼ばれる場所に積まれるかどうかで売上シェアがかなり左右されます。ですが、ベビースターラーメンは駄菓子というジャンルなので、ざっくり言えば子どもが買うもの。1個30円くらいの商材なので、わざわざそれに力を入れてエンドで売ろう、数をたくさん捌こう、とはならないんですね。
それ故に、非計画購買の性質が高いのに、目につくところに置いてもらえず、お客さまが目的意識を持って棚にまできてくれないと売れない、というのがベビースターラーメンや駄菓子の状況です。
私は講演会などで話をさせてもらうときに、「ベビースターラーメンって知っていますか?」と聞くことがあります。そうすると皆さん「はい」と言ってくれます。「食べたことはありますか?」と聞いても「はい」という返事が多いです。そこから「昨日買いましたか?」と聞くと「いや・・・」となり、「最後に買ったのはいつですか?」に対しては「そういえば最近買ってないな・・・」となります。認知はあるし、食べたこともある、しかも嫌いじゃない。ですがいつも買っているかというと、数年買ってないな、というのがベビースターの状況でした。
マーケティングは「戦わずして勝つこと」
私は「戦わずして勝つ」ことをするのがマーケティングだと考えています。これは私だけが言っていることではなく、ピーター・ドラッカーも「マーケティングの理想はセリングをなくすこと」だと言っています。セリングを無くすということは、「買ってください」と売り込まずとも売れていく状況をつくれればいい、ということ。要は「これをやろうとしたらこの商品しかない」という状況をつくることができれば、黙っていてもお客さまは来てくれますし、そこに戦いはありません。勝負をすると、勝者と敗者が出ます。でも、戦わなければ基本的には負けもなくなり、市場をほぼ独り占めできるわけです。
戦わずして勝つには、3つの方法があると考えています。
・1つ目は、自分を差別化する「セルフチェンジ」。商品自体をリニューアルしたり、新商品を出したりして既存市場では競合と同じ相撲を取らない方法です。
・2つ目は自分が差別化されて見える環境に移動する「マーケットチェンジ」。既存市場にこだわらず、自分の強みを最大限に活かす土俵を探す方法です。
・3つ目は、戦いのルールを変えてしまう「パーセプションチェンジによるゲームチェンジ」です。世間に何らかの情報を流すことによって、「こういう観点で商品を選ぶと良い」といった新しい基準をつくり、ルールを変えていく方法です。
おやつカンパニーでは、ベビースターラーメンを「マーケットチェンジ」と「パーセプションチェンジ」で、お菓子を選ぶ際の幅を増やし差別化をはかりました。
ベビースターラーメンは即席麺のかけらです。ということは、ベビースターラーメンはお菓子ではなく食品とも言えます。そうであれば、「他の食品との相性が良いのではないか?」と考え、「料理にベビースターラーメンが使えるのではないか?」と仮説を立てました。
調べてみると、ベビースターラーメンが食品と相性が良いということに気付いているお客さまも既におり、レシピサイトではベビースターラーメンを使ったレシピが多数掲載されていました。そこで、マーケティング方針が固まり、プロモーションを展開しました。
実用性のある情報をマーケティングの中にのせる
ベビースターラーメンが料理に使えるというプロモーションを行う中で、「アセット化」を大事にしました。 アセット化は、1つの広告を長く使うということではありません。「1回だけ接触させればお客さまが忘れないプロモーション」ということです。
流行りもの、面白可笑しいもの、そういったコミュニケーションは、その波が終わると忘れられてしまいます。ですが、自分にとって「良いことを聞いた」「これは使える」という実用的な情報が載っていると、お客さまは忘れにくくなります。自分では当たり前に使っているライフハック的なことを「それいつ知ったの?」と聞かれて、「何年前かな? 誰々に教えてもらったんだよ」みたいなやりとりをしたことはないですか?
それと一緒です。そういうお客さまにとって実用性があるプロモーションやマーケティングができると、1回だけお客さまに接触できればいいわけです。あとは、思い出してもらうために前より少ない予算で展開すれば良いので、毎回花火をあげる必要はありません。
食品は商品というよりメニューを売っています。献立に困っている人にとってそのメニューが良いものであれば忘れなくなりますし、そのメニューで家族が喜んでくれたら定期的にメニューをつくるようになりますよね。そうすると、その食品も忘れられなくなります。
ベビースターラーメンでも料理に使えるレシピを提供して、実用性のあるプロモーションを展開しました。ベビースターラーメンがサラダに使えるとなれば、お菓子以外に食品としての選択肢が増えて消費が増えます。消費が増えるということは、買う頻度がはやくなるので我々としては売り上げが底上げされるわけです。また、競合とも差別化ができているので戦いもありません。
さらに、レシピを気に入ってもらえれば忘れなくなるのでコミュニケーションコストが削減され、その分利益も増えます。お客さまも喜んでくれていて、我々も利益が増える、こんなに良いことはないと思います。
eスポーツでの取り組み
戦わずして勝つ方法は、時代によって常に変わっていきます。我々は、2018年3月にeスポーツチーム「名古屋OJA」のシャドウバース部門のオフィシャルパートナーとなりました。まだeスポーツがここまで盛り上がっていない頃から支援をさせてもらっています。
なぜeスポーツに取り組んでいるかといえば、デジタル世代の人たちの象徴的なコンテンツの1つであることと、eスポーツ自体がメディア、情報のプラットフォームになり得ると思っているからです。
マーケットの原理と同様に、早期に参入するからこそメリットは大きいと思っています。eスポーツがさらに伸びていく中で、自然と我々の知名度も上がっていくはずです。とはいえ、まだまだeスポーツの知名度も低いので、現在は1チームをしっかりと応援して、チームとリーグの認知を上げることを目指しています。
また、チームの支援だけでなく、eスポーツに関連した商品開発も視野に入れています。ベビースターブランドではない展開も考えており既に着手しているので、我々の今後の展開にぜひ注目ください。
その他のインタビューは、マガジンよりご覧いただけます。
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